日本企業のCSR/サステナビリティ情報開示の課題

CSR報告書

CSR/サステナビリティ情報開示

CSR/サステナビリティのレポーティング・ガイドラインは何を参考にすれば良いですか。10年前も今もまったく同じ質問を定期的に受けます。

主宰している勉強会でも質問がありますが、そこでは私の知る限りのことを丁寧にお答えしているつもりですが、講演したセミナー等の名刺交換をする数分で、それぞれの日本企業にあった形を提案するのは不可能です。

しかし担当者の方々のお話を聞くかぎり、世間では“一般論”の情報さえあまりない(もしくはたどり着けない)ということですので、本記事では久しぶりにCSR報告書制作を含めたCSR/サステナビリティ情報開示のポイントをいくつかまとめたいと思います。

ただし、ESG情報開示やESG評価機関向け、財務情報との連動の詳細ではなく、純粋なサステナビリティ情報開示をメインとします。

主要情報開示フレームワーク

コンサルティング会社等のレポートや私の全上場企業の情報開示調査の経験を踏まえると、CSR/サステナビリティ・レポートで参照されているのは、「GRIスタンダード」「環境報告ガイドライン」がダントツの2トップです。参照と明記されていない場合もありますが「ISO26000」も根強い人気です。

もちろん、最近では統合報告書よりのCSR報告書も増えており、「IIRCフレームワーク」「TCFD」などが参照される例も増えています。2019年現在で、日本のCSR/サステナビリティ情報開示フレームワークおよびガイドラインとなるのは、以下のものがあります。

◯CSR分野
・IS026000
・GRIスタンダード
・SDGsを企業報告に統合するための実践ガイド
・SDGコンパス
・国連指導原則報告フレームワーク
・環境報告ガイドライン

◯ESG分野
・IIRCフレームワーク
・TCFD
・SASB
・CDSB
・CDP
・インフォーカス:SDGsに関するビジネス・レポーティングにおける投資家ニーズへの対応
・価値協創ガイダンス
・WICIインタンジブルズ報告フレームワーク
・コーポレートガバナンスに関する報告書
・ESG情報の報告に関する企業向けモデルガイダンス
・投資家と企業の対話ガイドライン

◯参考:CSR活動の参考ガイドライン
・パリ協定
・国連グローバルコンパクトの10原則
・OECD多国籍企業行動指針
・経団連企業行動憲章
・SDGs実施指針/SDGsアクションプラン/Society5.0(政府)
・グローバルリスクレポート(世界経済フォーラム)
・各業界団体の推奨活動ルール

※CSR/ESGの重複箇所も多いが暫定として分類
※大手ESG評価機関の評価項目も“事実上の開示フレームワーク”ともいえる
※すべてを参照しろということではないが、少なくとも内容は把握しておくべき

使用単語の注意点

ガイドラインは上記のものなどを参考にしていただくとして、ここからは、レポーティングのテクニックの話です。これらは一例ですが、CSR報告において「NGワード」は確実に存在しますので注意しましょう。

CSR報告において、2010年代前半でよく見た「優しい」というワードは注意です。「環境/地球に優しい」など、何かポジティブな意見のようで根拠もなく、程度も曖昧でもっとも“グリーンウォッシュ”な単語の一つです。CSR報告ですのできちんと「環境負荷が低い」とするほうがよいでしょう。

「優しい」のような、人によって定義やイメージが異なるワードは誤解を生みかねません。自社の意図通りに物事を伝えたいとなれば、明確な表現をこころがけるべきです。そうなると「CSR」も国際的な意味ではなく、マイケルポーター氏らのように「CSR=慈善活動(社会貢献活動)」と理解している人たちも多いので、CSR以外の単語利用も検討すべきと言えるでしょう。これは深い理由があるのでどこかで詳細記事を書きます。

あと製造業などで多いですが、CSRカテゴリの項目に「品質」とか「安全」という項目を作っている企業があります。言いたいことはわかるのですが、CSR文脈としての単語の意味はわかりにくいよね。つまり主語や対するステークホルダーが誰なのかがわかりにくいのです。

わかりやすさ、とは

CSRはコンテクストを含めて理解しやすい概念とは言えません。色んな人が色んな定義を作っているからです。そのため「わかりやすさ」がより求められるカテゴリと言えるかもしれません。ではCSR報告における「わかりやすさ」とはなんでしょうか。(ちなみに私のCSRの定義はISO26000をベースにしています)

具体的なところでいうと「相手の言葉で説明する」とわかりやすくなります。これはピータードラッカー氏も著書で言っています。例えば「従業員自身の通常業務を例に説明する」などです。実は、日々の業務がCSR活動に直結するものであり、そのはるか先でSDGs等につながり貢献しているという、ストーリーを伝えるのです。従業員にわかりやすく説明することのポイントは“相手が何を知っているか”を知っていること、である。

CSRの情報開示やステークホルダー・エンゲージメントは相手(ステークホルダー)あってのこと。ビジネスの現場では「相手の立場になって考える」といいますが、「相手の立場になって考える」を具体的にいえば、相手の言葉を使う、ということにもなります。

必ずしもステークホルダーは論理(ロジック)だけで企業の意見に納得しません。「論理的な正しさ」と「わかりやすさ/共感しやすさ」はイコールではありません。論理的なCSRの説明が無意味とは言いませんが、必ずしもロジックやエビデンスがすべてではないのです。

万人受けする見せ方をすれば「くだらない」、ロジックを説明すれば「難しすぎる」になるのは世の常。コンテンツは相手に合わせて多層構造に作らないと厳しい。作り手側のあるある話。みなさんもお気をつけください。

発信内容

情報開示の本質は、常に「言ったこと」のほうではなく「言わなかったこと」のほうにあります。というのも「言わなかったこと」は弱点である可能性が高いからです。(弱点を積極的に開示する企業はまずない)ですので情報の網羅性が重要視されるのです。情報の非対称性があり、ステークホルダーは企業が言及していない課題があると、それについて推測するしかありませんので。それで大抵の場合は前述したように、開示されていないものはネガティブな評価がされます。

しかし、最近は、CSR評価の高い企業を中心に網羅的な情報発信がされるようになってきています。多くの企業では、もうCSR報告はそれなりのレベルでできているんですよ。問題は質というか。CSR企業評価という面では、情報が「不十分(開示不足)」というよりは「わかりにくい」という指摘を専門機関の方から聞くことがあります。これは私も企業評価をしていて感じるところです。

日本の大手企業は、特に統合報告書を発行するレベルの企業の500社程度は、開示すべきCSR/サステナビリティ情報は網羅的に開示している(しようとしている)のですが、情報がとにかく見にくい。原因の一つは「インデックス(目次)」です。CSR報告書やCSRウェブコンテンツは“斜め読み”がほとんどなので、目次を徹底的に考えないとうまく伝わらないコンテンツになってしまいます。

ステークホルダーの関心

ただ、たとえば、興味レベルが1の読者(ステークホルダー)を急に10まで高めるのは難しいです。だからこそスモールステップを用意することが重要なのではないかと思います。読者層ごとのコンテンツといいますか。そうなると、いくつかポイントがあると思っています。例えば以下のようなポイントです。

・興味のない人に興味を持ってもらうのは難しい
・「伝わる」のは相手が聞きたいことだけ
・人は起こってない問題には基本的に無関心(自然災害など)
・ステークホルダーに対して自社の“明るい未来”をどう説明するのか
・論理よりも感情に訴えたほうが伝わる

このあたりのコミュニケーションの課題が解決できれば、情報の質を一歩先に進められるかと思います。

報告書制作における課題

報告書の新規発行企業

ご相談をいただく一番多い課題は「何から開示すれば良いかわからない」です。初めての報告書なので、当然すぎる悩みです。

私がアドバイスさせていただくことはシンプルです。CSR報告書を「どこにいる、誰に」読んでもらい「どんな行動を期待するのか」をまずは考えましょう、と。つまり成果(行動変容、アウトカム)から考えましょうと。

そもそも、CSR報告書を発行するということは何かしらの意図があって始めるはずです。その根本となる目的をブラさないよう制作する必要があります。

すでに発行している企業

ご相談をいただく一番多い課題は「次に何をしたらよいかわからない」です。色々ヒアリングをすると「制作会社に不満がある」というパターンが多いです。

私がアドバイスさせていただくことはシンプルです。「制作会社の担当者とちゃんと話をしましょう」と。コンペだと、過去の会社実績や予算の安さなどをみがちですが(それはそれで重要ですが)、発注した場合は制作会社側の“担当者”で御社の報告書の品質が決まってしまいます。ごく一部の企業をのぞき、制作会社の“担当者”の力量で御社のクオリティが決まるのです。担当者の力量以上のクオリティになることはまずありません。

これはけっこう怖いことなんです。もちろん、制作会社がすべて悪いというわけではなく、企業担当者の“無茶振り”や、短納期・低予算でリソースが使えずに“安かろう悪かろう”になってしまうなどもあります。いずれにしても、制作会社も企業も双方にリターンのある形であれば良いと思うのですが…。

まとめ

CSR元年(2003年)とされた年から15年以上がたち、企業のCSR報告は格段にレベルアップし、開示レベルだけでいえば“それなり”な企業が増えてきています。

2020年以降の課題は、先進企業であればより「ビジネス成果を創出しうる情報開示」が、これから積極的にCSR活動と開示を行うという企業では「情報量」が課題になるでしょう。

私が本記事でまとめた課題等は、特に変わった話ではないのですが、レポート制作を進めていくと意外に見落とされてしまう視点も多いと思います。自社の開示に客観的な視点を取り込むというのは非常に難しいものですから。

あと、CSR報告の内容もですが、制作会社の選び方で悩んでいる企業は本当に多いです。このあたりは色々アドバイスできると思いますので、ご質問がある方は【お問合せ】からご連絡ください。都合がつけば訪問でヒアリングもできます。件数が多ければメールでのアドバイスになると思います。もちろん無料です!

以下の記事でも制作ポイントをまとめています。ぜひご確認ください。

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