CSV経営における企業戦略の課題と展望–経済合理性の罠とマーケティング

CSV経営と戦略構築

昨今はSDGsの話題が大盛りあがりですが、その影響もあってか話題が少なかったCSV(共有価値創造)に再び注目が集まっているように感じています。

私は、セミナーなどでも話をしますがCSR活動において「儲かるCSR(=経済合理性の高いCSR活動)」が重要というスタンスです。ですのでCSVはかなりな推進派です。仮にCSR活動自体に経済合理性がないとしても、その波及効果(社会的インパクト)によって、最終的に企業に経済的リターンがあるべきだし、それを目指すべきです。儲かるCSR、というのは実際難しいですがそこは諦めてはいけない部分です。

しかし、CSR活動が、経済合理性や法律対応という概念で縛られている時点で、本来企業が担うべき社会的責任(役割)が見えなくなっている可能性があります。各種法令にしたがうのは当然として、CSRはもっと自由に社会的な役割を規定し、そこに向かうべきなのではないでしょうか。

というわけで本記事では、最近のCSVの流れも含めて、ポイジティブ/ネガティブ両面の考え方についてまとめたいと思います。

CSVの最近の受け止め方

2011年にマイケルポーター教授らから強烈なコンセプトのもと登場したCSVも、2015年のSDGsの登場により、見向きもされないというほどではないしても、言及やら取り組みはかなり下火になってきたイメージがあります。その考え方は下火になったいまでも非常に重要なものであることには変わりはありませんが。

CSVの登場からもうじき10年となり、バリューチェーンにおけるCSRの概念の浸透と進化をしてきた結果、CSRとCSVの違いを論じる意味も大してないとみんな気づきました。CSRからCSVへといって、CSRをないがしろにした結果、どのような不祥事があったかはご存知のとおり。CSRとCSVの差を大学の先生が研究するならまだしも、ビジネスシーンで一般人が論じたところでもはや意味はほとんどありません。

みんな成功事例を求めるけど、なにが“成功”か定義できていないので、結局、自社の取り組みに活かせないないんですよね。日本企業の担当者は真面目な方が多く、情報収集して事例を集めることは徹底的にするのですが、それを実践できないんですよね。少なくともこの8年でCSVの成功事例だと私が考える企業は10社もありません。

どのビジネスカテゴリでもそうですが、ビジネスセミナーのテーマはその時々におけるトレンドをピックアップしていることが多いです。最近はCSVをテーマにしたセミナーは皆無ですし、SDGsをテーマにしたセミナーでさえ随分減りました。今はESG投資関連が最も多いでしょうかね。

CSRもCSVも、もっと大きな概念である「サステナビリティ」に置き換わる例が増えている印象です。CSR活動全般を「サステナビリティ・マネジメント」とカテゴライズする企業も増えています。

経済合理性重視の危険性

企業とは、そもそも経済合理性だけで動いているのではなく、経済合理性が第一義にならないステークホルダーに配慮した活動も含めた組織であります。

「経済的価値を創出するCSR/CSVを重要視する」がなぜ危険かというと、経済的メリットの主語は企業であり、必ずしも社会が主語になってはいないからです。社会に貢献しているかのようにみえて実は公益ではなく私益を求めているにすぎない場合も多々あるわけです。

「経済合理性のあるCSR活動」は存在しうるもの、それをゴールとして目指すとなると、マーケティングやセールスの話になってしまい、本来の社会的責任論からはずれてしまう、つまりそれはもうCSRではなく社会性の高いマーケティングの話であると。合理性や効率性は主語が自社であり、必ずしも公益性の高いものであるとは限りません。

経済合理性を求めると、マーケットニーズがあるカテゴリでしか行わなくなる課題もあります。これは諸刃の刃です。CSRにマーケティング要素を求めすぎたあまり、ステークホルダーのニーズ(課題解決)から遠ざかってしまうのです。課題解決自体は儲かるかどうかわかりません。ですので、本来は儲からないかもしれませんが、できるだけ経済価値も創出できるようにと工夫する話だったのが、最終目的が“儲けること”になると公益性は二の次になってしまうのです。(実際こういう会社は多いです)

マーケティングとしてCSRを考えることは難しい。なぜなら、マーケティングのターゲットは「顧客」であり、CSR活動のターゲットは「全ステークホルダー」なので目線が、そもそも異なるのです。それを同じ文脈で説明しようとするからロジックが破綻するのです。相反する利害を持つ様々なステークホルダーが納得する施策は、顧客視点では対応しきれません。

社会貢献的なマーケティング

マーケティング的なことでいえば、かつて「LOHAS」(ロハス、Lifestyle of Health and Sustainability)という概念がありました。当初からマーケティング用語に近い形で使われていて、本質が明確でなかった分、廃れていったのも早かったです(これは結果論にすぎませんが)。「BOPビジネス」や「インクルーシブビジネス」もSDGsに取り込まれ、いまではほとんど使われていません。マーケティング概念はとにかく流行り廃りが早い。コーズマーケティングも、東日本大震災以降は数多く見かけたわけですが、最近はたまにみかけるだけで廃れてしまった感が正直あります。

CSVも含めてですが、社会貢献的なマーケティングの一番の問題はマーケティング・コンセプトありきであり、定義・手法・ゴールを明確にできなかったのが、普及をさまたげた要因の一つであると推測しています。SDGsはコンセプトもゴールも明確で、手法に関してもガイドラインや手引きが様々な機関から発表されている点が普及を後押ししていますよね。実際にはどういうやり方がCSVであり、どういうやり方がCSVでないかが明確に決まっているわけではありません。それを第三者が判断することもできません。ですのですべての事例が“自称”で終わってしまうのでしょう。

CSVもネスレではなく、他の企業が進めるのであれば「3つの手法」以外に、ゴール等明確なラインがあればもっと普及したかもしれません。これも結果論ですが、CSVは当初から不完全だと言われてました。手法は示されてるけどゴールが明確ではないので“言ったもの勝ち”になるぞ、と。概念自体はCSRの世界を激震させたエポックメイキングなコンセプトであることは事実ですが、ちょっと振り回されてしまった様子が見られます。

どんな概念でも、5〜10年もたてば、社会の変化により新しいものに置き換わっていくのは当然ではあります。ですので、来年以降、2020年代に入ればもうマイケルポーターらのCSV発表から10年となります。そう意味では経済的価値のインパクトうんぬんではなく、経済的価値の創出と社会的価値の創出はゼロザムではなく両立しうることが広まったことがCSVの最大の功績なのかもしれません。

CSRの成果と価値

そんなCSRマーケティングは、2011年以降、紆余曲折はあったものの、企業にも社会にもだいぶ浸透しましたよ、と。その次に注目され始めているのが「インパクト評価」です。つまり、CSRのマーケティング側面が重要視されたのも、そもそも、CSRの成果や組織へのリターンがよくわからなかった(因果関係を証明できない、そもそも効果測定できない)ことが発端の一つです。

そんなマーケティングの失敗もふまえて、CSRの成果を今一度、別の方向から見直しす必要性を皆が感じ、成果の定義や測定に取り組む企業が増えてきています。それが「企業価値向上」とか「経済的・社会的価値の創出」という「価値」という概念を中心としたフレームワークになった、ということです。

今後のCSRセクターで求められるのは間違いなく「成果」です。アウトカム/インパクトともいいます。1990年代、2000年代、2010年代と、曲がりなりにも進化し続けてきたCSR/サステナビリティですが、2020年代に入り、ミレニアル世代(1980〜1995年生まれ、私はここの世代)やZ世代(1995〜2010年生まれ)が、労働人口の多くを占める時代となります。2030年のSDGs達成年に向けた2020年代において、CSR/サステナビリティをどれだけ加速させることができるのか。

CSVありきで経営戦略を考えるのではなく、経済的・社会的インパクトという成果を生み出すためには何をすればいいか、という成果から逆算するのが、サステナビリティ経営の戦略構築方法です。これは「バックキャスティング」とか「アウトサイド・イン・アプローチ」などとも言われます。その結果、CSV的戦略が決まればそれでいいですし、CSVのフレームワーク以外のほうが将来的に成果が生まれる(価値創出ができる)のであればそれでいいわけです。

CSVの問題・課題

例えばCSVは今でもCSR界隈では重要な概念として扱われますが、CSR/ESG企業評価においては「CSVをしていますか」というような設問はほぼありません。CSVの経済価値と社会価値を同時に創出するという考え方は非常に重要なものの、良くも悪くもいち経営学者のコンセプトでしかなく、CSRほど法制化もされていません。

このように、評価機関の評価項目にはほとんどない項目でも、実践面で重要視されるCSRの取り組みというのは一定数あります。これらを信念をもってどこまで対応できるか。言うなれば、社会的価値が高いがあまり儲からない事業をどこまで許容できるか、です。

つまるところCSVとは、“CSRの戦略の一つ”でありそれ以上でもそれ以下でもないのです。CSVは、すべての事象に効く万能薬ではなく、特定のコミュニティというかエコシステムの中で本領発揮するロジックなのではないでしょうか。結果論として、経済合理性のあるCSR活動が実践されたり、高いレベルの社会的価値創出ができているビジネスモデルがあったりするのです。

それこそ、CSVをCSRの中心戦略にしている企業の「過去3年の業績」を見てください。経済価値がどうこう言っている会社でも5年間業績が横ばいとか普通にあります。結局、価値創造できてないじゃん。そうやってKPIを経済価値基準で見るから墓穴を掘るわけです。御社のCSVが、社会・ステークホルダーのニーズである課題解決に“本当に”貢献し、経済価値も同時に生み出しているのであれば、何も問題はありません。問題なのは、ただのCSVが戦略論で見せかけのものであり、実際はちょっと見栄えを変えただけの、普通のマーケティングやセールス活動です。それをCSVと言えるなら、どの企業だってCSVしていると言えますよ。でもそれでハッピーになるステークホルダーは増えるんでしたっけ?

まとめ

CSV論がCSR界隈にイノベーションを起こしたのは間違いありません。コストセンターだった概念および部門が経済価値創出にも貢献できるとわかったので。

どうしても企業担当者としては“社内ウケ”するトレンドや概念に頼りがちですが、本来であれば、経営企画やマーケティングの部門と連携して、ゼロから自分たちの言葉でコンセプトメイキングをしたいところです。

特に“本業でCSR”となると、経済合理性を最重要視するがあまり社会的インパクトをないがしろにしする傾向がありますので、CSVに限らず、ロジックは丁寧に作り込む必要があるでしょう。

CSVが死語になりつつあるのは事実ですが、CSVの視点の重要性がなくなることはありません。特にCSRはマクロな視点が求められるので、ミクロのマーケティング戦略に引っ張られすぎないように気をつけましょう。正直CSVを実施しやすい業種・業態・規模もありますので。

じゃあ、どういうCSVが最も効果的なのかという話は、また別稿でまとめたいと思います。

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