サプライチェーンマネジメント事例
BtoB企業のCSR活動は、サプライチェーンマネジメントが基本です。BtoCより顕著です。
しかも、サプライチェーンマネジメントはリスクマネジメントでもあり、早急に対応しなければならないのに、BtoB企業はCSRの進み具合が遅い所が多く、上場企業や大手企業でも適切な対応ができているとは言えないという状況も多々あります。特に国内事業メインの大手企業だと、グローバルなサプライチェーンリスクにまださらされていない企業もあり、具体的な対応をほとんどしていないこともしばしば。
とはいえ、紛争鉱物や奴隷労働などもですが、世界ではサプライチェーンマネジメントに関する実務および情報開示を法令化する動きもあります。
そこで本記事では、上記のような企業でも参考になるような、最近のサプライチェーンマネジメントに関する事例を中心に紹介したいと思います。
サプライチェーンマネジメント事例
サプライヤーの従業員
なぜ日本企業の多くが「関係ない」と判断してしまうのか。直接的な契約や雇用の関係がなければ、当事者としての意識が生まれづらい。加えて、自社が管理・監督する範囲内ではコンプライアンスも徹底している「自負」によって、毅然として「関係ない」と判断し、発表してしまうのだ。しかし、当事者かどうか、あるいは当事者との関係の有無を判断するのは、自社ではない。ましてサプライヤーでもない。世間であり、消費者が形成する世論であると改めて認識する必要があるだろう。
昨今のサプライチェーンマネジメントで失敗するポイントはまさにここです。引用記事の通り「サプライヤーの従業員も自社と同様と考えよ」ということです。だから、サプライチェーンマネジメントではサプライヤーにCSR推進を求めるのです。
すべての価値評価の決定権は、企業ではなく顧客や世間にあります。企業側が正論を言ったとしても、それが顧客や世間が正義に反するとすればそれまでなのです。そこがこの領域の難しい所なのですが…。
オリンピック調達コード
・持続可能性に配慮した「運営計画 フレームワーク」と「調達コード 基本原則」の策定について
公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会が、「持続可能性に配慮した運営計画」の「フレームワーク」と、「持続可能性に配慮した調達コード」の「基本原則」を2016年1月にそれぞれ公表しています。
この策定委員の顔ぶれを見ますと、さすが有名な大御所のCSR関係者の名前が。オリンピックは関係ない、という人たちも、一応、国のサプライチェーンマネジメントの意向もあるので、確認はしておいたほうがよろしいかと思います。
紛争鉱物対応
・紛争鉱物対応の先進企業へ Intelが取り組む若者向けブランディング
2016年1月にインテルはすべてのマイクロプロセッサが「コンフリクト・フリー(紛争鉱物不使用)になった」と発表した、という話。
インテルの取組みですが、自分たちでミレニアル世代にアンケートを実施し、「10人中9人が企業は社会に対してよい影響を与えるべきと考え、うち8人が自身も消費者として社会に悪影響を与えない製品を選ぶ責任があると考える」、「10人中8人が紛争鉱物が使われていないことがラベルで表示されていると選択する上で助かる」などの結果をまとめています。
メインストリームの消費者のニーズを無視して事業活動をする理由はありません。アメリカのミレニアル世代の社会貢献意識の高さに関しては様々なレポートがありますし、アメリカでビジネスをしている企業は、特に紛争鉱物に関するサプライチェーンマネジメントをしたほうがよさそうです。
ブリヂストンのCSR
・ブリヂストングループが国際ゴム研究会の提唱する 持続可能な天然ゴム経済の実現に向けた活動の趣旨に賛同
ブリヂストンは、CSR評価の高い企業の1つですが、先日上記のリリースを出していました。『ブリヂストングループはお取引様も含めたサプライチェーン全体でCSRのレベルアップを推進すべく、当社が設定する「CSR調達ガイドライン」に基づきお取引先様のCSR取り組み状況を確認する等の取り組みを進めてきました。』という姿勢は、まさにサプライチェーンマネジメントのお手本ですね。
厳格化するサプライチェーン
・地獄化する企業の調達・購買業務~厳格化しすぎるサプライチェーンは私たちを幸せにするか
調達業務は地獄化している、とはいいすぎかもしれません。ただ、自社製品の生産に使う部材は日に日に厳しくなり、素性の調査が求められています。さらに現代では、対行政だけではなく、これら規制への未対応は消費者にとっても悪印象を与えかねません。やらねばならない、だけれども、人も時間も足りない。具体的な解決策はないまま、現代企業の調達・購買部門の仕事だけが増え続けている状況にあります。
でしょうね。もちろん、調達部門だけではなく、IR、PR、CSRなどの部門もバウンダリーの広がりに合わせて、業務範囲の拡大、規制対応の複雑化・・・などなど、まさに、実務としては“地獄化”している企業も多そうです。
CSR担当の業務も広範囲で大変かと思いますが、社会からのニーズを見極め適切な対応が必要となります。逆に今まで、このあたりの社会的・環境的負荷を企業は担ってこなかった、という点があるということです。
この動きがなくなることはないので、もう覚悟を決めて“地獄を突っ切っていく”しかありません。
水資源
日経225銘柄企業の水の使用量は190億立方メートルだが、サプライヤーのそれは600億立方メートルに至るという。つまり水使用量の76%は、サプライヤーが使用していることになる。
サプライチェーンにおける水問題は、当ブログでも色んな記事でまとめていますが、この数字の偏りは非常に興味深いものがあります。業種によって、マテリアルであるかどうか分かれる部分もありますが、CSR担当者は確実に知っておいたほうが身のためです。
水利用に関するリスク
・実は24億人が安全な水を飲めず、経済負担も大
さて、こちらも水問題の話。こういう話題を見聞きすると、日本のインフラの整い具合はすごいですね。でも世界ではインフラは整っていない地域のほうが多い、と。なので、海外のサプライチェーンにはインフラに関するリスクが多くでてくるわけですね。
責任あるサプライチェーン
最近「責任あるサプライチェーン」というワードをよく見聞きするようになりました。この引用記事では『2015 G7エルマウ・サミット首脳宣言(仮訳)』(外務省)に言及しています。
安全でなく劣悪な労働条件は重大な社会的・経済的損失につながり,環境上の損害に関連する。グローバリゼーションの過程における我々の重要な役割に鑑み,G7諸国には,世界的なサプライ・チェーンにおいて労働者の権利,一定水準の労働条件及び環境保護を促進する重要な役割がある。
我々は,サプライ・チェーンの透明性及び説明責任を向上させるため,我々の国で活動し又はそこに本拠を置く企業に対し,例えば自発的なデュー・ディリジェンス計画又はガイドなど,そのサプライ・チェーンに関するデュー・ディリジェンスの手続を実施するよう奨励する。
というわけで、CSR界隈だけがサプライチェーンマネジメントに動いているのではなく、国際経済における“約束事”としての側面も一気に加速しています。こういう話が出てくると、もう言い訳できなくっちゃいますね。
SEDEX加盟
花王、調達先の倫理リスク対策-SEDEX加盟社、3倍の100社に引き上げ
花王はサプライヤーに対し、倫理面での事業リスク管理を強化する。世界最大規模のサプライヤー倫理情報共有プラットフォーム「Sedex」に加盟する国内の取引先企業を、年内に現状の約3倍にあたる100社に引き上げる。
自分たちの「CSR調達方針」をサプライヤーに求めるだけではなく、このようなプラットフォームを使うという方法もあります。
TPPでの労働課題
・サプライヤーの強制労働を厳密に取り締まる時代 最大の輸出相手国である米国の新たな法律がきっかけに
TPP(環太平洋経済連携協定)では、児童労働や強制労働の禁止項目があるのは有名な話です。で、これがサプライチェーンマネジメントにも少なからず影響を及ぼすことになりそうです。
パナソニック
・パナソニック|サプライチェーンCSR推進ガイドライン(PDF、2016)
パナソニックのガイドラインなのですが、つい最近できたんですね。その前からやっていたらしいですが、本格的な運用は6月からということでしょうか。
ここで興味深いのは『また本ガイドラインで取り上げました項目に対して、購入先様の取り組み状況を自己評価していただくためのチェックシートを用意いたしました。CSR推進の状況を把握・評価するためにもご活用いただきますようお願い致します。』という部分。
これは非常に重要です。CSR推進ができていない企業は、基本的にチェックリストや評価するツールを持っていません。持っていればやっているって。ですので、「CSRをやれよ!」ではなくて、「CSRとはこういう項目です、チェック項目はこれです、ぜひやってください」みたいにしないとできないんですね。ノウハウないから。
これを国内外に浸透させるとすると、パナソニック調達部門はCSRコンサルティング会社(!)みたいな存在になるのかもね。
関連記事、参考資料
・「CSR報告書にみるサプライチェーンにおけるCSR課題への取組と開示」(日本公認会計士協会、2016)
・サプライチェーン/CSR調達における労働問題は何が問題か
・AppleのCSR/社会貢献報告「サプライヤー責任報告書」(2016)
・サプライチェーンマネジメントにおける、CSR調達のリスク・オポチュニティ
・グローバル時代に求められるサプライチェーン・マネジメントと人権
まとめ
人間、問題が現実に起きないと本気を出さないものです。しかし、業務の極端な効率化のせいで、ほとんどリスクマネジメントが行なわれていない現実は、非常に危険な状況であると認識すべきです。目の前の数十万・数百万円をケチって、将来の数十億・数百億円レベルの損害(リスク)を抱えることの愚かさに気付くべきです。
とはいいつつも、決裁権のある経営層が顕在化しつつあるリスクを“認識”しなければ、事業活動としてCSR活動に組込むことは難しいという現実もあります。業種によってはサプライチェーン上に他業種ほどリスクが存在しない場合もありますが“ゼロ”ということは絶対ないので、対応しなくてよい理由にはなりません。
ですので、今回紹介した事例やレポート、過去記事などを参考にしていただき、CSR担当者は社内営業用資料のエビデンスとしていただければ幸いです。リスクに1つずつ対応していき、健全なる経営度合いを高めていきましょう!