サステナビリティサイト

サステナビリティサイトの制作と運用

先日、私が代表のサステナビリティコミュニケーション協会から「サステナビリティサイト・アワード2025」を発表させていただきました。ニュースリリースの中でもコメントをまとめたのですが、もう少しノウハウ的なものをまとめたく、こちらの記事でまとめていきます。

実は、最近のご相談ベースで多いのはサステナビリティサイトの運用に関してです。統合報告書の第三者意見(非公開)のご依頼も多いのですが、最近はサステナビリティサイトの第三者評価も増えています。サステナビリティレポートを廃止するから、サステナビリティサイトに注力するため(リニューアルするため)に、第三者のフィードバックを受けるという、という企業もありました。

私はここ何年も日本の全上場企業のサステナビリティサイトを目視チェックしている、人類で唯一の人間だと自負しておるのですが、毎年約4,000社のサステナビリティサイトを定点観測していると、方向性がだいぶ見えてくるんですね。そのあたりもお伝えできるところをまとめていきます。

サステナビリティサイトの方向性

アワードのリリースより、総合コメントを引用します。まずはお読みください。

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今年の調査も評価の高い企業が多く、絞り込み作業が難しい場面も多くありました。統合報告書やサステナビリティレポートの作成にリソースのほとんどを使う企業も多い中、最近はすべてのステークホルダーと最初の接点となるサステナビリティサイトにも意識が向き始めているのか、開示レベルの向上が顕著です。今回のアワード受賞企業は全上場企業の1%程度ですが、今までサステナビリティコンテンツを準備してなかった企業、明らかに情報が不足していた企業なども開示するようになってきました。

最近のサイトでは、統合報告書では目立っていた「事業を通じた社会課題解決」から「事業を通じた企業価値向上」という傾向が見られるようになり、より成果(アウトカム)を意識した開示が増えています。2023年3月期からの有価証券報告書におけるサステナビリティ関連情報の開示義務化の影響や、有報や統合報告書との一貫性を考慮しての結果かもしれません。つまりサイトも「サステナビリティ関連開示」から「サステナビリティ関連“財務”開示」を意識したコンテンツ構成に変化しつつあるのです。

実は同じような傾向を見たことがあります。2019年ころからサステナビリティレポートから統合報告書に移行した企業が増え始めた当時の雰囲気に似ています。今も現在進行形の傾向ですが、サステナビリティサイトも単なるサステナビリティ活動報告から、より企業価値を意識した戦略的な開示に移行し始めています。何事も歴史から学ぶことは多いものです。変化の大きな時代の対策は「一年でも早く動き始める」のみです。試行錯誤回数は開示品質に比例しますが、サイトも大きな情報更新は年1回であり、試行錯誤の回数を増やすために1年でも早く動き出すしかないわけです。他に抜本的な改善方法はありません。

あとは、統合報告書やサステナビリティレポート発行企業では、自社従業員や専門家、制作会社からフィードバックを受けていると思いますが、サイトにおいても積極的にフィードバックを受けましょう。フィードバックを受けずに品質を上げることはできません。サイトのフィードバックも1年でも早く始め、1回でも多く受けるべきなのは言うまでもありません。

加えて、我々も社会の変化に合わせた調査方法を検討しています。評価手法については、ユーザビリティ/アクセシビリティの観点から、今後は「AIによる情報取得のしやすさ」も評価項目に加えるなど、サステナビリティデータの利活用の実態にそった評価も検討しています。あらゆる業種でAIによる企業サイトのデータ収集・分析が進んでいるためです。このあたりは確定次第、当社主催セミナー等でお伝えしていきます。

我々も試行錯誤しながら「評価されるべきサステナビリティサイト」を表彰できるよう努力してまいります。来年のアワードもぜひご期待ください。今後ともご贔屓によろしくお願いいたします。

※当社リリース「ESGサイト格付け「サステナビリティサイト・アワード2025」を発表〜上位は日本電気,三菱地所,サントリーなどの上場企業サイト調査」より引用

サステナビリティサイトの3つのポイント

1.ツールマップの整理

これはすべてのコミュニケーション活動に言えることですが「目標」と「主要読者/ユーザー」を明確にしましょう。最近は非財務情報の開示メディアが増えました。具体的には、制度開示/法定開示では有価証券報告書からコーポレートガバナンス報告書など、任意開示では統合報告書・サステナビリティレポート、サステナビリティサイト、IRサイト、などがあります。

これだけサステナビリティ関連情報が掲載されるメディアが増えると、欲しい情報を探すのが大変になります。私は、毎年全上場企業の約4,000社のサステナビリティサイトを定点観測しているので、どういう目次にどういうコンテンツがあるか感覚でわかるのですが、一般的な読者では絶対迷うよね、という構成や目次の企業があるのも事実です。メディアのコンテンツ構成を整理して「ツールマップ」(メディアの棲み分け図、編集方針の一部)を作りましょう。

ツールマップの有無も重要なのですが、メインはツールマップを考えること自体が、メディアの棲み分けの社内議論につながるという点です。ツールマップの「縦軸・横軸の指標」はどうするのか、ツールマップの「読者(利用者)」は誰なのか、ツールマップに「掲載すべき重要な非財務情報開示ツール」は何か、などです。メディアの棲み分けに悩む場合は「ツールマップの作成」から入ると、フレームワークの中で情報整理しやすいかもしれません。

2.目次づくり

これは統合報告書やサステナビリティレポートでも言えますが「目次づくり」(大見出し)は非常に重要です。これはサステナビリティサイトのWebデザインというよりは、自社は何を重要視していて、読者に何を知ってもらいたいのか、などのコンテンツ・コンセプトをいかに体現するかという話です。とはいえ、何をどう開示するかに迷っている企業の場合は、我々のサステナビリティサイト調査の評価項目を参考にしてみてはいかがでしょうか。絶対ではないもの開示の方向性はご理解いただけると思います。

<全体項目>
1. ガバナンス:サステナビリティ関連のリスクと機会を管理するプロセスおよび推進体制の開示がある
2. 戦略:サステナビリティ関連のリスクと機会が、組織の事業・戦略におよぼす影響についての開示がある
3. リスク管理:サステナビリティ関連リスクについて特定・評価・管理に関する開示がある
4. 指標と目標:サステナビリティ関連のリスクと機会を評価・管理するための指標・目標の開示がある
5. タイムライン:短・中・長期の時間軸ごとにおける、戦略・目標および活動・成果に関する開示がある
6. インパクト:経済的および社会的な活動・成果・変化に関する定量的な開示がある
7. ストーリーライン:「財務と非財務」など各情報のつながりが考慮され開示に一貫性がある
8. オリジナリティ:独自性があり自社の「強み」「らしさ」が表現できている
9. アクセシビリティ:あらゆるステークホルダーに配慮されたWebデザインである

<個別項目>
1. パーパス:理念体系および企業文化など組織理解のための情報が十分にある
2. マネジメント:推進体制、関連する各方針、中長期目標などが明確に開示されている
3. マテリアリティ:マテリアリティ特定過程および項目・KGI/KPIに関する情報がある
4. トップメッセージ:トップ(CEO)のコミットメントに関する情報が十分にある
5. エンゲージメント:ステークホルダーが特定されそのエンゲージメントに関する情報がある
6. 価値創造プロセス:経済的および社会的な企業固有の価値創造に関する情報がある
7. 環境:気候変動対応、生物多様性および環境領域全般に関する網羅的な情報およびデータがある
8. 社会:人的資本、人権、品質管理および社会領域全般に関する網羅的な情報およびデータがある
9. 組織統治:コーポレートガバナンス全般に関する網羅的な情報およびデータがある

参照|https://sustainability.or.jp/sustainability_website_awards2025/

3. AI対応

2025年2月現在、一定数の読者がサステナビリティサイトをAIによって情報収集しています。大手企業になればサステナビリティ関連のWebコンテンツだけで1,000ページを超えることもあり、AI等でデータ収集して要約なりなんなりするようになりますよね。

AIによるESG情報分析は専門ではありませんが、以前はサイトではなくPDFの読み込みがメインみたいなことでしたが、最近はサステナビリティサイトからも情報収集をするという人たちも増えています。投資家サイドでもサステナビリティサイトデータの活用を見聞きするようになりました。

一般的に言われているAI対応は「テキスト/数値を図にしない」「一文を短くする」「PDFにロックをかけない」「独自のフォントを使わない」などでしょうか。他にも細かいノウハウはあるのですが、これは別の機会に。私も勉強中ですが、サステナビリティサイトも読者にAIが入る時代になりました、と。ですので統合報告書やサステナビリティレポートだけではなく、サステナビリティサイトについても、制作会社の方に初期段階でAI対策をするよう依頼してください。

所感

何をもってしても、サステナビリティサイト運用もビジネスですから、「サステナビリティサイトの成果とは何か」を常に意識して、成果に貢献する運営が求められます。そもそも、何かしらの経営課題を解決するためにサステナビリティ推進活動およびサステナビリティ情報開示を行なっているはずなので、そのコンセプトが明確な企業では、サステナビリティサイトが果たすべき役割および成果もすでに明確になっているでしょう。

ちなみに、多くのサステナビリティサイト読者は、貴社のコンテンツを読みたいわけではありません。読者は「知りたいこと、が知りたい」だけなのです。貴社のサステナビリティサイトは、読者の「知りたいこと、が知りたい」という情報ニーズを満たせるものでしょうか

サステナビリティサイトは、あくまでもコンテンツ提供が目的ではなく、読者の課題解決や意思決定に関係する情報を提供することが目的です。今の文脈でいえば「マルチステークホルダー向けのコンテンツを軸に、投資家の情報ニーズも満たすコンテンツ」でしょうか。

私が全上場企業のサステナビリティサイトを定点観測して気になることは「情報を網羅的に発信する“だけ”の企業」が多いことでしょうか。情報量はサステナビリティサイトにおいて最重要ファクターですが、なぜだめかというと、理由の一つは「情報過多」だからです。

情報が豊富でも読者に認識されないものは「ない」のと同じことです。冊子は表紙(1ページ目)からほぼ順番通りに見てもらえますが(情報単位が1冊)、Webサイトの場合はトップページ以外順番通りに見てもらえません。情報は基本的にディスプレイに映っている1ページで完結します(情報単位が1ページ)。ですので、サイトのほとんどのページは見られることがありません。読者が見たいページのみがチェックされる傾向があるようです。この情報の構造をそもそも理解しないと情報整理はできません。悩ましい課題も多いですが、サステナビリティサイトも変化の過渡期にあります。どうせなら積極的に運用していきましょう。

まとめ

全上場企業でいえば、サステナビリティレポートや統合報告書の発行社数よりもサステナビリティサイトを設けている企業のほうが多いわけですが、それらの運用が適切かというとなんとも言えません。

統合報告書発行企業がサステナビリティレポートを廃止して、統合報告書とサステナビリティサイトの2トップでサステナビリティ開示を進める企業も増えていますし、それで高いESG評価を得ている企業もあります。ですので、サステナビリティサイトもツールマップの中でどんな役割を持たせるか、そしてそれをいかに読者に伝えていくか、みたいなことが求められます。

上記の視点をサステナビリティサイト制作および運用のヒントにしていただければと思います。なお当社では、複数社のサステナビリティサイト制作会社様とパートナーシップを組んでおりますので、制作・運用に関してご相談がある方はお声がけください。

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