デジタル時代の統合報告の可能性と限界とは

統合報告ウェブ

デジタル時代の統合報告

先日とある講演収録をしまして、テーマが「デジタル時代の統合報告」だったのですが、意外にみんなわかっていないというか、これから盛り上がってくる分野なのだと感じました。

ESG、CSR、SDGs、CSV、サステナビリティ、などコンテンツ名はなんでもよいですが、多くの企業では、統合報告書やCSR報告書などの冊子制作には投資するものの、ウェブサイトを独自のコンテンツとして制作・運用するところが少ないですね。

例えば、2019年発行の統合報告書で数々のアワードを受賞した企業がいますが、ESG/CSRのサイトランキング、サイトアワードの上位には入っていません。レポートの受賞数はトップだったのに、サイト評価ではトップ20に入れないという。

しかし、公開情報で評価するESG評価もそうですが、コロナ禍の社会状況の中で、ほぼすべてのステークホルダー・エンゲージメントがインターネット上で行われているわけであり、そのベースとなるウェブコンテンツが貧弱というのは残念な限りです。

というわけで、本記事では、セミナーで話をした内容の一部を紹介します。本当はあまり公開したくないネタです。

そもそもの統合報告とは

そもそも統合報告とは何か。つまり、統合報告を見れば「企業が将来どう儲けるのか」がわかるものでなければなりません。先日「“カネの匂いがしない”統合報告書に価値はあるのか」という記事を書きましたが、まさにカネの匂いのしない統合報告なんて意味がないと。

その中で、細かい部分はさておき、以下のような制作プロセスが重要になります。ここで重要なのはプロセス、です。

(1)自社を取り巻くESG課題をどのように認識しているか
(2)そのESG課題解決のために何をするのか
(3)それによってどんな価値を生み出せるのか
(4)その生み出した価値はどんなリターンを生むのか
(5)そのリターンはどのように企業価値向上に貢献するのか

1〜5番それぞれの話が重要なのではなく、1〜5番のデータやファクトをどのように一つの話にまとめるか(ストーリーテリング)が求められています。特に、読者となる株主・投資家の多くは従業員ではないので、企業文化とか、トップの想いとか、数字や言葉になりにくい雰囲気を体験できないため、そのあたりを明文化する必要があります。

統合報告書はデータブックではありません。データが示す“価値”を明文化し読者に伝えるものです。「Connecting the dots」(点と点をつなげストーリーにする)です。ひとつひとつの成果だけみてわからなかった未来予想図を描け、と。点と点を意図的につなげられるかです。

ウェブと冊子の決定的な差

ウェブコンテンツと冊子には決定的なメディア特性の差がありますので注意が必要です。冊子で作ったコンテンツを、そのままウェブにしたら、エンゲージメントは著しく低下するでしょう。

たとえば、80ページの統合報告書があったとします。冊子(PDF含む)は様々な情報が80ページ1冊にまとめられていますが、ウェブコンテンツは1ページが最小単位であり、1ページが80個ほどあって冊子1冊と同じ情報量になります。

◯冊子
80ページが1冊になっている → 80ページ完結型

◯ウェブコンテンツ
1ページの情報が80ページある → 1ページ完結型

ウェブコンテンツは原則1ページで完結します。画面には1ページしか表示できないからです。1ページに、80ページ分の情報を詰め込むことは不可能ではないものの現実的ではありません。そして、冊子では表紙から見ていくので、欲しい情報以外にも触れる機会がありますが、ウェブコンテンツでは読者の興味あるコンテンツのみしか閲覧されない(クリックされない)傾向があります。自動的にページが推移することは原則ありませんので。

つまり、ウェブと冊子の決定的な差は「情報単位」であります。「1冊(80ページ相当)」なのか「1ページ(1ページ相当)」なのか。この差は、理解できているようでできてない企業があります。私でなくても、みなさんも気づくと思います。この企業のウェブコンテンツ見にくいな、と。その多くは、情報のグルーピングが冊子のものを使っているのです。

専門家や情報プロバイダーはウェブコンテンツでもPDFも確実にみますが、マルチステークホルダー向けの統合報告書の場合、ウェブコンテンツの充実もさせないと、ステークホルダーの情報ニーズを満たせませんよ。

ESGサイトランキング

では、実際にはどんなウェブサイトが良いのか。日本には、ESGやCSR/サステナビリティのウェブコンテンツを総合評価しているのが、「サステナビリティサイト・アワード」と「ESGサイトランキング」のみとなっています。たとえば、この2つのランキング・アワードのトップ20社で重複しているのが、伊藤忠商事・東レ・日本電気の3社です。

>>サステナビリティサイト・アワード2020(CSRコミュニケーション協会)
>>ESGサイトランキング2020(Gomez)

上記の3社は、日本の全上場企業がベンチマークすべきと思いますが、この2つの調査で上位に入っている企業は、すべてが優秀なサイトとなっているのは間違いありません。ぜひ、ウェブコンテンツに課題を感じている方は、チェックしてみてください。

ちなみに、ここでいいたいのは、ウェブコンテンツがすべて、と言いたいのではなく、ウェブコンテンツの可能性を過小評価せず、なおかつその限界も理解して、オフライン対話(テレビ会議含む)もあわせて、総合力でコミュニケーションしていこうぜ、ということです。

私は以前から「ステークホルダー・ファースト」という、ステークホルダー視点を重視した情報開示や活動をしましょう、という概念を提唱し続けていますが、やっと、ステークホルダー・エンゲージメントとして、ウェブを活用しようと。もちろん、冊子はいらない、とは申しません。むしろ今まで以上に重要になってくるでしょう。企業に求められているのは、まさに冊子とウェブの統合された統合報告です。

今後の課題

結論からいうと、統合報告の手段は「統合報告書」から「コーポレートサイト全体(IRコンテンツ+CSRコンテンツ)」へ軸が移ってきています。これは私が勝手に言っていることではなく、全世界の流れです。というか、もう数年前から、数値上はウェブがメインなのですが、みなさん気づいてないか気づいているが対応できていない、というだけかと。

これらの企業側の課題として一番大きいのは、「ウェブと冊子を含むコーポレート・コミュニケーションとしての統合報告」を理解しコンテンツ化できる制作会社(厳密には制作担当者)を見つけられるか、でしょうか。これ、私がこの分野で10年以上いて感じるのは、これができる人が現場に何人いるのというレベルかと。

現実的には、ハイレベルな人はコンペ・プレゼンだけ担当して現場作業をしなかったりするので八方塞がりです。これはビジネス構造上の問題なので、制作会社だけが悪いわけでもなく難しいところです…。逆に各社のエース級人材が担当になってくれたらラッキーです。企業サイドからすると運の話です。

ただ解決策はありまして、最近増えていると聞く、制作チームに実績豊富なコンサルタントを1人入れるパターンです。私は、年間で数件〜10件ほど、統合報告書やCSR報告書の制作アドバイザーとして、プロジェクトチームに参加させていただいてまして、こういう例が増えてきていると(複数の制作会社の方から聞きました)。ちなみに、コンサルタントは制作会社の人間ではなく別の企業の人間になります。同じ組織内だとセカンドオピニオンにならないので。

制作会社(受注側)は、基本的に発行企業(発注側)に反論しにくい構造になっています。あんまり厳しく言っていたら切られちゃいますから。しかし、第三者の専門家を1人入れることで、より“正しい方向”に進みやすくなります。しかし、制作会社も利幅が減るので自分たちで完結したいんですね。だからプラスで人は入れたくない、ということでいうほどこのような事例は多くなかったそうです。

形式上の第三者意見(大学の先生が多い)ではなく、価値創造プロセス(価値創造ストーリー)の作り込みから専門家が入ることで、より明確になるというか。競合のサポート価格は知りませんが、別にそこまでの予算はなくてもできることなのにね。

まとめ

ウェブコンテンツとしての統合報告はまだまだ過渡期です。2019年・2020年と、コンテンツ・リニューアルをしてプレスリリースを出した企業はぼちぼちありますが、全上場企業を見ればごく一部に過ぎません。ほとんどの上場企業は、ウェブコンテンツの可能性を過小評価していると私は感じていますが、後で後悔しても知りませんよ、としかいいようありません。

私としては、国内全上場企業と非上場大手企業(約3,800社)のCSR/サステナビリティ・サイトを目視で定点観測している、たぶん全世界で唯一の人間だと思いますが、企業の統合報告が冊子を指していた時代から、ウェブコンテンツを含めたものになってきているのを感じています。

社会的なDX(デジタル変革)の流れも、この動きを後押ししているのでしょう。SDGsも2015年当時からDXが重要って言われてましたよね。世界を変革するには現代の延長線上にない未来を作る必要がある。それを実現できるのはテクノロジーしかないと。そのSDGsの本丸の情報開示のデジタル化が遅れていては、この5年間なにやっていたの?と。

過渡期は、常に入れ替わるトレンドに振り回され、自分の立ち位置を見失いがちです。こんな時こそ、確固たるパーパスをモノサシとして、まっすぐ前に進みましょう。

ちなみに、デジタルコンテンツとして動画が良い、という人たちが多いですがそんなことはありません。あまりにもケースバイケースすぎる暴論です。エビデンスもありますがこちらは内緒です。

というわけで、またしても統合報告およびCSR報告の担当者の悩みの種が増えてしまったわけですが、情報開示の質はもちろんのこと、方法論を間違えると、伝わるものも伝わらないよ、という話でした。課題を早く確実に解決したい方は、当方の「第三者評価」サービスをご利用ください!

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