CSRとKGI/KPIの関係性

CSRとは「ビジネスのゴールを決めること」であり「ビジネスアクションの線引きをする」でもあります。最近では、前者を「KGI(重要目的達成指標、成果指標)」、後者を「KPI(重要業績評価指標、行動指標)」と呼んだりします。

ビジネスにおいては財務的側面の目標もありますが、これはゴールではないと考えています。企業のゴールとは定性的なものであるはずです。例えば「ミッション」や「企業理念」です。企業の存在意義は企業理念の達成しかありません。目標設定は意思があってこそ意味があるというか。たとえば「中長期的には絶対正解なのに短期的にはそれなりのコストがかかる施策を来月実施できるかどうか」という課題は、その企業がどこにゴールを設定しているかによって決めるのがセオリーです。

さて、というわけで、最近質問されることが増えてきたので、本記事ではCSR活動における目標設定の考え方についてまとめます。

ちなみに「CSR活動を一通りやっていて、次に何をすればいいかわからない」とおっしゃるCSR担当者の方は多いですが、単にKGI/KPIが設定できていない、もしくは設定できているが間違っている、という話だったりします。

KGIのないKPIは意味がない

「短期的な勝利」が「長期的な敗北」につながることもあり、直近の成果が半永久的(サステナブル)に生み出されるわけではない中、何年後にどんな成果を見込んで今のCSR活動をしているのでしょうか。

CSRカテゴリはKGIのないKPIが多すぎます。ゴールが曖昧なのにKPIは決められないはずなのですが。KGIとKPIは「事業における重要事項を決め実行する(= KPI) → 事業計画の達成(= KGI)」という関係性です。ですので、KPIとは「特定の数字」というよりも「事業プロセス」を見るというのが本質的です。

ゴールがないのにKPIが決められている企業はとても多いです。毎年、何百社かのウェブコンテンツやレポートを読みますが、もう本当に…。

PDCAと連動していない

日本ではPDCAやKPIに関する本が多く出版されており、ビジネスマンが実績を出そうと思えば、KPIをきめてPDCAサイクルを回すことが、金科玉条のようになりつつある。ただ、PDCAサイクルは「正解」が見えた領域で使うと威力を発揮します。今の時代は先行きが不透明な時代であり、すなわち何をやるのが正しいか分からない時代なので、固有のKPIやPDCAサイクルにこだわり過ぎると成果が生まれにくくなります。

「行動する」ところで思考がストップしていて他のパターンほうが良かった理由までを考えない場面をよくみかけます。行動指標そのものがKPIとなっているので誰もそれ以上考えないのです(上司もそこを求めない)。しかしそれでは改善をしようにも何も出来ません。CSRでは「インプット→アウトプット→アウトカム→インパクト」まで追わなければ、社会の変化まで測定できません。KPIは通常アウトプットにおける指標です。KPIにはこの種の思考停止が付きまといます。指標を決めたがために罠にはまってしまう。「策士、策に溺れる」ですね。

加えて「失敗」をPDCAに含めないのも問題だと思います。ものごとのほとんどは思い通りに進みません。自分自身でさえコントロールが難しいのに他人や社会が100%思い通りに動いてくれることは、残念ながらありません。もしそうだったら、世界で倒産する企業はゼロになってしまいます。そんなわけないですよね。だからこそ、余白をもったり、実行案のサブとしてプランBをなんとなくでも考えておくなどが必要になっています。それらの不確実で不確定要素が強いビジネス環境だからこそ、レジリエンスをもって柔軟にKPIをコントロールしながらオペレーションの管理をしましょう。

弾力性のあるKPI

CSRといえど経済合理性のあるKPIを設定すべきだ。そんなことを言う人がいます。CSVやSDGsの推進派閥の方に多いです。経済合理性のあるKPIはそもそもCSR領域の話ではないので、なんでも最終的にCSVやSDGsに落としこもうとすると無理が生じます。

間違いではないですけど、経済的な側面が強いKPIを重視すると規模拡大といった、CSRの本質と異なる実行手段を選択してしまう可能性があります。ゴールは明確にする必要はありますが、そこまでの道のりを1つだけに決めてしまうと、他の方法論が選択できず「一度決めたからやるしかない」となり、リスクにも機会創出にも対応できなくなりがちです。現在の価値を内在化しその価値を理解した上でアップデートすることが重要です。レジリエンスが重要ともいえます。

KPIは、経営の取り組みの進度を診断するツールとして割り切って測定し、PDCAをまわすのが重要と思う。ブランド価値の議論と一緒で、業績との因果関係が完全に見えないから取り組まなくて良いのか?というと、そういうものではなく、影響関係があるなら意識して取り組むべし、なんですよね。経営の実際では、検証されてないから取り組まないでは、手遅れなこと多いし。

誰のためのKPIか

御社のKPIはステークホルダーに価値提供できるものになっていますか?

最近は、CSR活動のKPIを作り開示する会社も増えていますが、内容をみると精神論でとどまっているところがあります。あるいは定量化しやすい項目だけKPIにしている会社もあります。自分の都合の良いところだけ情報開示していると、CSRでは「チェリーピッキング」とか「〇〇ウォッシュ」なんて揶揄されてしまいます。

ESG評価などでは特にサステナビリティ領域のKPIを策定し発展させてほしい的な視点もありますが、そういうプレシャーが続くと、社会やステークホルダーのためというよりも、自社のための対外的な見せ方としてのKPIという側面が強くなってしまします。

例えば東洋経済新報社のCSR企業評価で上位の企業であっても、個別のKPIを確認すると、KGIは明確になっていないし、ステークホルダーのメリットにつながるであろうKPIが設定されているわけでもなかったりします。実践に関するKPI設定が本当に価値創出(アクトカムおよびインパクト向上)に貢献しているか測定できていないのでしょう。調査してみると相関がある数字でも因果関係の証明はできないと。ではそれをKPIにする意味あるの?と。

たとえば、営業担当は「売上のために製品の在庫を切らしたくない」、サプライチェーンでは「キャッシュフローを改善するために、在庫を少しでも減らしたい」など、実際には同じ社内にあっても異なるKPIを持って動いているのが現実です。ですので、CSR固有のKPIが組織のポジティブなインパクトが出せているか、副作用として他の部門と利益相反する項目になっていないか、などを入念に確認する必要があります。

マネジメントクラスであれば、会社が掲げる目標は他部門も協力して成し遂げなければいけないという理解があるので、前提の説明は不要です。ですが、レイヤーが現場に近づけば近づくほど、全体最適ではな部分最適のより狭いKPIを持ってしまうので、議論がかみ合わないことも多くあります。これが俗に言う縦割り組織の弊害です。

また、CSR活動は、KPIとして活動の軸にして無理にPDCAに組み込みこむと、中長期的には失敗する可能性が高いです。従業員にやらされ感がでるからです。そもそも従業員満足度がが低い会社で、なぜ他部署のために自分にメリットのないCSR活動をしないといけないの?と。ESが目標ラインにいけば興味がある人の後押しする仕組みをつくると上手くいく可能性が高いのですが…。KPIはプロセス全体でみないとダメというのは、こういう理由もあります。

目的から考えるKPI

CSRは部門をまたぐ活動もあり、一つの部門でだけで完結しないことが多いです。また、なぜ自分は、あるいはなぜ我が社はその数値を目指すのか、そのことが社会や自分にどんな意味や価値をもってつながっているのか、その数値目標を達成するとどこの誰が喜んでくれるのか。目的が語られてこそ数値目標は生きたものになります。

数値目標はあるが目的のないCSR活動になっていないか?この疑問を正しく投げかけられるのは現場ではなくCSR部門だけです。部分最適ではなく、CSR活動とその成果を俯瞰できるCSR部門だからこそ、マネジメントを真剣にやらなければなりません。

KPIは、マテリアリティが決まると自然に見えてくる目標なのですが、中には意味があるものとないものがあります。基本的にはKPIは自社だけで決めてはいけません。マテリアリティ特定プロセスでステークホルダーのニーズが拾えているとはいえ、再度、ステークホルダーや社会のニーズ・要請と合致しているか確認する必要があります。

よくいわれる手段と目的ですが、「目的」とは「ゴール」です。最終的に達成したいこと、やりたいこと、あるべき姿、などが目的とされます。「手段」とは「方法」です。目的を達成するための具体的な取組みです。

先日『「いままでのCSR」と「これからのCSR」の差』という記事にもまとめた、「パーパス・オリエンテッド・アプローチ」という、CSRの目的と手段を整理するフレームワークを紹介しました。そこでは「目的さかのぼり思考」という思考の整理と辿り方をまとめていますが、まさに「目的と手段」を定期的に整理する時に必要とする概念です。CSR活動は、企業のミッション(パーパス、あるべき姿)の実践がコンセプト(目的)にならなければなりません。

まとめ

CSR活動におけるKGI/KPIはどのように決めればいいのか。

決めるだけなら誰でもできますが、それが合理的であるものなのか、ステークホルダーに貢献できるものなのか、企業価値向上に貢献できるものなのか、などおさえなければならないポイントがたくさんあります。

このあたりは第三者の専門家を使い設定することをオススメます。アウトソースする予算も時間もない、という企業は……がんばってください。でも成果でないからって人のせいにしないでくださいね。

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