CSRコンサルティングのあり方
最近の動向として、CSRの意味範疇の広がりにより、CSRやCSV/ESG/サステナビリティ/社会貢献という概念の境目が不明確になってきました。
人や企業によってそれぞれの単語や概念の定義が異なり、混沌としているというか、世界のガイドラインやイニシアティブに流されているというか、とにかくカオスなのがここ数年かと思います。
支援側も混沌としてきており、監査法人やIR支援の会社がESGからのCSR支援に参入している例が多く、既存のCSR支援専門企業が悪戦苦闘しているという話を耳にすることが多くなりました。
というわけで、本記事ではCSR支援側の動向と、CSRにおける価値観の話をメモしておきます。もし、CSR活動の何かしらのアウトソース活動をお考えの方は、ぜひお読みください。
CSR支援の市場規模
先日とある海外動向に詳しいCSRコンサルタントの方と話をしていた時に、「日本のCSR支援のマーケットはまだまだ小さい」という話題になりました。
2003年がCSR元年なんて言われているけど、来年で15年も経つのに大企業や上場企業を中心に1,000社程度がなんとなく対応しているだけ。当然支援側のマーケットも小さいものです。1,000社の中でも数百社程度は、専任部署をつくり人材の配置をしてそれなりの活動をしていますが。
2000年代は、CSR界隈で有名な人なんて数十人程度だったので、だいたいその人たち(もしくは代表をする会社)がメインにCSR支援をしていました。ところが東日本大震災前後以降、CSR支援のマーケットも大きくプレイヤーが変わってきています。2011年から勃興したCSR支援の個人や小規模事業者の多くは淘汰されました。ライバルが減って嬉しい部分も当然ありますが、支援側のマーケットを盛り上げる同志でもあったので寂しいというのも正直なところです。
ここ数年は特に「統合報告」や「ESG投資」の流れから、戦略コンサル、IR支援企業、監査法人などが、戦略領域を中心にCSR支援に大きく参入してきています。CSR支援のマーケット自体は今後大きくなることは間違いないと思いますが、それでもまだまだ。私が特に感じているのは、統合報告書制作の名の下に、IR系からのCSR支援をする企業が急激に増えたことでしょうか。
CSR専業企業が、IRや投資家寄りになると監査法人や大手IR支援会社がいますし、ブランディングに寄ると広告会社や戦略コンサル会社がいますし、マーケティングによればアナログ・デジタルの大手マーケティング支援会社がいます。各種報告書制作に寄ればデザイン系・印刷系の企業や個人が出てきます(ここが一番新規参入が多い)。
CSR支援をメインにしている会社は、CSRから一歩外にでれば“レッドオーシャン”での戦いを余儀なくされます。CSR戦略支援も、CSR報告書制作ありきで付随して行われていたこともあり、以前のCSR報告書のコンペをとれればそれなりだった時代から新規参入が続き、今やこの支援カテゴリはレッド・オーシャン化しています。
私も含め支援側は大変な時代となりましたが、企業側から見れば制作会社をより吟味できるようになったとも言えます。面倒だからという理由で支援会社(コンサルティング、報告書制作)を変えていない企業担当者の方の気持ちはわかりますが、こういう激動の時代だからこそ、コスト意識をより高くもって、支援内容と発注金額を吟味すべきです。“親身になってくれてコストパフォーマンスの良い支援会社”ってあまりないですよ。逆にそんな会社を見つけられたら、支援会社に見限られないよう丁寧かつスピード感をもってやっていけばいいでしょう。
支援会社の中には昨今の動向を考慮し、CSR報告書制作から撤退(直接相談があればやるレベル)している会社もあります。まぁ、そうでしょうね。むしろ、撤退もできずダラダラとやっている支援会社が大半ですので、CSRのサンクコストとオポチュニティコストをクライアントに説く前に、自分らがそれをどう捉えるのかを決めたほうがいいのでは?と老婆心ながら感じているところです。
ちなみに、私はというと、最近はやっと専門家として認知が上がってきたのもあり、「第三者評価」などのタスクが多いです。このカテゴリの専門家に求められるのは、課題の“解決”より“発見”です。ですので、私も課題をより発見しやすくするために、「評価フレームワーク」「CSR評価システムの開発」「CSR動向調査」などにも力を入れています。傾向では、大手ほど“発見”を求め、中堅ほど“解決”の支援を求めているように思います。
その他には、専門知識を活かした寄稿などの執筆業務も、なんだかんだ色々な方からご依頼を頂いています。ありがたいことです。綺麗事だけでおえず“人のふり見て我がふり直せ”の精神で、日々学びながら修正し前に進もうと思います。
CSRにおける価値
さて、話は変わり、CSRの価値についても最近の考えをまとめます。
最近のCSRはとくに「結果論としてのCSR(後付け/解剖学的なCSR)」が増えてきているように思います。本来あるべき「目的」や「ゴール」がない、場当たり的な活動です。CSRの社会的インパクトにはその範囲としてマクロとミクロがあります。簡単に言えば、環境対応はマクロ、自社の労働問題はミクロ、というような視点です。アクションはミクロ的なのに、成果はマクロで表現しようとしているというか。報告書を読ませていただくと、無理矢理感が否めない感じですね。
原因は単純で「企業価値」についての社内議論が不足していることが挙げられます。私がよくいう、ほぼすべての企業に存在する「トップの理解、社内浸透、効果測定」というCSRの3大課題の根本的な原因も、実は「価値」についての議論が足りないことなのでは、ということに最近気づきました。CSR支援をさせていただき7年程度ですが、やっと本質的な課題をつかむことができました。(恥ずかしい話です。すみません。)
CSRに「ビジネス価値(事業価値)」を見極められないから、CSV論に逃げるパターンが多いのもこれが根本原因の一つでしょう。(CSVの概念は非常に重要ですがCSRと対比で語るのは愚かなことだと認識しています)もちろん、逃げるのではなく積極的な展開を求めているのであれば、CSV推進も成果になりやすいのですが、そうではない企業もあるので悩ましい限りです…。
結局は「良い会社」もしくは「信頼される会社」になるためにCSRをやるわけです。今の時代、評判・信頼は、企業や商品・ブランドの“付加価値”となり、売上に大きな影響をもたらすと考えられていますので、CSRで企業の付加価値創造というストーリーは今後広がってくはずなのですが。
人は追及が難しい原因を振り返るより、新しい概念を取り入れることにほうが好きな傾向があるように思います。だからこそ、差別化の意味も含めて「我々のCSR活動によって生み出せる価値は何か」を明確にすべきなのでしょう。本当は「その価値がどんな社会課題解決に貢献できるのか」というアウトカムまで構築すべきですが、まずは価値創出が明確になれば良いとしましょう。
私もCSRコンサルタントなので、What(何をすればいいのか)、How(どのようにすればいいのか)の支援も行いますが、Why(なぜCSRをしなければならないのか)を確立できている企業のWhat/Howの芯の強さは賞賛されるレベルであることが多いです。
まとめ
CSRの意味範疇の広がりにより、CSV/ESG/サステナビリティ/社会貢献という概念との境目が不明確になってしまいました。
それが良いのか悪いのか、という話ではありませんけども、冒頭で申し上げた通り、近い将来にほんとうにCSRという概念は存在しながらも、現場ではその役割を終えて細分化された概念に置き換わっていくのかもしれません。その中で、それぞれの概念や価値創出の定義を終えた企業から抜け出していき、真のCSR先進企業が日本から生まれていくのでしょう。(だよね?)
とはいえ、当面の私自身はCSR専門家として、より専門性を突き詰めて、より多くの企業のCSR課題の発見と解決に貢献していきます。
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