サステナビリティトランスフォーメーション

トランスフォーメーションの重要性

SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)とは、企業のサステナビリティと社会のサステナビリティを同期化した経営および事業変革、という考え方です。DXと同じく、重要なのは「サステナビリティ」より「トランスフォーメーション(変革)」です。

これまで当ブログでもSXについてはいくつか記事にまとめていますが、本記事でお伝えする内容は「SXすべきは人である」という話です。私は以前からこのブログでも書いていますが、サステナビリティにおいて人(ステークホルダー)という概念は非常に重要なのです。しかし、実際のSXは手法ばかりに注目が集まり、その本質を見失いがちです。では、SXと人との関係をどのように考えればよいでしょうか。このあたりをまとめます。

SXの最新動向

まずは、先日発表された「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」と「価値協創ガイダンス2.0」の超簡単解説を。お伝えしておきますが、SXを学びたい人は、今回の伊藤レポートや経済産業省・SX研究会の資料を確認いただくのが間違いないです。コンサルがどう言っているではなく、まずは本家の資料を一通りチェックしましょう。

>>「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」・「価値協創ガイダンス2.0」を取りまとめました

>>サステナブルな企業価値創造のための長期経営・長期投資に資する対話研究会(SX研究会)

SXは、経産省が「SXこそが今後の稼ぎ方です」とツイートするくらい“稼ぐ”という視点を強くしたサステナビリティ推進の概念となっています。伊藤レポートの本編は20ページ程度のものなので、まずは一通り目を通してください。経産省としては、SXの実務は価値協創ガイダンスを参考にするといいですよ、ということみたいです。

SXは、インベストメントチェーンのさまざまなステークホルダーとのエンゲージメントが重要としており、強靭な価値創造ストーリーとその実装もポイントとして挙げられています。もともと、投資家サイドとのエンゲージメントを重視しているので、IR的な視点が強いと言うか、シングル・マテリアリティ的な発想ではありますが、全体的にみると、ダブル・マテリアリティの要素もそれなりに入っているように見えます。

価値協創ガイダンスは、投資家との対話を意識したガイドラインのひとつであり、国内における統合報告ガイドラインの役割もあり、日本企業の統合報告書では一定数が参照ガイドラインとしています。これが改訂になったということで、2023年発行分の統合報告書はこの改訂版を参考に作ることになるわけで、統合報告書の制作部門(IR・サステナ・広報・経営企画など)はきちんと目を通しておきたいですね。2023年発行の統合報告書にどれだけSXという表現が出てくるか気になります

どこが改訂で変わったか、という視点もありますが、前回のバージョン(2017年版)の内容をすでに覚えていない人が大半だと思うので、今一度、全体をしっかり読んだほうがいいとは思います。

人のマインドを変える

さて、本題の「SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)で変革すべきは人である」という話です。前回の著書「創発型責任経営」(2019年)では、ボトムアップ型のサステナビリティ推進の可能性をまとめました。創発とは、従業員ひとりひとりの主体的な行動が、社内に浸透し全体の仕組みになるイメージです。この創発を高める取り組みの一つにSXはなり得るのではないか、というのが私の仮説です。

従業員の意識が変われば行動が変わる、行動が変われば成果が生まれる、成果が生まれれば組織が変わる、という流れです。サステナビリティの意義とは、どれだけポジティブなバタフライエフェクトを起こせるか、だと思うのです。バタフライエフェクトとは「“蝶の羽ばたき”が巡り巡って台風になる」という寓話であり、システムにわずかな変化を起こすだけでシステム自体に大きな変化を与えることを指します。

従業員ひとりひとりの活動など、組織にとっては小さなものです。しかし、核心をつく変化が従業員から始まった時、その動きは創発的に、組織全体を変えてしまう大きな変化になりうるということです。まぁ、世界のトランスフォーメーションを見ても、その始まりは“たった1人の行動”から始まります。これらのきっかけは従業員のマインドセットの変化から始まります。ですのでSXでトランスフォーメーションすべきは、人なのではないかと。もちろん人とは、広義ではステークホルダー全体を指します。

私は以前から、サステナビリティ推進の本質は人であるとしていて、この考えは年を追うごとに強くなる一方です。ステークホルダー資本主義をはじめ、ここ数年で組織とステークホルダーの関係性を重視する概念が増えていますが、これらも多くの人が、サステナビリティにおいて人が重要だと、何十年も前から議論されてきたことに改めて気づき始めたのです。経営資源の「ヒトモノカネ」で非財務は人だけですからね。

社会課題解決というと、社会課題自体に意識が向きがちですが、そこには課題の当事者となる必ず人がいます。その当事者が、自社の事業活動において影響を与えるステークホルダーだとしたら、やはり課題だけではなくそこに人にも、より意識を向ける必要があります。それは従業員である場合もあるし、当事者意識というか、マクロとミクロの両面の視点が重要です。

これらが、私が「トランスフォーメーションすべきは人である」という理由の一つです。私は「ステークホルダー・ファースト」という表現も使いますが、もっと企業はステークホルダーと向き合うべきですね。

トランスフォーメーションとステークホルダー

サステナビリティを進めるには、さまざまな改善・変革が必要です。みなさんがすぐイメージできるのは、ビジネスモデルや組織のトランスフォーメーションですね。変革すべきはビジネスモデルや組織構造だけではなく、従業員のマインドの変化も重要です。マインドの変化により「価値感の転換(発想の転換)」が起きSXのきっかけとなりえます。

人的資本経営を目指す指針となる「人材版 伊藤レポート2.0」にも「従業員の意識変革」の話がでてきます。SXの実現には、人的資本経営の推進も大きな要因となると考えています。といいますか、人は、組織でもビジネスモデルでも企業文化でも、すべてにつながる、いわばSXの最小構成要素なわけです。人の意識が変わらなければ、どんなにビジネスモデルや組織構造が変わったところで意味ないです。
(「伊藤レポート」はいくつもあるので注意してください)

もちろん、トランスフォーメーションはより多くの従業員やステークホルダーを巻き込む必要があります。ですので、人という意味では「SX人材」の育成も重要です。SX人材は必ずしもサステナビリティ推進担当者がなるわけではありません。トランスフォームをパワフルに進めるエース級社員といいますか、組織によっては上場企業であっても社長自身がSX人材になる、なんてこともあります。これは企業それぞれで問題ありません。

SXの今後とその対応

あと、先日の日経新聞の報道では、経産省がSXのアワードを始めるとか本格的な普及に動いてきたように思います。また、SXが盛り上がってくることで、関連書籍の出版も増えると思うので、2023年以降は、いろいろSX界隈(?)も動いていきそうです。マイケルポーターらのCSVよりも、より本質的な稼ぐ力にフォーカスした概念になってきそうです。

SXだけではないですが、サステナビリティ分野の新しい概念は常に生まれ続けています。専門家であっても、すべての事象を確実に理解することは不可能です。このような状況に遭遇した場合どうすればよいか。私がよくやるのは「新しい概念に遭遇したときは、短時間で仮説をたて暫定的に理解すること」です。

従来のサステナビリティとの差を理解し、概念の大枠を捉えることができれば、概念を自身の中で“制御下”におくことができます。その後は必要に応じて、さらにセミナー/書籍等で学ぶか、特に取り扱いに緊急性がなければ、一旦そこまでの理解でよいでしょう。

今回のSXも「また新しい概念がでてきた、もう理解できない」とせずに、まずSXも基本的な考え方は通常のサステナビリティ推進とほぼ同じだけど、より稼ぎ方にフォーカスし、組織やビジネスモデルの構造変化を目指すものである、くらいまで理解しておけばよいでしょう。

まとめ

SXってサステナビリティ推進と変わらないじゃん、と思う人もいますが、SXはフォーカスするポイントが価値創造とか、ステークホルダー視点とか、学びはあります。SXがすべてのサステナビリティ推進課題を解決することはないですが、今、このSXのような概念が登場した背景には、もう少し思いを巡らす必要はありそうです。もちろん、その背景は伊藤レポートで解説されています。

CSR元年といわれる2003年から約20年。いよいよ、サステナビリティも次のステージに移行(トランジション)し始めています。情報開示から実務まで法制化が急ピッチで進むサステナビリティ界隈ですが、御社も、このビックウェーブに乗っていきませんか?

ちなみに私、8月に以下のSXの解説本を出しました。SXの概念的な説明ではなく、より実務的ノウハウをまとめました。サステナビリティ推進活動が頭打ちになっている・マンネリ化している企業担当者に読んでもらいたい本に仕上げました。ぜひチェックしてみください!

2022年8月発売『未来ビジネス図解 SX&SDGs』

本書では、すべての企業でSDGs対応とSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)を実践するための実務的なノウハウをまとめ、中小企業を含めた一歩先のサステナビリティ経営を進めたい企業の指針となる内容としました。また、自身の10年以上のサステナビリティ経営支援の経験とノウハウを、網羅的かつ実務的にまとめた意欲的な内容になっています。

本書では、読者がSXの本質を理解し、何らかしらの行動を起こすための実務的なヒントを多く盛り込むことを心がけました。図解も多くあり、直感的に内容を理解してもらえる体裁になっており、情報量多くはなく、時間のないビジネスパーソンでも読み進めやすい内容です。

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