3年たったSDGs

SDGsが採択されて9月25日で丸3年となりました。この3年で大手企業を中心に、ビジネスセクターでもだいぶSDGsの考え方が浸透したように思います。

そもそも、SDGsの底流にある考え方は「長期的視点」「多様なステークホルダーへの配慮」「課題解決を通じた社会貢献」といった考えです。しかしながら、これらは“善悪二元論”で説明できるほど簡単な話ではありません。ある人にとっての正義が、ほかの誰かの正義であるとは限らないのです。

SDGsのゴール/ターゲット/インジケーターは、人類の大義であり野心的なものでもあります。しかし、ビジネスセクターで勘違いしている人が多いのが「SDGsは目標ではあるが目的ではない」という部分です。俗に言う「SDGsウォッシュ」も同時に広がっているのです。

では、この3年で見えてきた、SDGsと企業経営の関係性を改めて振り返ってまとめたいと思います。

SDGsの企業における課題

1、グローバル課題

1社、1業界、1地域というレベルではSDGs達成はできません。ヨーロッパもアメリカも他の国々も、そのカルチャーギャップも越えて社会システム全体で取り組む必要があります。逆にいえば、自社だけががんばったところでSDGs達成なんて不可能なのです。このままいけば、みんな言わないだけで、絶対に達成できません。できると考えている人がいるとしたら、2030年前後で定年になる人か、相当おめでたい人だけです。当事者意識があれば、お気楽な話などできないはずなのですが…。

さて、この「ゴールからスタートする」ことの理不尽さと大変さを理解し、自社のベクトルを修正できる人は、日本にどれくらいいるでしょうか。この課題の大きさは、これまでのCSRにないレベルであることは、大きな課題の一つと言えます。

2、価値創出の認識

一方で、SDGsが経営に与える「付加価値」については、ほとんど理解されていないようです。日本の企業の多くは、SDGsの各目標との緻密な紐付けこそ行っているものの、そこにとどまり、経営戦略や事業計画につなげている事例は少ないです。いわゆる「ゴール」ではなく「ターゲット」レベルでの対応かどうか、です。

現在、SDGsは各目標が個別・独立しているように理解されて“対応表”等が作成されていますが本質は逆です。17の目標は結びつき、1つ解決したら他が深刻化したり、複数同時でなければ解決できないという複雑な関係で存在しています。

SDGsを理解する上で最も重要な概念は、個別のゴールを追うことではなく、SDGs自体のゴールである「誰も置き去りにしない(no one will be left behind)」を達成するために、17のゴールが設定されているという点です。そのあたりの本質が語られず、セミナーやイベント、ワークショップに参加して満足してしまっている人が多いのは、なんとも残念ではあります。誰か指摘してあげなよ。

3、未来を考察するSDGs

未来は誰にもわからず明日のことでさえ予測するのは不可能です。Tomorrow never knows です。しかし未来に“展望”や“希望”を抱くことはできます。その1つがSDGsです。SDGsによって“一度壊してしまったら元に戻らない”という大切な物事に気づくことができるのです。

SDGsをフレームワークとして、リスクと機会について考える第一歩は「気づく」ことです。「気づき」の典型的な例は、マテリアリティ特定ですね。中期経営計画への組み込みも一つです。これは3〜5年ごとなので、毎年何かをするわけではないですが、社内コンセンサスを考えると、時間の猶予はあまりないでしょう。

しかし未来予想図にも課題が。SDGsは2030年のゴールだからと考える人は多いと思いますが、ターゲットでは2020年をゴールに設定しているものもあります。2020年まであと2年です。今から動いても達成はほぼ間に合いません。つまり、SDGsへの取り組みはまさに「いまでしょ!」なのです。

多くのゴールは12年先だから?違う違う。課題解決や緩和のゴールは12年後ですが、その課題は今現在、目の前に存在し続けているのです。SDGsは「12年後に解決すれば良い問題」ではなく「できるなら明日にでも解決すべき課題」なのです。ただ、現実には明日に解決は不可能なので徐々にやろうぜ、という話なのです。

現在進行形で社会課題によって困っている人々を目の前にして「解決はするから12年間まで待っててね」って言えますか?この感覚を企業担当者の多くが持ってないのです。解決をいそがなければならないのは個々の企業の責任だけではありませんが、この危機感というか、現場感というか、これを我々は常に意識すべきなのです。

ようやくできた世界の共通言語

SDGsを1社だけ理解し実践していても「こいつは一体何を言っているんだろう」と周りのステークホルダーに思われるだけです。共通言語(共有価値)がそろわないと議論ができません。その世界の共通言語がSDGsで、アクションはステークホルダーエンゲージメントです。

グローバルな時代だからこそ、ローカルな価値が相対的に高まっている点も指摘しておきます。SDGsは世界共通概念だけど文化ではありません。現在、世界では重要な社会問題とされているものでも、SDGsに含まれていない項目はたくさんあります。200カ国の合意となると、すべての項目を明確に決めることは現実的ではありません。

そもそも文化とはローカルにしか存在しえません。だからこそビジネスにおけるSDGsの本質は「グローバルな地域で展開される“ローカル課題”への対応」です。ここに潜む価値をどうやってみつけて、どのように最大化するかを考えるべきなのです。

SDGsは人類文明史上、もっとも画期的な国際施策の1つです。地球を代表する人たち(200近くの国や地域の代表者)が集まり、全人類が全人類のための共通目標を決めた、前代未聞で空前絶後の枠組みです。いままでのCSRのコンセプトとは違いゴールの期限・数値が明確でありモニタリングが定量的に行えるようになっています。短期に焦点を当てるのではなく、中長期視点で社会ニーズをイメージし対応しなければなりません。

10数年後を見据えた世界をイメージし、10年数後に成果を最大化すべく、ビジネスのあらゆる側面における意思決定を行わなければなりません。御社が10年以内に倒産するのであればその必要はないですがそうではないですよね?まさか、現時点の経済システムが“持続可能な経済システム”と思っていないでしょうね?

日本企業とSDGs

一方で、SDGsの指標が企業に対して重大なリスクテーマを投げかけていることも無視できません。SDGsで掲げられた目標を達成できなければ、社会の持続可能性が損なわれる可能性が大きいのです。

そこで、リスクマネジメントの観点でもSDGsを捉えることが重要となります。リスクマネジメントの本質は、社内・社外の環境変化を捉え、自社の目標を達成するための機会や損失の発生の可能性を把握し、必要な対策を取ることにあります。文字通り、どこまでマネジメントするか、つまりリスクをコントロール下に置けるかがポイントです。

SDGsの目標達成に向けた社会変化を把握し、それに伴うリスクと機会を検証し経営戦略に落とし込んでいくことが重要となります。しかし、日本企業においては、SDGsやCSR、リスクマネジメント、経営企画、広報など、業務の縦割りが顕著であり所管する部署がバラバラで、それぞれの意思決定・取組が連携しているとは必ずしも言い難いケースがしばしば見られます。

リスクをマネジメントする組織自体に、一番大きなリスクがあるという笑えない状況は大なり小なりどの企業もあるものでして、悩ましいところです。

SDGsの推進施策

そもそも論で恐縮ですが、SDGsは国家的な枠組みであり、別に企業向けのフレームワークではありません。個々のゴールやインジケーターの達成に貢献することは不可能ではありませんが、SDGs達成のために年間予算500兆円ともいわれるボリュームの話なので、1企業が動いたところで、何も状況は変わらないというのが実際の現状です。

特にSDGsのような大きなゴールに関しては、競合と「ここは私たち、そこからは御社でやってね」といった態度をしているレベルでは到底対応できないし大きな動きになりません。競合を巻き込みまなければなりません。経営者層が嫌がりそうな話です。競合と一緒にCSRをする勇気がない企業はBtoBには多いです。

意思決定が難しいアクションは「財務的には正当化できないがSDGsへの貢献度は大きい活動」などです。ソーシャル・ビジネスと言われるものの多くはここに該当します。短期的には儲からない施策をいつまでコミットメントし実践できるのか。意思決定の考え方としては、人材育成、評判向上、ステークホルダーとの関係構築などの非財務価値を考慮して正当化するということがありますが、現実的にはトップが相当なコミットメントをしないと難しいでしょうね。

新規のアクションだと、CSRに限らず「コストはどれだけかかるのか」「いつ結果がでるのか」「いくら儲かるのか」というのが問われ、ほとんどのアクションは企画段階でつぶされます。それは当たり前なんですけど、それをされたら評価や価値創出のプロセスが長い、つまり成果がでるのが数十年後というカテゴリもあるCSRやサステナビリティという領域は不利なわけです。

SDGsをCSR部門ではなく会社全体として進めなければ、社内に浸透もしないし、経営・事業との統合も当然進みません。

まとめ

SDGsに関する民間企業サイドの課題はたくさんあります。今回は課題の視点をまとめてみました。たぶん、答えまで書いてないのでモヤモヤしている人も多いでしょう。お仕事でご一緒する機会がありましたら、答えはバンバンお伝えしていきます。

SDGsの採択から3年。私たちの社会はどこまで前に進めたでしょうか。世界を良くすることができるとすれば、それは、今行動をしているあなたにかかっています。

世界の多くの企業が、SDGsを通じ社会を良くすることに意思決定できれば、もしかしたら、SDGsの多くのターゲットを達成できるかもしれません。本気の企業だけが本当に社会を変えることができます。御社の行動に期待していますし、私もSDGs推進支援にコミットメントして活動していきたいと思います。

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