プラスチックの社会的課題
2018年はとにかく「プラスチックごみ問題」(海洋プラスチック問題、マイクロプラスチック問題)に端を発した「プラスチック・ストロー問題」もしくは「使い捨てプラスチック問題」がCSR関連の話題として一般のメディアでもよく話題に上がっていたように思います。2019年も引き続き話題になっています。
スターバックスやマクドナルドなど外食サービス企業が中心となって、プラスチック・ストローの世界的に取りやめもしくは代替品への移行を進めています。世界的な動きとしては、EUが2021年までに使い捨てプラスチックを禁止にする方向など、ストローだけではなく使い捨てのプラスチック製品全体の事実上の規制がさらに進むようです。
ただ、この問題について本質的ではない意見も多く見受けられるので、その課題について本記事でまとめます。
結論から申し上げますと、プラスチック問題から我々が学ぶべきは、社会と企業は繋がっていることを認識せよ、ということです。エンドユーザーを意識したバリューチェーンのインパクト評価というか。目の前の課題の裏にある大きな社会問題を見逃さないように、と。
あのブームにも似ている
昨今のストローの動きは、ちょうど10年くらい前の2000年代後半にあった「マイ箸ブーム」(割り箸不要論)と似てます。個人が箸を持ち歩いたり、飲食店で箸を木材製からプラスチック製に変更したムーブメントです。結論からいうと、今のままなら同じような着地になるように感じています。つまり数年のブームで終わると。
マイ箸の環境的メリットは「ゴミが減らせる」「資材の節約になる」など。デメリットは「洗う時にそれなりの水を使う」「マイ箸の製造が割り箸より環境負荷高い」など、でしょうか。日本製の割り箸利用は逆に環境に良いという話も多かったですが、海外産がほとんどで製造量が少なく、じゃあ箸はプラスチックでいいじゃん、と。当時も専門家でもいろんな意見があったのを覚えています。
今となっては、一部にマイ箸を持ち歩く人はいるとは思いますが(特に職場で弁当持参の方など)、それを「マイ箸」として意識している人はほとんどいないでしょう。今でいえば「マイストロー」を特集するメディアもありますが、箸以上に補助的な食器でもありますし、メディア報道のブームが落ち着けば、自然とマイストローもマイ箸同様になると思われます。ちなみに、私はそもそもストローをほとんど使いませんので、マイストローは持っていません。
インパクトを俯瞰する重要性
ケースバイケースのこともあるとは思いますが、とかく人は目の前の物事をもっとも高く評価しがちです。企業としてはグリーンウォッシュにならないよう、本質の見極めが必要です。というのは「マイストローは本当に“エコ”なのか」ということです。やり方を間違えると逆効果になることもあるからです。
最も重要な視点の一つとして「その代替品を作るために何が必要になるか」というポイントがあります。たとえば紙製ストローはプラスティック製ストローと比べると、はるかに資源集約的でとも言えます。つまり、生産により多くのエネルギー等のリソースが必要な場合があるのです。最近は価格・品質ともに“使える”紙製ストローがでてきたとはいえ、どこまで再利用すれば環境負荷が相殺されるかというのは、誰にもわからないためそのインパクトの把握は曖昧のままであります。実際は状況次第でしょうが。
「脱・プラスチック(プラスチック・フリー)」、つまりプラスチック製品を使わない試みでありますが、これ自体はとても良い消費者行動だと思うものの、それを代替するものが比較して社会インパクトが低くなければ意味がありません。
難しいのが、例えば「ゴミを減らすこと」と「CO2排出を減らすこと」の優先順位を決めるのが困難であるということです。何を得るためには何かを失わなければならないというトレードオフがここにも存在します。これをエビデンス・ベースで人々が行動できるかというと…、まぁ非常に難しいと言わざるを得ません。
セオリーでいえば、目の前の事象がエコかどうかは、その製品の社会におけるバリューチェーンを観察すればわかります。企業は目の前の課題に飛びつきがちですが、バリューチェーン全体のネガティブ・ポジティブ両面のインパクトを見極め、適切な対応をしていくべきです。プロセスの前後の近いステークホルダーだけではなく広い視点で。必要なのであれば、素材取引先の教育や支援を行わなければならないでしょう。マクロとミクロの双方の視点が必要なのですね。
企業だけの責任なのか
また、企業だけの責任ではなく、SDGsでいうと12番「つくる責任、つかう責任」、つまり消費者の意識と行動の変革も課題です。
日本ではグローバルな社会課題を矮小化しすぎる傾向があるように感じています。プラスチックごみ問題は製造および利用している企業にも責任がありますが、消費者の「不適切な廃棄」が問題の一端でもあります。プラスチック利用を改善していくこともそうなのですが、本当に成果を出すには、社会システムが変わらないかぎり解決できない問題です。プラスチックのプラス面とマイナス面の両方を見ないと、プラスティック不要論という極論が広がってしまうのが怖いです。その社会的不利益はたいていエンドユーザーにかえってくるからです。
海洋プラスチックごみを削減するためには、ポイ捨て防止の徹底をはじめとする消費者の適正廃棄管理に加え、プラスチック製品の適正処理の強化や、代替素材の開発と普及促進など、企業だけではない社会全体での取り組みが必要とされています。
2018年10月、環境省が海洋プラスチックゴミに対してのソーシャル・アクション・キャンペーン「プラスチック・スマート」を開始しました。また、2019年1月、経済産業省はプラスチック製品の持続可能な使用や代替素材の開発・導入を推進し、イノベーションを加速化するための「クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス」を設立しました。やっと国内で官公庁主導のセクターを超えたイニシアティブができました。
このキャンペーンとアライアンスでは、企業の責任は当然として、消費者を含めたアクションの変革を求めていることが評価できます。こうなってくると、私が注目している「ステークホルダー教育」(ESDのようなリテラシー教育、社会課題の啓蒙・啓発活動)なども、CSR活動の重要アクションとなるということが見えてきます。
社会課題をマクロで見る
当ブログをお読みの方なのでご存知かと思いますが、海洋プラスチック問題が提起されたのは最近の話ではなく、十年以上前から環境団体や一部の大手企業の中で問題視されていた課題ではあります。
社会問題は顕在化したものだけがそう呼ばれるのではなく、世間の知名度が低くでも、将来取り返しがつかない問題に発展するであろう予兆はそれこそ無限にあるのです。企業としてはできる限り予兆の段階で課題を把握し、管理コストが数倍〜数十倍になる前に対応していくのが、リスクマネジメントとしてのCSRです。
また、現状で言えば、すべてのプラスチックが悪であるとは言い切れません。現時点で課題と認識すべきなのは「使い捨てのプラスチック」です。プラスチックは日常生活においてその存在を見ない日はないくらい生活に浸透しています。課題が世間に周知され始めた結果、この問題に対して欧州などでは法整備やガイドライン化の動きが活発化しています。
また投資家サイドもこの問題に注目しているところが出始めており、大手上場企業を中心にプレッシャーがどんどん強くなることでしょう。ブームの停滞の可能性は否定しませんが、不可逆なムーブメントであり、対応しない選択肢はもはやありません。
まとめ
サステナビリティとは資源の節約のみを意味するのものではなく、省資源に加えて新たな資源を創出してこそサステナブルな社会になれるというものです。代替品の開発と普及は一人の消費者としても期待してしまいます。
これらのプラスチック問題のように、かなり前からグローバルで問題になっていながら、国内の一般への認知がほとんど広がっていない社会問題はたくさんあります。この問題は様々な要因が重なり、メディアが大きく取り上げることになり認知が広がってきましたが、他にも社会問題はたくさんあり、それらをどうするかという問題は解決していません。
プラスチック問題から我々が学ぶべきは、社会と企業は繋がっていることを認識せよ、ということでしょう。特にBtoB企業だとエンドユーザーが見えにくく、バリューチェーン全体における社会的責任を果たしていると言えない局面もあることでしょう。そういった事象に対しても、真摯に誠実に取り組むことこそが社会的責任であり、社会・ステークホルダーとのエンゲージメントとも言えます。
この問題は2019年も様々な動きがあると思いますので、社会全体でサステナブルな世界を構築すべく、今後も注目していきましょう。
関連記事
・CSRと成果をあげるための効果測定の3つポイント
・なぜCSRにアジェンダセッティングが必要なのか
・CSRの目標設定におけるKGI/KPIのあり方