調達・購買におけるCSRとは
昨今の不祥事は取引先などのサプライチェーン上で起きることも多く、リスクの顕在化によって改めてCSR調達が注目されています。
CSR調達とは、企業の調達・購買活動におけるCSR推進のことですが、一般に考えられる調達・購買活動より実際は枠が大きいかもしれません。
本記事では事例をふまえながら、改めてサプライチェーンマネジメント(CSR調達)について考えてみたいと思います。
CSR調達の現状
東洋経済のCSR調査(2015年)によれば、CSR調達を実施している会社は38.8%の469社、となっています。そもそも調査に回答をしている時点でそれなりのCSR進捗だと思われますが、それでもこの程度です。僕もざっとデータを見た記憶があるのですが、やはり製造業が多かったような。
逆に、特にCSR調達をしていないという6割の企業はリスクマネジメント等はどうなっているのでしょうか。
取引先でコンプライアンス違反や労働問題などがあれば大問題に…とまでは考えていないのか、質問表の回答者がCSR調達を理解していないだけで、調達部門はCSR調達“的な”ことをちゃんとやっているとか…?
いずれにしても、個人情報漏洩などを含めて、取引先などを含めたサプライチェーン上にビジネスリスクの多くが存在します。特にグローバルでビジネスをする企業は、本当にちゃんとしたほうがいいですよ。
グローバルサプライチェーンのリスク
日系企業においても、リスクやリスク顕在化時の影響が海外事業に終わることなく、グループ全体へつながることを認識し対応しなければならないため、事業全体のグローバルサプライチェーンを俯瞰して、どのリスクに焦点をあてて対応するか、という観点での選択と集中が必要である。
グローバルサプライチェーンのリスク評価と対策
KPMGのレポートです。レポートのイントロダクションにもあるとおり、サプライチェーンには様々なリスクが存在し、後手後手にならぬよう対策が必要です。CSR調達基準や基本情報をしっかりまとめましょう。
自然災害、海外子会社の粉飾決算・横領、従業員のインターネット上での内部告発、などなど、本当に多岐にわたります。
先日、某航空系企業で中国だかの従業員が日本の有名アイドルの搭乗券をソーシャルメディアにアップし、「コンプライアンスは知っていたけどやってしまった」的なコメントが報道されていました。日本でも、タレントの免許証を写しを自宅にもって帰って家族に見せた銀行での事件もありましたね。
ビジネスには非常に多くのリスクが存在する以上、それなりの対応が必要ということのようです。
CSR調達ガイドライン
大建工業(大阪市)は、CSRへの取り組みの一環として、調達活動における基本的な考え方を定めた「調達方針」と、取引先にCSRの取り組みを求める「CSR調達基準」を制定した。
同社では、2004年12月に「グリーン調達基準」を制定。今後は、国連グローバル・コンパクトや組織の社会的責任に関する国際規格ISO26000の中核主題で求められている「人権」「労働」「腐敗防止」等の要素を盛り込み制定した「CSR調達基準」を取引先と共有・連携することで、サプライチェーン全体で展開していく。
大建工業、CSR調達基準を制定
大建工業の例です。目新しい取組みというわけではないものの、この「取引先とガイドラインを共有・連携し展開する」という点は、CSR調達において非常に重要なポイントです。
ガイドラインはどのようなものでもいいのですが、自社内のCSR推進は当然として、取引先にもCSR調達を促す。特に製造業にはとても大切な考え方になります。もちろん、ただのパフォーマンスではなく、お互いのリスクを本気でつぶしにいく必要があります。
コニカミノルタ:CSR調達とEICC
コニカミノルタは7月、DHLサプライチェーンと協働で物流取引先のCSR活動を支援する「CSR物流」の運用を開始し、合同で、7月13日に物流取引先への説明会を開催した。
CSR物流は、物流取引先が、電子業界のサプライチェーンにおけるCSR推進団体である「EICC(Electronic Industry Citizenship Coalition)」に登録し、物流取引先は、EICCが定めている5つの項目「労働」「安全衛生」「環境保全」「管理の仕組」「倫理」に関する400以上のチェック項目全てを使ったCSRアンケート診断にシステム上で回答する。
コニカミノルタ、DHLサプライチェーン/「CSR物流」の運用開始
コニカミノルタの例です。いやー、これまた大きな枠組みでCSR調達を始めましたね。コニカミノルタとしては「強化してきたCSR調達のノウハウを上流の調達から下流の物流へと範囲を広げ、世界的CSR推進団体EICCのもと、DHLサプライチェーンと共に日本初となるCSR物流の実現を図る」と発言し、まさに社会を変えようと動くようです。
正直、他社(取引先)の不祥事で自社の評判が下がるとか、最悪ですよね。自分らのせいではなくても、自分たちにも批判の矛先が向く。これを極力回避することがまさにCSR調達です。
日本ではEICCと高い親和性があるという『サプライチェーンCSR推進ガイドブック』(電子情報技術産業協会、Jeita)があります。2006年発行なのでもうじき10年ですね。
まとめ
いくつかの事例をみてきましたが、CSR調達(サプライチェーンマネジメント)は、製造業にとってCSR活動の本丸だと、ひしひしと感じております。
ISO26000で、社会的責任への取組み(CSR活動)は「ステークホルダーの特定」と「ステークホルダー・エンゲージメント」であるとされているとおり、ステークホルダーを巻き込みどのようにエンゲージメント構築を行なうかがCSR調達のポイントになりそうです。
もちろん、このCSR調達の考え方は、実施の仕方はまったく異なりますが、非製造業でも重要な考え方であることは間違いありません。今一度、自社の取組みを確認していきましょう。もちろん、CSR調達関連のセミナーや本・書籍などから定期的に情報収集することも忘れずに。
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