ステークホルダー特定

ステークホルダーの特定

最近、よく質問されるんですよ。「CSR活動って何からしたらいいですか」と。

そこで僕はこう答えます。「ステークホルダーとマテリアリティの特定です」と。そうすると、当たり前ですが「?」みたいな顔をされます。もちろん、じゃあどんな回答をしたらよかったんですか、なんて思っても口にはしません。

多くの人の認識では、ステークホルダーはCSRだろうがなんだろうが、すでに特定されていると考えているでしょう。でも僕は、それは正解でもあり不正解でもあると考えています。つまり、ステークホルダーとの関係性においてマテリアルな側面が考慮されていない、と。

直接的にも間接的にも企業には様々なステークホルダーがいます。ダイアログやコミュニケーション、エンゲージメントを考える上で、すべてのステークホルダーと等しく関係性を構築することは事実上不可能です。ではどうしたらいいか。

ステークホルダーの特定においても、マテリアルな側面を考慮し“主要なステークホルダー”を特定し、そのステークホルダーに対して重点的な対応をすることが重要になってきます。全世界のステークホルダーとなる全人類や企業・団体とエンゲージメントするなんて不可能です。

というわけで、改めてステークホルダーの特定についてまとめてみます。

ステークホルダーの特定

ISO26000では、組織(企業)はステークホルダーを特定するために、次の質問を自問すべきである、としています。

・その組織は誰に対して法的義務があるのか
・その組織の決定または活動によってプラスの影響またはマイナスの影響を受ける可能性があるのは誰か
・その組織の決定および活動に懸念を表明する可能性があるのは誰か
・過去において同様の課題に取り組まなければならなかったとき、関わりがあったのは誰か
・特定の影響に対処する場合、その組織を援助できるのは誰か
・その組織が責任を果たす能力に影響を与えられるのは誰か
・エンゲージメントから除外された場合、不利になるのは誰か
・バリューチェーンの中で影響を受けるのは誰か
(「ISO26000 ステークホルダーの特定」より引用)

CSRは「社会への“影響”に対する責任」です。バウンダリにも通じるのですが、自分たちの事業が「どこの、誰に、どんな影響を与えているのか」を理解せずにCSR活動なんてできるはずがないんです。御社のビジネスはどうでしょうか。

CSR先進企業の担当者ヒアリングでも、バウンダリとマテリアリティの話は毎回出てきます。それほど深く重要な命題であり、完全なゴールのない世界なのです。

簡易的な特定方法

もっと簡単なステークホルダーの特定方法があります。簡易的だけに精査は必要ですが、それは「金銭の授受における関係性を調べる」ということです。

通常の企業は、株主・投資家、顧客、取引先、従業員などとの取引金額がトップクラスだと思います。そうなることここらのステークホルダーが「主要ステークホルダー」と判断されます。

もちろんステークホルダーとは、金銭のやりとりがない権利などの利害関係にある場合もあります。ただ、主要ステークホルダーはこういった考え方で簡易的に特定することはできると考えています。

マテリアリティと同じで、自社とステークホルダーと双方のインパクトが最大となる点を導き出すことで、自ずと自社にとっての主要なステークホルダーが見えてくるのです。簡易的にはこんなんでいいと思います。やらないよりずっといいです。

まとめ

この「ステークホルダー特定」をやっている企業は、当然のように調べられてステークホルダーがマッピングされ、CSR報告書などに掲載されています。

もちろん、世の中にはステークホルダーの特定をしていても、経営層の許可が“なぜか”得られず、開示ができない企業も多くあります。ISO26000では、ステークホルダー特定とステークホルダー・エンゲージメントがCSRの基礎中の基礎やねん!って言っているのに、それを実践・開示しない理由が僕には理解できません。まぁ、社内調整の大変さは理解しているので、心情的にはわからんでもないけど…。

この問題って、CSR活動における「knowing doing gap」の典型例かと思います。

そもそもステークホルダーを特定せずにCSR活動ができるわけがない、という事実をいろんな方に知ってもらいたいと思う今日この頃です。

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