サステナビリティKPI

正しいKPIとは

サステナビリティ推進においてマテリアリティは今まで以上に注目されていますが、実務的なフェーズではそのKGI/KPIが問題だったりします。

マテリアリティの特定プロセスは万国共通ですし、SASBのように業種・業態でほぼ規定されていることもあり、マテリアリティ特定自体は大して難しいものではありません。難しいのはKPI設定です。これは同業種であっても、企業によって異なるため、ゼロから作る必要があるからです。現場の課題は戦略から一歩進んだ“実効性のあるKPI”をどう決めるか、というステージにきています。

コロナ禍で厳しい財務状況の企業が増えたため、よりサステナビリティに成果(経済的・社会的な価値創出)が求められています。今後のサステナビリティ推進は、今まで以上に成果が問われるし、企業価値向上へのプロセスの明確化も問われるでしょう。

コロナ禍で、さらに厳しくなるサステナビリティ推進活動において、従来のような、適当なKPIを当てはめていては、価値創造との整合性が取れません。ではどのような成果をKPIとする必要なのか。まとめます。

KGIの考え方

まずKGIとKPIの関係性ですが「活動の目的(≒KGI)」「作業の要件(≒KPI)」とまずは考えてください。

すべての企業のKGIは「企業理念/ミッションの達成」です。これがすべてです。企業活動とそれに関わるすべての業務はすべてKPIです。個人であれば「KGI = KPI」も存在しえます。趣味などは特にそうです。手段の目的化というか、何かの行為自体にやりがい(ゴール)を見出すことはありますが、企業は手段と目的を履き違えてはいけません。

ここで重要なのは「そのサステナビリティ推進活動のKPIはKGIに貢献しますか」という点です。成果につながらないKPIはKPIではないです。気づいたら即再設定しましょう。多くの人はKPIとKGIを勘違いしやすいから、目的に達するための手段を、すぐに目的として追い始めるクセがあります。大事なのでもう一度言います。KGIに貢献しないKPIは意味がありませんよ。

そのKPIは本当に成果か

サステナビリティにおける成果とは何か。これを定義することがKPI特定の第一歩になります。

サステナビリティの成果というのは、端的にいえば、「企業とステークホルダーの関係の変化」が起きることです。
その実施に関しては、違いを意識する(「ある場合とない場合」の違いを意識する)ことと、この時に「差の最大化」をKPIとするとよいです。

適切にKPIを設定する効用は多岐にわたりますが、その一つは課題発見とその解決がしやすくなることにあります。PDCAをスムーズに回しやすくなるとも言えます。逆に言うと、KPIの設定が不十分であったり偏っていると、問題の発見と解決が難しくなってしまいます。

ここでの注意点は「ファクト(事実)とオピニオン(意見)を混同しないこと」です。たとえば、旅館に泊まって「だされた料理の量が多い」のは、ファクトでしょうか、オピニオンでしょうか。

これはオピニオンです。ある人が「量が多くて食べ切れないよ、もったいない」と感じても、別のある人は「量は少しすくないかな、デザート追加しようかな」と感じることもあります。そもそも「食事量の多い/少ない」は、どの基準からみるかで変わってくるものであって、人によって指標が変わるものであり、誰から見ても意味が変わらないファクトではないです。

つまり何が言いたいかというと、このオピニオンをKPIにしたら悲惨だということです。定量的に計測できるし成果も明瞭だとしても、そもそも人によってその定量的評価が変わるものであって、その分析から得たデータで優良な意識決定が行えるわけありません。

数字の分析は、とにかく分析数が高ければいいとかではないです。そもそもの前提となる仮説やファクトが間違ってたら、その方向に数値最適化したらそのプログラムは破綻してしまいます。

KPIの限界

プロジェクトのKPIマネジメントにも限界はあります。どんなに努力しても成功要因となる“見えないKPI”はあるものです。

定量的な数字は文脈(背景情報)があって初めて意味を持ちます。数字の価値は相対的にしか決められないからです。
たとえば「1,000万円」と聞いてどう感じますか?

個人の給与だとすれば、日本の上位1割未満の人たちの金額です。しかしこれを会社の年商とすると、いわゆる小規模事業者となりますし、これを自治体の年間の税収と考えるとどうでしょうか。相当低く破綻しているとも言える状態でしょう。「1,000万円」自体には、1,000万円という絶対的意味以外はありません。

つまり、実態を把握するために数字は不可欠だけど、数字は必ずしも実態の全体像を表していないということも忘れてはなりません。KPIが特定され管理されてさえいればプロジェクトを管理できる、とは思わない方がよいです。

費用対効果(ビジネス成果)の高いサステナビリティ推進活動もあります。KPIが設定しやすくROIが予想しやすい、効果が明確で即効性・再現性が高い取り組みです。ただこれは活動のごく一部にすぎません。

多くの活動は“複雑”なものです。KPIがたてにくく、ROIの予想が困難なものです。成果も曖昧(測定困難)で、成果創出まで時間がかかり、社内外への影響も大きく自社のみで計測できない・実施できない、というものです。KPI限界もきちんと把握しておきましょう。

KPIの柔軟性

「中長期的に正しいKPI」というのは現実的には設定不可能です。サステナビリティ界隈だと「2050年目標」とか「2070年目標」などでKPIを一部定めている企業もありますが、そんなの決めた人は目標達成年に会社にいないからいいけど、20代の人なんかは多分いますから、そんな無責任なことはないですよ。(方向性を決めることには意味があるが)

あと、みなさんご存知の通り、ビジネスは100%計画通りにいくことはありません。だから、ビジネスマネジメントは、柔軟性を計画に入れていないと破綻してしまいます。つまり何が言いたいかというと、KPIも場合によっては変更するくらいの勇気が欲しい、と。この“場合によって”は、たとえば、コロナのように、ビジネスモデルの前提が大きく変わってしまった時、などを指します。

こう考えると、活動の推進フェーズでキーポイントになる指標は変わっていくのが正しいと思っています。KPIはKGIを達成するためのマイルストーンでしかないため、今まで以上にKGIに貢献しそうなKPIが見つかれば、そちらに変更してもいいのです。個人が趣味でやっていることならまだしも、組織で数字を追いかけている以上、結果だしてナンボでしょうから。

KPIをどのフェーズでみるか

KPIを、どのフェーズでみるかも重要です。つまり、そのKPIは「インプット」「アウトプット」「アウトカム」「インパクト」のどのフェーズなのかと。CSRでいう効果測定の「ロジックモデル」です。

◯統合報告書作成のロジックモデル
インプット(資源投下量):統合報告書制作の予算と時間と人件費
アウトプット(インプットの結果):統合報告書が出来上がる
アウトカム(アウトプットの結果):CSR報告書によってステークホルダーとコミュニケーションが円滑に進む
インパクト(アウトカムの結果):ステークホルダーとエンゲージメントが進んだ結果、企業価値が上がる

わかりやすくするため極端で簡素な例にしていますが、上記が成果を見える化するためのロジックモデルの流れです。で、ビジネスとしては「インプット」と「アウトカム」を比べて、費用対効果があるかないかを検証します。本当はインパクトまで計測すべきですが、ここでは割愛します。

多くの企業がこのサステナビリティのKPIを、別のフェーズで混同し設定しているから、成果との整合性がなくなるのです。Apple to Apple でいきましょう。特に投資家などはシビアに見るので「そのKPIが業績にどう貢献するのか」を確認します。

だから本来はアウトプットレベルのKPIなんて意味がないのです。アウトプットは「ご飯を食べたら(インプット)、お腹がいっぱいになりました(アウトプット)」みたいなレベルの話なので。第三者からしたら、アウトプットはただの独り言ですよ。だからなに?と。本来置くべきKPIのフェーズはアウトカム以降です。

では頭の体操を。たとえば「女性管理職者数」がダイバーシティ推進活動のKPIだったとしましょう。ではその「女性管理職者数」は、インプット、アウトプット、アウトカム、インパクトのどのフェーズだと思いますか?ぜひ考えてみてください。

まとめ

サステナビリティ推進活動のKPI設定は本当に難しいです。経済的・社会的価値創造との因果関係を示すことができるKPIなんて実際にあるかどうかもわからないし、正直、神のみぞ知るレベルの話のようにも思います。

ただ、実施したら何も測定しないし検証もしない、という話にはなりません。サステナビリティも事業活動である以上、費用対効果は常に求めるべきですから。

マテリアリティ特定は多くの企業に浸透してきたように思いますが、このKPI設定は、まだまだ多くの企業で課題になっているようです。ぜひ上記の注意点を軸に見直してみてください。

貴社のサステナビリティ推進活動における、マテリアリティKPIは、最適化されていると胸を張って言えますか?

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