なぜマテリアリティ特定に有識者/専門家が必要なのか

マテリアリティ

マテリアリティの特定

一昨年くらいから、コンサルティング案件として「マテリアリティ特定」のご相談を受けることが増えています。新規のマテリアリティ特定よりは、すでにマテリアリティを特定している企業の見直しのサポート、をすることの方が多くなってきているイメージです。

一応、私もCSR/サステナビリティ分野では専門家/有識者(キャリア10年以上でCSR経営に関する書籍を出版している)として活動しており、コンサルティングでも、マテリアリティに関する業務も定期的にやらせていただいております。

しかし、さすがにそれをマテリアリティと言っては良くないのでは?という「なんちゃってマテリアリティ特定」が、多くの企業で行われており、もったいないというか、それを戦略とは言わないのではないか、というレベルの事態によく遭遇します。これは担当者の方のせいではない場合も多いのですが、正直申し上げると“ダメ”です。

そこで本記事では、マテリアリティ特定および分析に関する基本を再度確認し、見直しのヒントになるフレームワーク等を紹介します。

定義

マテリアリティとは「組織とステークホルダーにとっての重要課題」という理解が一般的かと思いますが、様々なガイドラインが定めているマテリアリティは、それぞれ解釈や表現が異なります。GRIはマルチステークホルダー的だし、IIRC/SASBは投資家目線が強いというか。例えば以下のような定義になります。

■GRI
報告組織が経済、環境、社会に与える著しいインパクトを反映する項目、またはステークホルダーの評価や意思決定に対して実質的な影響を及ぼす項目

■IIRC
組織の短、中、長期の価値創造能力に実質的な影響を与える事象に関する項目

■SASB
欠けていた情報がもし開示されていたとしたら、合理的な投資家が利用する情報の位置づけを著しく変更していた可能性が大きい項目

考慮すべき点

では、マテリアリティの特定要素についての振り返りを。GRIでは以下のようなことが言われています。当たり前ですが、非常に要点がまとまった要素になっています。原則としてこの8要素はすべて満たさなければなりません。

・その分野で認められた専門知識を持つ個人、または認められた資格を持つ専門団体による十分な調査により特定された合理的に推計可能な経済、環境、社会へのインパクト
・従業員や株主など、組織に具体的に関与したり、投資を行ったりしているステークホルダーの関心や期待
・従業員ではない労働者、サプライヤー、地域コミュニティ、社会的弱者、市民社会など、ステークホルダーによって提起された、より広範な経済、社会、環境への関心事および項目
・同業者や競合企業によって特定された、業種内の主要項目および将来的課題
・法律、規制、国際協定、または組織とステークホルダーにとって戦略的重要性を持つ自主協定
・組織の重要な価値観、方針、戦略、運営管理システム、 目標、ターゲット
・組織のコア・コンピテンシー、およびそれが持続可能な発展にどのように貢献するかについての方法
・組織による経済、環境、社会へのインパクトに関連して、必然的に組織に生じる結果
(GRI:101,基礎2016)

専門家の存在

では、そんな「なんちゃってマテリアリティ」をどう改善すればよいか。結論から言えば、見直しをする時に専門家/有識者を使えということです。

ポジショントークと言われれば否定はできませんが、GRIの言う「その分野で認められた専門知識を持つ個人、または認められた資格を持つ専門団体による十分な調査により特定された合理的に推計可能な経済、環境、社会へのインパクト」を考慮しないマテリアリティは、しょせんジョブローテーションでたまたま担当することになった“CSRの素人”が決めたものでしかありません。

たまに「?」という自称専門家の方もいますが、この業界で名前が知られている人の多くは、毎日相当な情報収集をしていますし、現場での最新情報にもふれている、まさに専門家です。企業の担当者を支援する立場だけあって、圧倒的な知識を持っています。だからお金を払ってサポートをしてもらう価値があるのです。

「専門家/有識者の意見を聞く」は、マテリアリティ特定において想像以上に重要です。言葉は乱暴ですが、CSR在任期間が短く、社内外でもプロフェッショナルではない担当者は、どこまでいっても素人です。社外のCSR/サステナビリティの専門家として名前が挙がる人の意見を聞くべきでしょう。(これはポジショントークではなくGRIが言っていることです)

マテリアリティ特定の妥当性

マテリアリティを決めるということは、企業が社会/ステークホルダーに対する約束を宣言したものとなります。しかし、その「重要な要素」の妥当性を考えると、なかなか悩ましい課題も現場にはあります。

例えば、マテリアリティに「環境」があったとしても、環境活動はすればするほど新規でやることがなくなってきますので、マテリアリティだとしても、実践ではあまり重要視されないことも現実問題としてあります。実践の中心にないのに、マテリアリティというのも本来はおかしな話ですが、そんな簡単な話でもありません。

ほかにもサステナビリティ領域の評価は、単位が異なるということも分析の難易度を高めています。例えば「二酸化炭素排出量を○○トン減らしました」と「途上国の識字率を〇〇%増加させました」ということは、成果の単位や方向が違うのでどちらのほうが活動として優れている(社会に貢献している)とか、インパクトの順位付けを客観的に行うことは困難を極めます。いわゆる Apple to Apple ではない問題がたくさんあるのが非財務領域だったりしますので。

極論、本来的には環境活動と貧困対策のCSR活動としての優劣などつけられないのです。逆につけている企業があれば、それは理論的には“嘘”なわけです。そのようにして矛盾してしまうようなテーマにも、優先順位を明確にしなければならないのがマテリアリティ特定です。そりゃあ、第三者の専門家がいないと決められませんよね。

マテリアリティへの取り組み実態

東洋経済の調査によれば、マテリアリティの設定に対して「あり:50.1%」「なし:39.3%」「設定予定:8.8%」(全体=1,074社)となっています。

東洋経済のCSR企業調査は、上場企業を中心に、それなりにCSRに積極的な企業が回答しているのですが、その中でも半分しか設定できていないというのは、私は少ないと思うのですが…。

逆に500社弱はマテリアリティの特定/設定はできていると。これも興味深い数です。2019年の統合報告書発行企業数が500社弱と言われているのです。数としては、統合報告書を発行するレベルの企業ではマテリアリティは認知され特定されているが、非財務情報中心のCSR/サステナビリティ・レポートを発行するだけの企業では、まだまだのところが多い、みたいな推測が成り立ちます。興味深いですね。

ちなみに「マテリアリティは毎年変えるべきか」という質問を時々もらいますが、私は「毎年必ず“見直す”べきだが、検討した結果変更が必要なければ変える必要はない」と回答しています。

引用:東洋経済新報社「CSR企業白書2019」

まとめ

本記事でまとめたものがすべてとは言いませんが、マテリアリティはCSR戦略そのものであり、なければ必ず特定すべきだし、あれば毎年何かしらの形で見直さなければならないものです。そのために、有償・無償問わず、専門家/有識者の意見を踏まえながら、舵取りを適切に行なっていくべきなのです。

マテリアリティは、CSRだけではなく事業戦略とも整合性がなければならず、日本企業でいう中期経営計画と高い連動性・整合性が求められます。ただ、CSR担当者だけで企業の経営戦略を決められるわけでもなく、年単位での根回しや社内交渉が必要となるため、CSR担当者の業務内容としては難易度は高い部類に入るでしょう。

不明瞭なマテリアリティは百害あって一利なし。そろそろ“なんちゃってマテリアリティ”から脱却して、真の意味で社会の役に立つCSR活動をしようではありませんか!

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