CSR/サスティナビリティ報告書のPDF化
実は、最近、とても重大なCSR/サスティナビリティ報告書の構造的課題に気付いてしまいました。
最近、印刷しないでPDFでCSR報告書を発行する企業増えていますよね。というか、冊子を作っている所はほぼすべての企業がPDFでも発行していると思います。
で、多分、気付いている企業も増えていると思うのですが、「見やすいPDFのCSR報告書」と「見にくいPDFのCSR報告書」ってありますよね?
“見やすい”というと、画質がいい、インフォグラフィックで要点を図式・定量化している、空白が多くて視認性が高い、などそういうテクニカルな部分もありますが、そもそもの“規格”というのもあると思うんですよ。
ここ数年で、ウェブのみの開示というそもそも印刷をしないと宣言している企業も増えてきました。しかし、その作りをみると、どう考えても冊子のデザインを引きずっているのです。PDFネイティブになっていないというか。これはあれですね。電子書籍が一定レベルで普及した今でも、雑誌や単行本のデザインをそのまま電子書籍にして失敗している例と同じです。
この「PDFのみ」の傾向は進む一方でして、読者体験が置き去りにされてしまう可能性が高く、適切なCSRコミュニケーションを阻害する原因ともなりかねません。というわけで、事例を出してまとめます。
PDF化の弊害
これはMacのブラウザだからというわけではないと思うのですが、「縦・A4」のPDFって通常見開きでは見れませんよね?例えば、日産の「サスティナビリティレポート2016」は横向きなのでパソコンでもスマートフォンでも見やすいですが、三菱自動車「CSRレポート2015」は縦向きなので見開きで見れません。
すべてのPCやタブレット、スマートフォンでそうなるのか、というブラウズ・テストはまだしてないのでなんともいえませんが、これってどうなんでしょう。技術的な話はよくわかりませんが、何にせよ、世の中には「見やすいPDFのCSR報告書」と「見にくいPDFのCSR報告書」があるというのは確実なようです。僕は毎年100社以上の報告書をチェックするのですが、この差は意外にでかいっす。
見開きで企業価値や成長性を表現するページってどこにでもあると思うのですが、読者の多くは「PDFで1枚ずつみる」という閲覧習慣を考慮しないと、非常にマズいのではないかと。僕も去年になって気付いたのですが、これってとても重要な課題だと感じています。
特に見開きで1枚の写真(画像)などを使っている場合は要注意です。IIRCの価値創造のページなんて、矢印もページをまたいで使ったりしているので、1ページごとみたら何を言っているのかわからなくなる可能性が非常に高いです。
“見開きで閲覧”を前提に作っておいて、実際は1枚・1ページごとに閲覧される。印刷ではなく、PDF閲覧が前提となりつつある現在では、このクリエイティブの対応は、今後、非常に重要な意味を持つでしょう。CSR担当者の方は、必ず制作会社の方に聞いてみてください。
で、日産「サスティナビリティレポート2016」(PDF版)は、ナビゲージション(ナビゲーションバー、クリックによる移動)も非常にこっています。予算かけて、冊子にはないユーザビリティで読者体験を高めていますね。素晴らしい。これ、数年後には、制作予算が比較的取れる国内大手のCSRトップ100社のスタンダードになり得るものかもしれませんね。
同業他社のCSR報告書(PDF)を10社分ダウンロードしてみてください。去年から見開きのPDFにサイジングしている企業が結構増えてるのに気付くはずです。まだ対応していない企業もありますで、確実に対応したいですね。
ちなみに、トレンドとして「見開き(A3)版」、「片開き(A4)版」というような形でダウンロードコンテンツを分けている企業が増えています。
関連記事
ちなみにCSR/サスティナビリティ報告書の評価に関する話題は以下の記事も参考になりますので、お時間がある時にチェックしてみてください。
・日本におけるサステナビリティ報告2015
・The CR Reporting Awards 2016表彰レポート事例
・表彰されるCSR報告書の10要件
・統合報告書/IIRCに関する意識調査2事例(2016)
・CSRにおけるエンゲージメントには広報が効く?
追記:2016年8月12日
あと、形式でいえば、PDFの「ファイル名」もビミョウな会社が多すぎです。普通に考えれば、ある企業のCSR報告書のPDFをダウンロードするということは、当然他の企業のCSR報告書のPDFダウンロードをしている可能性が高いです。
そうなると、たとえば「csr-report.pdf」というファイル名だと、もうどこの会社のPDFなのかファイル名から判断できません。せめて「会社名_発行年_csr-report.pdf」みたいな形にしましょうよ。そのほうが親切です。オリジナルのタイトルなら「タイトル_発行年.pdf」みたいな形でも良いかもしれません。
このブログでいつも言っていますが、CSR報告書に必要なのは「徹底的な読者視点」です。製作者の論理なんて”一ミリ”も読者に求められていません。すべての会社が悪いとはいいませんが、このあたりは制作会社側できちんとコントロールするのが理想です。
まとめ
結局何が言いたいかというと、CSR報告書/サスティナビリティレポートでも、冊子版とPDF版は今後、明確に作りを変えたほうがいい、ということです。読みにくいPDFだと、エンゲージメント率が下がっちゃいますよ〜。
特にページ数が多いPDFの報告書はただでさえ最初から最後まで読んでもらえません。もちろん、印刷して読む人もぐっと減るでしょう。そうなると、ウェブ(HTML)とPDFと冊子と、どれを基準にしてデザインをするかで、読者に与える影響が大きく変わり、最終的な意図したステークホルダーの行動変容を起こせない可能性が高まります。
これらの現象は、僕の杞憂に終わればいいのですが、ここ数年で一番大きな“変化の前触れ”のような気がします。さてさて、この“すでに起こった未来”に対して、どれだけの企業担当者が気づき、アクションするのか。
御社のCSRメッセージは、読者(ステークホルダー)に、本当に届いてますか?