CSV戦略

CSVと価値創造

貴社は本気でCSV推進に取り組んでいますか? いるならその本気度はどれぐらいですか?

実はこういう質問はあまり意味はないと最近感じています。CSVをどれだけ本気でやっているといっても、コロナみたいな大規模な変化があれば、ほとんどの場合“CSVではない通常営業活動”が優先されるのですから。そもそもCSVと言っている時点で、本業とは別の何かを指していることになります。といいますか、上場企業など組織とビジネスモデルがある程度出来上がっている企業が、新たにCSVに取り組むのは困難というか不可能に近いものです。

とはいえ、CSVの価値は普遍的だし、普遍的であるべきと考えています。すべての企業が目指すべきビジネスモデルなのは間違いありません。そこで本記事では、最新のCSV関連調査を確認しながら、個人的に感じている、今のCSVの課題と考察を解説します。

CSV関連調査

まずは、CSV実施にむけて参考になるであろう調査をシェアします。CSV的な消費者調査では、今も昔も「エシカル消費」というワードが使われるんですよね。

メンバーズ

・全体の67%が「地球温暖化問題に対して非常に関心がある/どちらかと言えば関心がある」と回答
・地球温暖化問題を含む社会課題の解決に取り組む企業やブランドの商品の購入経験は全体の29%にとどまる
・購入に至らない理由として全体の36%が「対象となる商品がよく分からなかった」、全体の32%が「そうした商品に出会わなかった」と回答しました。
「地球温暖化問題と購買に対する生活者意識調査(CSVサーベイ)」を実施。7割が地球温暖化への関心がある一方、関連商品の購入経験者は3割。

インテージリサーチ

「エコ」の認知度が72.6%と最も高く、次いで「ロハス」「フェアトレード」の順となっている。「倫理的消費(エシカル消費)」「エシカル」は、 他のエシカル消費に関連する言葉と比較して認知度は低いが、2016年度調査と比較すると、3年間で認知度がそれぞれ2倍以上に 上昇している。
消費者庁「倫理的消費(エシカル消費)」に関する 消費者意識調査報告書

インテージ

・「環境や社会に配慮した商品・サービス」の利用有無を聞いたところ、全体では36.2%が「利用している」と回答しました。
・多くのブランドで、「環境や社会に貢献する取り組みを行っていること」を知っている人の方が「好感が持てる」「社会に貢献している」というイメージを持つようになることが分かりました

インテージ|生活者調査から見る、日本のサステナビリティの今(第1〜3回)
https://www.intage.co.jp/gallery/sustainability1/
https://www.intage.co.jp/gallery/sustainability2/
https://www.intage.co.jp/gallery/sustainability3/

第一生命経済研究所

「新型コロナウイルスの影響で困っている事業者の商品・サービスを買いたい・買うようにしている」という設問に対して、「あてはまる」と回答した人は全体の 6.9%で、「どちらかといえばあてはまる」の 43.0%を合わせると約半数の人が「買いたい・買う」との姿勢を示しています
新型コロナウイルスによる生活と意識の変化に関する調査

トレンダース

・「エシカルな商品やサービスの開発」に取り組む企業、「良い印象」が9割以上
・「エシカル」の認知度は23.0%、若い世代ほど認知度が高い傾向
・「値段の高さ」や「貢献度の分かりづらさ」が課題
「エシカル消費」に関する意識・実態調査を実施 若い世代ほど「エシカル」の認知度は高い傾向 「エシカル」に積極的な企業は「良い印象」が9割以上

デロイトトーマツグループ

・世界の経営者は第四次産業革命を通じて経済価値と社会価値の創出を同時に追求する傾向に
・日本企業は社会課題を事業機会と捉える戦略視点が弱く、依然リスク・CSR 対応の観点が主流
・今後を見据え、目的・分野毎の短期戦略から長期的な統合戦略への経営戦略の転換が急務
第四次産業革命における世界の経営者の意識調査(2020年版)

経済合理性の高いCSR

多くの企業のCSR活動は、投資対効果(経済合理性)の高い活動から始めます。俗に言う“映える活動”です。しかし、活動を進めるにあたり活動範囲を広げる中で、次第に経済合理性の高い活動がなくなっていき、地味で大変な活動に手を付ける必要がでてきます。(テーブルで好きな食べ物だけ食べ続ければ、最後はすべて嫌いなものだけ残るという地獄…)

CSVもいいのですが、CSR活動の“経済合理性の限界”を知るべきです。CSVは重要ですが、現実的な問題として、組織の事業活動のすべてをCSVに置き換えることはできません。CSRは逆に、事業活動すべての社会性を問う考え方なので、すべての事業活動に導入できますが。

経済合理性を最重要視したCSVは、もともと限界値が決まっているのです。だから、企業の全体最適を目指す統合思考との相性が悪いのです。統合思考は売上の最大化を目指すものではないので。経済性の最大化を目指せば通常のビジネスになるし、社会性の最大化を考えるとCSRやリスクマネジメントとなるという、どちらに転んでもCSVを極められないという。

CSVが利益の最大化を図る積極的な動きなのに対して、CSRは持続的成長に向けて経営基盤を強化するといった活動がメインです。CSVは売上にも貢献し成果がみえやすいため経営層のウケはいいけど、よくよく考えると通常の事業活動と大して変わらず、なにも持続可能にはならない例も多いです。このあたりの詳しい論考は拙著「創発型責任経営」でまとめているので読んでみてください。

CSVの課題

CSVの現代的な課題として「社会課題/ゴールの不明確さ」や「統一評価基準/インジケーターがない」があります。SDGsはゴールが明確なので取り組みやすいのですが、CSVは手法が提示されているだけで、様々な企業による“自称CSV”ばかりが生まれてしまう結果に。統一化されたKGI/KPI(SDGsでいうインジケーター)が明確に示されれば、もっとわかりやすかったと思います。

この点でいえば、SDGsは優秀で、ゴール・ターゲット・インジケーター・コンセプトのすべてが明確で、全世界共通の認識が保てます(「18番目ののゴールを作ろう」とかの主張は一旦考慮しない)。CSVもコンセプト(「概念」と「3つの手法」)は明確なので、他の要素が明確であれば、もっと広がったと思うんですけどね。これはもったいないと思いました。

CSVがそもそも、善悪はさておき、アメリカの経営学者の提唱したコンセプトにすぎないという点が大きいです。たとえば、CSRは国際ルール(ハードロー/ソフトローともに)になっていますがCSVはそうではありません。これがISO26000とまではい言わないものの、より情報を整理したガイドライン化していれば、ESG評価機関の評価項目として入った可能性もありより浸透したと思われます。

この10年で見てきた事例でいうと、CSVのプロジェクトはCSR部門発端のプロジェクトであることはほとんどなく、マーケティングや営業、経営企画などの事業部門から「社会的インパクトを加味したマーケティング」という形で実行されていることがほとんどでした。そのため、プロジェクトメンバーにCSR推進担当者がいるのですが、基本はマーケティング部門が主導するような形です。そりゃそうなるよね。

こうなると“社会貢献的な何か”があればよくなってしまい、利益を減らしてでも、競合や業界団体、NPOとパートナーシップを組んで社会課題解決をやろうとすることがなくなります。そもそも、当時のマイケルポーター氏のインタビューで、政府やNPOは予算の再配分を行うだけで新しい価値を生まないと否定的でしたから。(越境型コラボプロジェクト形式の「コレクティブインパクト」はそのアンチテーゼともいえます)

結局、利益追求型と定義されてきたCSVは、通常のビジネスの社会性を見直した程度の話であったのに、いつの間にか論点が入れ替わり、経済価値を出せないCSR活動はやるべきではない、という議論になってしまい、リスクマネジメント等がおろそかになる企業が今でも多くなっているという。短期の売上向上だけでサステナビリティ推進の良し悪しを勘案するのやめませんか? そんなことしているから貴社のCSR総合評価が上がらないんですよ…。

また、大手上場企業の数十社はCSVをサステナビリティ推進活動として前面に出していますが、その定義はマイケルポーターらのものではなく、独自解釈されたものであります。CSRも同じですが、会社の数だけCSVの定義があるということです。こうなると、CSVウォッシュというか、見せかけのCSVばかりになってしまいます。CSVの中に、コーポレートガバナンスや社会貢献活動が含まれるとかおかしいでしょ。それCSRって言うんですよ?

CSRはそもそもCSVでなければならない

多くの人が勘違いしているのであえて書きますが、CSR戦略(サステナビリティ推進)の根幹は事業戦略です。事業戦略を無視したサステナビリティ戦略なんて本来は存在しないはずです。これでは2000年代前半の「CSR = 社会貢献」と勘違いしていた時代から何も変わっていないことになります…。コーポレート・サステナビリティとソーシャル・サステナビリティは分けて考えてから統合するほうが賢明です。

また、CSVの課題は「先義後利」(道義を優先させ利益を後回しにすること)ではないこともあります。つまり、従来のCSR活動はISO26000でも言われているとおり、ステークホルダー・エンゲージメントによりステークホルダーとの良好な関係づくりが主眼であり、その結果としてバリューチェーンが強化され、ビジネスモデルが強固になり売上がのびる(リスクが下がる)という趣旨のものだったはずです。売上はプロセスの初めではなく最後の指標です。

CSRはあくまでもビジネスモデルの強化が目的であったのですが、CSVの登場によりCSR活動自体にによる直接的な利益創出が期待されるようになってしまい、ギブ&テイクではなくテイクのみになってしまった側面もあります。売上あげたいなら、CSRよりセールスやマーケティングに予算と時間使ってください。そのほうが費用対効果高く売上向上を期待できますから。

CSVでも「社会に貢献した結果として経済的成果を生み出せるようになった」パターンは先義後利ですが、経済的価値創出が目的となっているCSVは、ただのマーケティングおよびセールスプロモーションでしかありません。それらが悪いわけではないですが、それをもってしてサステナビリティとは言えません。

あと、CSVで最も不毛な議論は「社会性の高いビジネス」の議論です。じゃあ、そもそも社会性の低いビジネスをやっていいいのか、というと今の時代ではOKなはずもありません。「社会性の高いビジネス」は“本来しなければならない商慣習”であります。それをちょっと社会性が高いからといってエシカルだなんだと。コロナで応援消費が一定レベル発動しているからといって、そこに寄りすぎるのはどうかと。

いや、エシカルは付加価値ではなく、サプライチェーンマネジメント含めて、本来すべきことであり、逆にいままでエシカルではなかったの?と責められるべき事象でもあります。(消費者視点ではこれがすべてではないが、企業が自分で言うべきではない)「社会性の高いビジネス」は、今自社でやっているビジネスが社会に良いビジネスではないという自己否定にもなります。それでいいならいいですが。

まとめ

CSVの発想は、サステナビリティ推進においてとても重要なのですが、謎のこだわりを持ってしまい、ほとんど社会に貢献しない例はたくさんあります。(誰か指摘してあげなよ…俗に言う裸の王様ですよ…)

CSVが登場した2011年ごろは、今ほどサステナビリティという概念が普及していませんでしたが、今はSDGsもありだいぶ浸透してきたので、ここらでCSVを広義に整理して、サステナビリティをマーケティングだけではなく、組織の事業活動全般に広げられるとよりよいのかもしれません。私自身、企業のCSV推進にあまり関われていないので、このあたりを変えられず力のなさを感じています…。

さて、本記事は「CSVは課題も多いけど概念整理の仕方にはまだ“伸びしろ”があるのではないか」という話でした。今、最新のCSV企業事例を探しているので、自薦他薦問いませんのでオススメ事例を【問合せフォーム】より教えてください。良い事例は、方々で勝手に宣伝させていただきます。

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