CSR/ESGにおいてなぜKPI特定を間違うのか

CSR-KPI

CSR/ESGのKPI特定

セールスやマーケティングでは当然のように設定されるKPI(重要業績指標)ですが、ここ数年で、日本企業のCSRでも随分浸透してきたように思います。しかし、本当に有意な指標であるかというと、難しいです。

通常の戦略策定でいえば、

パーパス(ミッション/ビジョン/企業理念)→ マテリアリティ特定→ KGI/KPI特定

となりますが、実は多くの企業が

KGI/KPI特定→ マテリアリティ特定→ パーパス(ミッション/ビジョン/企業理念)

のような流れにしているのです。CSR/ESG/SDGsなどでも同じです。

極端な話、CSRのKPIを達成しても、なんの企業価値にも貢献できない、そんな残念な状況があるのです。それは、活動や開示項目ありきで進めているからです。では、KPIはどのように考えれば良いのか。まとめます。

CSRと成果の誤解

今から、誰もが薄々気づいているけど、誰も口にしないこといいます。CSRの戦略や活動と、事業成果みたいなものとの因果関係は、実際はほとんどが証明不可能なんですよね。偉そうにCSVと言っている企業も、ほとんどが普通のビジネスを無理やりCSVと言っているだけ(表現上の問題)、なのです。

その前提の上で、おそらくここがレバレッジポイントではという目星を付け、皆が分かりやすく目指せる旗印としてKPIが設定される、というイメージです。CSRの社会的・経済的な効果測定も日々研究されているようですが、実際は怪しいものも多いです。仮に因果関係が明確にできても、再現性もないものをどうしろと?という話です。測定しても、それを何かの意思決定に反映できないのであれば、まったく意味がありません。とはいえ、KPIがまったくないと進む方向がわからず困ってしまいます。ですので、詳しくは後述しますが、KPIという指標を柔軟にとらえる、という方法もあるかと思います。

CSR推進というのは、企業組織という大きなチームワークの中で成り立っています。どんなに良いCSR施策があっても、組織全体で関わることがなければ、CSR担当者のだたの“独り言”にしかなりません。単純な話、CSR担当者の努力だけで、自社のCSRが進むということはありません。

また、担当者のあなたが努力しても変えることができないKPIを、あなたは負うべきではありません。それはKPI設定が間違っています。たとえば「女性役員数」とかCSR部門の努力でどうこうなる指標ではありません。しかも、女性役員数が増えたところで、直接売上があがることもありません。ではなんで女性役員数(女性取締役数)が指標になるかというと、評価機関や機関投資家の評価指標だからです。「評価してくれるステークホルダーの評価項目」がいつの間にか、企業のKPIになるというのが現実です。

ではCSR施策におけるKPIはどのようなものがよいのか。企業ごとのマテリアリティもあるので、一概には言えませんが、絶対的に共通しているのは、前提条件として「指標特定と効果測定に関して社内で議論できる環境にあること」です。CSR推進のKPIなんて絶対的な答えはないので、社内で徹底した議論を行う必要があります。パラドックス的ですが、その土壌があれば、KPIも自ずと正しい方向に定まっていくのかなと思います。

KPIで「どうしてその項目になってしまったのか」というのは実はよくあります。大企業での社内同意でそれしか開示できないとかが主な理由なのですが、マテリアルではないというか。たとえば、統合報告書などで「主要非財務KPI」という指標を目にしたことがあると思います。ただ、外部のステークホルダーとして思うのは、その非財務データがどんな財務パフォーマンスに影響しているのかまったくわからないことです。しかも、本人たちでさえわかっていないのです。

データを見る時の罠は、結果論に因果関係を見出してしまうこと、です。たとえば、ある商品の顧客を分析したらたまたま関東近郊の製造業が多かったとしても、その商材が「関東近郊の製造業だから買う」とはならないのですが、そう判断して安易にメインターゲットにしてしまうとか。「意味のある行動」をKPIにできないと、どの業績にも貢献しない目標を1年中追い続けることになってしまうでしょう。

KPIの弊害とデメリット

これはまだ確定ではないのですが、KPIはCSR進行管理に向いていないのではないかと感じています。KPIは部分最適に向いるものであり、各部署が一丸となって目標を達成しないといけない邪魔をする存在だとすら思っています。特に社外のインパクト測定も重要なCSRでは、KPI設定は個別施策に固執してしまう原因にもなりうるのではないかと。CSR先進企業をみていると、KPIも重要なのですが、パーパスと企業理念とかもっと大きなゴールを定めておいて、個別の活動は柔軟に実施していることが多いです。(拙著「創発型責任経営」参照)

たとえば、各部署ごとに上から与えられた全てのKPIを達成しても、KGIが達成できない場合があります。CSR部門がどんなにがんばってKPIを達成したところで、ビジネス上のゴールに到達できなかった、ということです。なかなか難しいですね。逆に、たとえば、CSRのKPIを最大化しすぎると、情報開示を担当する広報部門に負荷がかかりすぎてしまい、業務効率が落ち生産性が下がってしまい、組織全体の広報活動がうまくいかなくなる、など。

KPIの一番の問題は、ビジネスモデルを“線”で追えなくなることです。KPIは文字通り成果指標(パフォーマンス・インジケーター)であり、ある施策の、その瞬間の結果でしかなく、ビジネスプロセス全体の成果最大化につながるとは限りません。

KPIの弊害は、費用対効果の計算にも現れます。本来は線(フロー)で見なければならないビジネスを、点で計測しているおかげで、現場は部分最適に走りやすく、成果の判断も誤りやすいのです。大事なのは実施プロセスのボトルネックを明らかにして、地道に改善活動を繰り返すことです。「KPIを達成したけどKGIを達成できなかった」というのははまさに、ボトルネックを考慮しきれなかった、つまりフローで追い切れていなかったからとも言えます。

CSR活動のアウトカムが決まっていて、KGI/KPIが確定しているPDCAサイクルは「システム」に近い働き方であり、特にコロナショックで不安定になっている社会環境ではフィットしにくく、現場の変化に合わせた柔軟な取り組みのほうが成果がでやすくなります。これは拙著『創発型責任経営』で詳しくまとめています。

基本的にはどんなKPI設定が優れているという話ではなく、社会やステークホルダーの変化に合わせて、どんな戦略をとるかを常時意思決定していけばよいかと。ですので、基幹的なCSR活動はシステマチックに対応し(コーポレートガバナンスなど)、表層的なCSR活動は柔軟で弾力的に、現場で直接意思決定をしながら成果の最大化させていくと。

KPI事例

仮にここでは、子供に「算数ができるようになる」という目標を設定したとしましょう。しかし、たとえば、KPIとして「累計勉強時間」というわかりやすい指標管理するだけで「算数ができるようになる」でしょうか? なりませんね。累計勉強時間は一つの重要指標ではありますが、すべてではありません。ビジネスパーソンの資格取得の学習目安時間も同じです。1,000時間が資格合格目安と言われても、500時間の学習で合格する人もいるし、1,500時間の学習でも合格できない人もいます。つまり、このKPIは単独では意味をなさない指標となります。KPIをマクロでみれば、他のKPIとの整合性も考慮しなければなりませんね。

「算数ができるようになる」というゴール自体が、定量化しにくいし目に見えにくいけれど、好奇心、粘り強さ、論理的思考力、創造力、親の態度、机の整理整頓、家庭教師の存在、塾通学、生活態度(適度な睡眠、適度な食事、適度な運動)、家庭の経済力、ライバル/ロールモデルの存在、など様々な側面のKPIを想定して、それを伸ばすように指導していくほうが成果を上げられるでょう。

当然、それらの指標を想定・管理しておけば「算数ができるようになる」ことに大きな影響を及ぼすKPIが見えてきます。ここで初めて成果を求めるフェーズに入ることができます。たとえば、「よく寝ること」が「算数ができるようになる」に大きな影響を与えているとわかれば、睡眠時間の確保(体調管理)をKPIにすれば良いのです。

CSR活動も同じです。大して活動をしてこなかったのにいきなりKPIを設定すると大概失敗します。マテリアリティに対して、仮のKPIはおくものの、半年から1年で見直し、事業の成果に貢献する最適な指標を見つけていきましょう。

まとめ

評価思想(KGI/KPI特定)は経営方針や企業文化に従う。

成果指標や活動評価方法を考えることは、極端な話、企業文化や組織構造を規定するものにもなる、ということです。たかがKPIされどKPIです。昨年も測定・開示したからという理由でKPIを決めていませんか?

アフターコロナのCSRは、今までになかった社会課題が顕在化していますし、今一度、決めているKPIが正しいものなのか、見直しが必要と言えるでしょう。

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