CSRパーパス

CSRとパーパス

CSR界隈でも「パーパス(Purpose)」という概念をよく見聞きするようになり、「ブランドパーパス」や「パーパスブランディング」という手法も一部で議論されるようになりました。

外資系、特にアメリカ企業などでは多い印象です。ここでいうパーパスとは「目的」よりは「存在意義(自社が存在することで社会・ステークホルダーに貢献できること)」の意味で使われます。パーパスは自社の存在意義であると同時に究極的な企業としてのあり方でもあるのです。

世界最大の機関投資家であるBlackRock・CEOであるラリーフィンク氏の言葉を借りれば、パーパスとは「マーケティングやキャンペーンではなく“企業の基本的な存在理由”」であります。

というわけで、本記事ではCSR実務とパーパスの関係性についてまとめます。

目的の明確化

そもそも、なぜ企業に存在意義が必要で、それを社内外に開示しなければならないのか。

たとえば、具体的な施策は外から見えるけど、目的は(結果や手段ではないので)外からは見えないので、組織側から積極的に開示してもらわないと、ステークホルダーは知ることができません。

また評価という視点で考えると、具体的施策は目的を達成できたかで評価するので、目的を知らずして施策の良し悪しは評価できません。ですので、組織がどういう目的でどういうCSR活動を行ったかを開示しない限り、ステークホルダーはCSR活動の正しい評価をできません。

CSR活動の効果測定の話になると、いわゆる広報やブランディングの成果指標を掲げる企業があります(いまだに多いです)。もちろん、そういった成果も期待できるので間違いではありませんが、それだけではCSRである必然性がありません。ブランディングしたいなら、CSRから始める必要はなく、ブランディング施策を直接したほうが成果が絶対上がるからです。

やはり、CSR活動は「パーパスの実現に対してどれだけ貢献できたか」を最終的に計測すべきですし、パーパスを一つのゴールとして、アクションとの整合性を、社内外のステークホルダーに積極的に伝えるべきです。その変化に貢献できた数字こそが社会的インパクトになると。

理念体系の目的の方向性の話をしますと、パーパスは、なぜその企業が世の中に存在するのかという意義を問う「Why」をまとめたものです。ミッションは任務などの意味を含み、目指す状態に向けて何を行うべきかの方向性、すなわち「What」を示すものです。

ブランディングとしてのパーパス

一方で、消費者が企業やブランドに求める役割が変化しつつあるように思います。ブランディングは専門ではないので、概要だけとなりますが、企業のあり方を示す「ミッション」「ビジョン」「バリュー」は知られていますが、近年はこの理念体系(経営理念)にパーパスが加わりパーパスブランディングが注目されている側面もあります。

CSRでもパーパスブランディングの話題がちらほら聞かれるようになり、正論としてはごもっともなのですが、「パーパス=社会性の高い理念=CSR」というわけではないので、ブランディングやマーケティングからCSRに入ろうとする人は、そもそもCSRをもっと学んだ方がよろしいかと。パーパスの社会性にCSRがひっぱられすぎると、CSVの議論のように、リスクマネジメントなどのサステナビリティのベースになる概念が抜け落ちてしまうことが多いので注意が必要です。

そもそもCSRとは「信頼される企業になる」ために行うものです。ステークホルダー(株主・投資家、従業員、求職者、顧客など)に信頼されない企業は、社会存在する意味がないからです。極論、ステークホルダーから信頼されないブラック企業は、社会からなくなることが最も社会のためになるという。このロジックをまず理解することで、CSRとパーパスブランディングの整合性がより高められるでしょう。

まさかとは思いますけど、パーパスのみでコーポレートブランドがつくれるなどと、ブランド論の幻想に惑わされていてはいませんよね?

パーパスのイメージ

これほど、パーパスがCSRでも重要視されるようになったのは、いくつか理由があります。

これはマクロな視点でみれば価値創造の源泉が、プロダクト/サービスからコンテクストに移り変わりつつあるろいうことがあります。あるプロダクト/サービスを具現化した瞬間、コピーすることができるようになってしまっているからです。コンテクストはさすがにコピーできません。

プロダクトを真似できても、人や組織文化はコピーできません。つまり、要素でいうと、コンテクストこそがオリジナリティなのです。でこのコンテクストはパーパスに近しいものになります。言い換えれば、パーパスは「自社がなくなったら、社会はかけがえのない何を失ってしまうのか」といった企業固有の理由(存在意義)を指すのです。

上場企業でこれからCSRを始めるという企業の役員会等で、話をさせていただいた時によくされる質問が「理念を重視する経営でどう儲けるのか」です。逆にいえば「CSR(≒パーパス、長期視点の経営方針)で飯は食えない」という趣旨の話でもあります。リターンが明確でないものに投資はできないのです。しかし逆に「経営に必要なのは志(ビジョン)である」と公言する経営層もまたたくさんいますので、どちらが良いという話ではなく、経営層が社会という存在に気付いているかどうか、の差だけな気もします。

パーパス・オリエンテッド・アプローチ

パーパスのイメージは個人的な意見ではありますが、たとえば、社長が「今期の年商100億円」を望んでいても、従業員は望んでいない、もしくは無関心である場合、その目標が従業員を動かすのはほぼ不可能です。できたとしてもコストも労力もかかり、経営は非常に複雑になります。しかし、多くの従業員も同じように望んでいたら、従業員はいわれなくても自分で100億円達成に向けて考えて動くので、経営の方向性がシンプルになります。 この「社長も、従業員も望むもの」が理想的なパーパスであります。

社会に存在するうんぬん…もいいですが、まずは最も近いステークホルダーである、従業員が共感でき一緒に目指せるパーパスである必要があります。そして、この延長上に「ステークホルダーが共感できるパーパス」があり、それを作っていきましょうよ、という話です。

そのヒントになると思うので紹介したいのが、私が以前から提言しているパーパスに関するフレームワークが「パーパス・オリエンテッド・アプローチ」です。私はいつも時代を先取りしているので、CSR界隈のみなさんが「これはからはパーパスだ!」と叫ぶ何年も前から、パーパスは重要だと言っています。

CSRパーパス

上記のような図解で説明することが多いです。これは簡略化したものなので、実際にはもう少し細かいものになりますが、これだけでも十分な思考実験ができるでしょう。参考にしてみてください。

まとめ

パーパスは、CSR推進において重要な要素となるのは間違いありませんが、今、現在進行形で起きているSDGsウォッシュのように、「うわべだけのパーパス推進(パーパスウォッシュ?)」が起きないことを願っています。パーパスは重要ですが、パーパスも企業経営における一つの要素でしかありません。

物事は複雑に絡み合っているわけで、パーパスだけ綺麗に整えばCSRがうまく進む、というわけではありません。とくに、CSR文脈でブランディングの話題がでてきたら要注意です。ご参考までに。

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