中小企業にも使えるCSR/SDGs
2020年度は、世界的なコロナのパンデミックのせいで、統合報告書やサステナビリティレポートの制作など、年次で決まっている大きなタスク以外はうまく進められない、という企業も多いようです。
アフターコロナの時代では、労働安全衛生を含めた「人権・労働慣行」がCSRの大きなポイントになるわけですが、戦略上の方針に変更はなくても、現場のCSR活動に関しては、色々と変えなければならない点がでてきます。
そんなウィズコロナの時に、CSR/SDGs推進におけるボトルネックを早急に見つけなければなりません。「成功に偶然はあるが、失敗に偶然はない(読み人知らず)」です。そこで本記事では、この10年のキャリアの中で見てきた、CSR推進の課題・問題をまとめます。これらの課題は、中小企業でも大企業でも基本的に同じです。
CSR活動の真意を問う質問
1、近い将来に起こる重大課題を理解し監視しているか?
2、資源の制約がおよぼす影響を理解しているか?
3、透明性がいっそう重視される世界でどのように事業を行うのか?
4、自社のリスクと機会の両面を理解しているか?
5、ステークホルダーと協働する準備はできているか?
非常にざっくりしたものですが、CSR活動全般に関して、これらの質問に答えられるかを考えると、色々と情報整理できるかと思います。CSRもESGも根幹は同じで、「ビジネスモデルに関わるリスクと機会をどのように認識し、それらに、どのように対応していくか」という考え方が必要です。
つまり「事業に深く関わる課題を認識しているか」と「認識した課題にどうアプローチするか」の2点を明確にする必要がある、というイメージです。この2点が明確ではないCSR活動は、そもそも実施する意味ありませんよね、となります。
CSR活動に王道はない
私は、CSR活動に王道はないと思っています。
例えば、CSR関連のアワードやランキングで、トップになりタイトルホルダーになる企業が毎年いくつもあるわけですが、“タイトルホルダーらしいCSR活動”などなくて、それぞれの企業が自社なりのCSRを進めているだけなのです。だから事例研究はあまり意味がないです。大学の先生が研究したり本書いたり、というのであれば意味はありますが、現場の担当者は他社に成功事例を求めず、その時間で少しでも社内を見渡した方がいいです。
そうはいっても「イメージしやすいから」「企画書が通りやすくなるから」などといって、事例をひたすら集める癖が多くの方にあるようですが、それはたしかにそうなのですが、他社の事例を真似してうまくいった例をほとんど知らないし、事例は参考程度にしたほうが、逆に発想に縛られないので自由にできと思うのですが…。
いずれにしても、CSR推進に特効薬はありません。もし、活動推進に効く施策があるとすれば「地道にやり抜く」とか「凡事徹底」などです。サステナビリティとは、成果だけが持続可能なインパクトになればいいのではなくて、プロセス(推進実務)もサステナブルに、未来永劫、継続的にする必要があります。
活動におけるPDCAの課題
あと、最近強く感じているのは、PDCAのPlan(活動計画)は、もはや評価に値しないということです。いやプランは重要やろ、と突っ込みが来そうなので補足しておくと、Doコストが大きい企業にはいまだにプランは重宝されます。1回しか行動チャンスが許されない状況では、実施前に1%でも確率の高いプランを練りあげざるを得ないですから。
そういう傾向の企業では、活動計画を年単位の時間をかけて作ったりするわけです。事業もそうですが、最終的にはやってみないとわからないのだから、小さくでもいいから始めないと結果はでないので、計画よりも実行の優先度を上げるべきと考えています。難しい問題です。
大企業のCSRの問題の一つは「方針と実践の乖離が大きい」という点があります。具体的には、強制労働の禁止がサプライヤー行動規範には盛り込まれていても契約書では要求されていない、苦情処理メカニズムの設置がうたわれていても労働者が信頼して利用しているかの証拠(実績)の開示がない、障害者雇用推進の目標があるものの採用割合が10年間変化していない、といった例が挙げられます。
つまり「言ったことができていない」というダブルスタンダードの話が多すぎる、ということです。SDGsと経営を統合しています!という企業が、2030年の定量的な経営目標を開示していなかったらダメなのです。
現実の壁は上司と経営者
CSRでもなんでもそうですが、端的には「やってみないとわからない部分があります」としか説明できない場面があります。なので、旧来のマインドセットのままだと、社内の管理職的には「オレにどうやってハンコ押せって言うんだ」となりがちです。成果が見えにくい施策をしたいですって、そりゃそうだ。
日本の大多数の、普通に働いている人々にとって大事なのは「上司が許可してくれるかどうか」です。社会がどうだ、ステークホルダーがどうだ、とはいうけど、CSRの実務担当者からすれば、上司の許可がなければ何もできないわけです。
企業は組織である以上、組織としての決定は自分だけではできません。逆に決定が簡単にできてしまうと、それはそれでガバナンスに問題があるとなって、社員の暴走を止める動きが出てくるわけですから。
そんなロジックがあるからこそ、自社にリターンがより大きいとされるCSV的な発想のみが社内で語られることになり、企画もCSV的なものしか通らなくなります。「当社の環境活動はCSVなのかどうか。もしCSR(慈善事業)であるなら、法令対応の最低限しかしない」みたいな流れです。
本来は、その短期的な視点を上げるために、CSRの長期視点が必要になるのですが、全体最適(≒KGI)ではなく部分最適(≒KPI)が進みすぎると、CSR自体が形骸化しがちなんですよね。
だからCSVを全面に出している企業は、リスクマネジメントは弱く、総合的なCSR評価が低かったのです。最近は数社程度、CSVを全面に出しながらもCSR総合評価を上げてきていますけど。
方法論ありきのCSR活動
「社会的な取り組みが足りないからSDGs/CSRを導入したい」というような、方法論ありきの相談を受けることがあります。正しいかどうかは別として、まったくCSR推進活動をしていなかった企業が動き出すことは素晴らしいことです。しかし、大抵の場合、残念ながらうまくいきません。
この10年ほどをCSR推進支援してきて思うのは、うまくいかないCSR活動のほとんどはパターンが決まっていて、「誰のものでもない分厚い資料ができあがるだけ」「アクションプランのアイデアは出るが実施されない」「CSRのセミナー/ワークショップを行ったが知識を現場で使われない」「企画が社内で支持を得られない」、などなどです。CSRに限らず、新規プロジェクトはこのような話がよくあります。
CSR担当者は経営者ではないし、経営者はCSR担当者ではないので、結局誰も“当事者”にならない、つまり活動の主役・主人公がいないものになってしまい、いつの間にかプロジェクトメンバーの退職や異動で、立ち消えになることがあります(細々と続くこともたまにある)。方法論ありきのパターンではこういう終わり方も多い印象です。
また、トップの意向でCSRの取り組み実施は決まったものの、活動を育てるリソースがなく、自然消滅してしまうこともあります。ご存知のとおり、新しいプロジェクトは立ち上げるより続けることの方が難しいのです。
CSRは重要な長期経営戦略であると理解がだいぶ進んだのですが、どうしても即時的な成果を求めてしまい、なかなか実行に移せない人は多いです。正しい“方法”を伝授されても多くの人は実践に移せない人のです。個人でいえば、健康のためには「適度な運動、適度な食事、適度な睡眠」が昔から重要とされながらも、色々言い訳して、実施できないのと同じです。
組織サイドの課題
そもそも、企業規模を問わず、変化へのインセンティブがあまりない組織で変化を促すのは相当難しいです。CSRとは組織変革やビジネスモデル強化を行う考え方でもあるため、既存の組織構造の中でCSRを新規で進めるのは難しいのですよ。本来のCSRは知識や座学ではなく、連続した行動の総称であるべきです。行動なきところに成果は生まれないのです。
CSRを現場に落とし込む時の注意点でもある「習慣化させつつ成果も得る」というのはハードルが高いので、「習慣化するフェーズ」と「成果を得るフェーズ」を分けて考えるのもよいでしょう。
これまでの事業活動を変えていく、ということは現場にとっては当然に痛みを伴うものです。誰だって慣れ親しんだものが良いものです。だからこそ、たとえば、現場には新たにCSR活動をするという説明ではなく、業務はいつも通りでよい。そのかわり業務管理する項目を1つだけ変更する、という方法もあります。
世界中で盛り上がるSDGsも、CSR活動推進の“魔法の杖”ではありません。導入するだけで社内のCSR推進が効率化されるというのは幻想です。CSRに関する業務システム導入と同時にルールの見直しも行わなければ、効果は限定的になってしまうでしょう。人も組織も結局外部要因でしか変われない、というのは真理だと思います。
まとめ
CSR/サステナビリティ推進には、必ず突き当たる壁があります。その一部を本記事で紹介させていただきました。
CSR活動実務に関しては、第三者が偉そうに語るものでもないと思う反面、自社内の課題は社内の人間には認知しにくいことも多く、もっと上手く私自身も関われたら、機会ややる気があるのにうまくいっていない不幸な企業が一社でも減ればいいなと思うわけです。
CSRの戦略を考えることも重要ですが、実践されないことには成果を創出することができません。コロナで大変な時代となってしまいましたが、自社のステークホルダー/社会の間にあるリスクと機会を明確にして、地道に改善活動をおこなっていきましょう。
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