東洋経済CSRランキング

東洋経済CSRランキング2021の傾向

先日、東洋経済新報社より「CSR企業ランキング2021」が発表されました。国内の総合サステナビリティ評価の2トップである、日経SDGs経営調査とこちらは、私がよくベンチマークしている調査です。

>>KDDIが2年連続の1位–東洋経済「CSR企業ランキング2021」

で、眺めれば眺めるほど、色々な発見があるので、ついつい時間がある時に見ています。ですので、本記事では、ランキングをみて、気づいたことをまとめたいと思います。そこまで深い分析ではなく、クロスでみた時に感じたことになります。いつか興味深い傾向を見つけました。東洋経済の調査やベンチマークをする方には、色々な視点提供ができると思います。

ちなみに、ここでいうサステナビリティは「CSR/ESG/SDGs」などを含む広義のものです。

トップ100社の傾向

2021年のCSR企業ランキングのトップ100の企業ですが、今年は100社中10社が100位以下からのランクインでした。しかも10社中6社は90番台でした。つまり、上位100社のほとんどは、前回も100位以内であり、単に順位が入れ替わっているだけ、ということでしょうか。

これだけみると、100位以下の企業が100位以内にに入るのは、本当に難しい状況になったとも言えます。サステナビリティ企業評価は“殿堂入り制度”がないため、トップ企業群は10年近くトップに居座っていたりします。もし、御社で「来年は100位以内を目指すぞ!」としていたら、ほぼ不可能なので裏技を使わない限り、目標達成できないでしょうね。

ちなみに101〜200位までの100社では、200位以下からランクインしたは17社です。1〜100位も、101〜200位も、8割以上は得点グループ内でランクが上下しているだけで、一つ上のステージにはほとんどが行けていません。難しいですね…。

情報開示が優れている企業

では、情報開示が一般的に優れているとされる企業は、東洋経済CSR企業ランキングではどのランクにいるのかわかりますか?

たとえば、先日記事にした「統合報告書制作で役に立つアワード/格付け2021」の中で、統合報告書の各種アワードで受賞企業を紹介していますが、その他のIRやサステナビリティ全般の分を含めると、2020年発行分では、以下の企業名がよく見られました。社名の横に東洋経済のランキングを加えてみますとこんな感じです。

大和ハウス工業(8位)
キリンホールディングス(10)
ダイキン工業(15)
オムロン(19)
中外製薬(25)
伊藤忠商事(37)
資生堂(41)
リコー(47)
三菱ケミカルホールディングス(49)
日立製作所(65)
コニカミノルタ(66)
丸井グループ(78)
J.フロント リテイリング(105)
SOMPOホールディングス(金融2位)

さすがに100位以内が多いですね。J.フロント リテイリングは100位以下ですが、財務評価が低いだけで、ESG評価は高得点であり、東洋経済調査でも高評価と言っていいでしょう。

ランク外?のある企業は

逆に、あれ?あの有名企業が上位にいない?と感じた人も多いと思います。私は少なくとも思いました。今回発表されているトップ300社以内で、100以上順位を落としたのは以下の4社です。

SUBARU(71→212位)
三菱自動車(47→218位)
ENEOSホールディングス(60→247位)
味の素(89→288位)

どうしたんや。特に味の素は、消費者調査でも統合報告書評価でも高いのに。それぞれの回答まで見ていませんが(「CSR企業総覧2021」で各社の回答自体が見れます)、ちょっと回答ミスしましたというレベルではないでしょう。財務点も全然悪くないし。時間がある時に要チェックです。

ランキングの点数差は?

では、点数について。今回の調査の点数差はどんなものかというと、1位KDDIは575.7ポイント、100位関西電力は530.7ポイント。45ポイント(点)の中に100社が入るという、大混戦です。ちなみに、101位ニコンは530.6ポイント、200位コムシスホールディングスは502.0ポイント。28ポイント差に100社入るという、超大混戦です。今より1問(3点)を多く取るだけで、10〜30位上がる可能性があります。1〜100位よりも、101〜200位のほうが激戦区なんですね。

ESG評価が高い企業となると、やはり100位以内がほとんどです。101〜200位の企業でも、ESG系のアワードやインデックスに入る企業もありますが、数は少ないです。

あと、5年くらい前までは「我々は東洋経済や日経の調査はどうでもいいですから。中身で勝負です。」と言っていた超大手企業の何社も、ここ数年で東洋経済の調査に回答始めてるじゃないですか。手のひら返しとはこのことです。そうなるよね。大手はやらざるを得なくなるので、早く始めた方がいいですよと忠告してたのに…。いや、その忠告を思い出していただけたということにしよう。

拙著の注目企業は?

最後に拙著「創発型責任経営」(日本経済新聞出版)で主な事例として取り上げた企業はどうでしたでしょうか。

オムロン(19)
ブリヂストン(20)
Zホールディングス(45)
丸井グループ(78)
三菱重工業グループ(89)

ふむ。こちらも100位以内。やはり東洋経済の総合ランキングが高い企業は、他の指標でも比較的高いのかも。当たり前ですが、傾向(相関関係)のレベルの話ですが。

総括

2020年から「ステークホルダー資本主義」という考え方を見聞きするようになりました。ステークホルダー資本主義とは、文字通りステークホルダーの利益に資する経済活動を指します。つまり、上場企業でも必ずしも投資家の利益が最優先されるわけではない、ということです。

しかし、ステークホルダー資本主義は、従来からの「サステナビリティ経営」とは異なる視点があります。ステークホルダー“資本主義”とあるとおり、ステークホルダー重視といっても結局経済的リターン(定量的成果)が重視されるという点です。

サステナビリティの場合は、取引先や従業員へのアプローチでは、必ずしも定量的な財務リターンがあるわけではありません。これらのサステナビリティ推進活動がステークホルダー資本主義に合わないとされてしまえば、結局ステークホルダー資本主義も形式的な株主資本主義と変わらないといえます。

なぜここで、ステークホルダー資本主義の話をしたかというと、東洋経済CSR企業ランキングの上位に入る企業群は、少なくとも、経済的リターンの少ない社会貢献活動(慈善活動)も積極的に行なっているという事実があります。これを、欧米からみて日本企業は遅れていると言うのは、机上の空論なのかなと。

本当に、ステークホルダーに資する意思決定が行われ、経済的なリターンがなくても、非財務的なリターンのアウトカムを生み出しているなら、それはとても良いことだと思うのです。

まとめ

東洋経済CSRランキングを、色々な視点で比較分析してみましたが、結論「頑張っている企業は東洋経済の順位が高い」という、いつもの身も蓋もない話でまとまりそうです。こんなに努力しているのに、東洋経済調査の順位が低い!不当評価だ!という企業は、たぶん努力の方向性や方法論が間違っているのだと思います。

あまり深い考察ではありませんが、色々な視点でみると、新鮮な視点が得られるのは面白いですね。

あなたもぜひ「週刊東洋経済 2021年3/6号」(2021年3月1日発売)を買って、色々と眺めてみてください。面白い発見があるかもしれませんよ。

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