企業の社会貢献活動

企業の社会貢献活動の価値

企業の社会貢献活動は必要ないのか。2010年代後半からESGの概念が広がってきて、サステナビリティにより経済合理性が求められるようになりました。2010年代前半の東日本大震災以降で普及した企業寄付(法人寄付)文化も、今ではそこまで語られることはなくなりました。

当然、投資家サイドから企業に寄付をすすめる話などあるわけもなく、上場企業としては以前ほどのコレクティブ・インパクト(NPOとの協働)の動きもほとんど見なくなりました。これは非常に残念ですね。

さて、私としては、この10年で起きた企業の社会貢献活動(※)の機運の変化に、色々思うところがあります。というわけで、本記事では、現状の社会貢献活動の動向を振り返りながら、次の10年に必要な社会貢献活動とは何か、をまとめたいと思います。

※社会貢献活動:本記事では主に経済的リターンを期待しない慈善活動(フィランソロピー)を指します

企業の社会貢献活動の動向

社会貢献支出額ランキング

1位. トヨタ自動車(187.0億円)
2位. NTTドコモ(139.7億円)
3位. 日本電信電話(133.4億円)
4位. ソフトバンク(120.9億円)
5位. ソフトバンクグループ(101.5億円)
6位. 三菱UFJフィナンシャル・グループ(91.7億円)
7位. ソニーグループ(89.0億円)
8位. ホンダ(81.7億円)
9位. サントリーホールディングス(67.7億円)
10位. ニトリホールディングス(65.7億円)
出所:東洋経済新報社(2022)「CSR企業白書2022 社会貢献支出額ランキング400」

大手企業の社会貢献に資する金額のランキングです。寄付以外の費用も含まれていますが、相当な金額がいまだに支出されています。これだけ純粋な社会貢献の話題が減ったように思えても、やっているところはやっているのです。

メセナ活動実態調査

企業の社会貢献活動
出所:企業メセナ協議会(2022)「2021年度メセナ活動実態調査 報告書」

注目すべきは「メセナの取り組み目的」です。メセナとは、一旦、文化支援を中心とした社会貢献活動と理解してください。目的に「企業価値創造のため」とする企業が69.2%あると。名目上、そういうしかないという側面もありますが、それでもかなり多くの企業が社会課題解決よりも企業価値にフォーカスしているというのは興味深いですね。

社会貢献活動に関するアンケート調査

企業の社会貢献活動
出所:経団連(2020)「社会貢献活動に関するアンケート調査」

少し前のデータですが、この時点でも回答企業の8割以上が「経営理念やビジョンの実現の一環」と回答しており、経営戦路の一部として捉える傾向が顕著にあらわれています。社会貢献活動も、社会課題解決の貢献や、企業の社会的責任を果たすため、などの理由があるものの、理由はより価値創出や企業理念の実践に移っているように見えます。

企業の社会貢献活動の意義

社会貢献活動であろうがなかろうが、企業のサステナビリティ推進には理由と意義が必要です。これはすべてに言えます。

私が好きな経営学者ピーター・ドラッカーは、企業の社会的責任に関して企業倫理(ビジネスエシックス)が重要としており、まさにアメリカ的な企業市民の考え方になるわけですが、定量化が難しい社会還元や、経済的リターンが社会的に重要性の高い領域への寄付が後退してしまうのではないか、という懸念はあります。経済合理性のない社会貢献活動は、企業にとって無意味な活動なのでしょうか。

たとえば、SDGsで「ビジネスで社会課題解決を」というのはわかります。でも現実にはビジネスで解決できない社会課題も多く、企業は資金等のリソース提供以外に貢献できない場面も少なからずあります。その場面に出くわしてしまったら、経済的リターンは諦めて無形資産の向上等の非財務リターンに注力すべきです。

私は、いつも言っている通り、企業価値向上に貢献する社会貢献活動であるならば、どんどんすべきだと思うのです。そして前述のように、その一つが「企業理念実践活動」です。社会に貢献しながら企業理念が実践できるのであれば、そこに短期の経済的リターンを最優先で求めてはいけないと。実際、メセナや経団連の調査では、この思考に昇華できている企業も出てきてはいます。

つまり、サステナビリティにはギブアンドテイクの考え方が必要なのです。企業は経済合理性を追い求めるがあまり、いつもテイクアンドテイクを求めがちです。表向きにはSDGsだESGだと言って社会のためとしながら、自社のリターンばかり求める。色々な理由をつけてこの何十年もテイクアンドテイクしてきた結果が、社会課題山積の世界なのに反省なしです。

しかし、私は別に、特に理由もないのに寄付をし続けろとは言っていません。企業のリソースが有限である以上、経営戦略にそった社会貢献戦略をとりましょう、といっているのです。戦略なき社会貢献に意義はなし、です。

まとめ

企業の社会貢献活動と一言でいっても色々とあるのですが、やはり営利企業である以上、経済的リターンはなくても、どんな意味・意義があるのか、なぜやらなければならないのか、などを説明できる理由は少なからず必要になります。私は、このWhyの提示こそが、パーパスでありストーリーテリング(≒ナラティブ)であると考えています。企業の社会貢献活動は、社会やステークホルダーからの期待に応えることであり、ビジネスだけでは解決できないESG課題への重要なアプローチにもなります。

最後に重要なのでもう一度いいます。ビジネスだけで解決できるESG課題は限られており、社会のサステナビリティの実現には、経済合理性以外の視点も重要になります。企業が本気でサステナビリティを進めるなら、サステナビリティを経済合理性の視点のみで評価することをやめましょう。

その社会貢献活動で、どれだけ社会的価値を生み出せるのか、そして生み出された社会的価値が企業にどんな価値を提供しているのか、を考え実践していきましょう。

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