ステークホルダーエンゲージメントにおける価値創造とは

ステークホルダーを意識すること

私が最近の講演で毎回指摘しているのが「ステークホルダー・ファースト(利害関係者第一主義)」という考え方です。文字通り、自分が主語になるCSRではなく、ステークホルダーや社会が主語になるCSR活動をしましょう、と。

今日のあなたの仕事は、

どのステークホルダーを喜ばせたのか?
どのステークホルダーの役に立ったのか?
どのステークホルダーに感謝されたのか?

このあたりの、ごく基本的な意識を忘れてしまいがちなんですよね。

ルーティン活動が多い大手企業のCSR担当者は、どうしても上司や担当役員の意向に意識が向きがち(組織なのでしょうがない面もありますがステークホルダーには関係ない話)ですが、だからこそ、ステークホルダーや活動の先にあるアウトカム(成果)やインパクト(影響)に、意識を向けなければなりません。

とはいうものの、どんな点に注意すればよいのかは、担当者レベルでは気付きにくいのも事実です。というわけで本記事では、昨今のステークホルダーエンゲージメントにおけるポイントをいくつか紹介します。

ストーリーテリング

ステークホルダーは、企業やブランドの商品・サービスが大切にしている“総合的な価値”を支持している場合も多いです。いわゆる直接的な機能、たとえば、えんぴつなら文字が書けるという価値、それ以外の持っていると自慢できるとかなど、ブランドとしての価値とも言えます。

特にBtoB企業は、直接的な商品・サービスを法人顧客以外は買ったり体験できないため、ビジネスの機能的な側面はエンドユーザーとなる多くのステークホルダーには届きにくいのです。そのためBtoB企業のCSR活動はエンドユーザーがないがしろにされていることが多々あります。

だからこそBtoB企業は商品そのものではなく、それらが生み出す総合的な価値に共感してもらう必要があります。これは、昨今の統合報告書において読み物のページが増えていることと関係していると推測しています。ストリーテリングとも言えるでしょう。

BtoBの商品・サービスの機能(技術)なんて専門的すぎて、ほとんどのステークホルダーにはチンプンカンプンです。しかしアウトカム・インパクトの社会的側面を見える化することで、ステークホルダーが企業を理解し何かしらの意思決定ができるようになります。それこそがストーリーテリングの本質ですね。

エンゲージメントの特性

そのステークホルダーが企業に感じてくれる“価値に対する好意”はとても重要であり、その好意の獲得こそが、CSR文脈にいうところのエンゲージメントだと言えます。

もう一つの特性として、ステークホルダーエンゲージメントは、単発ではなく長期的な活動を通じ継続的に資産化しないと、またゼロからステークホルダー・エンゲージメントを行わなければならなくなる点が挙げられます。これはセールスやプロモーションでいう、新規顧客獲得のようなものであり、かなりリソースを使うわりにはエンゲージメント拡充できにくいのが難しいアクションです。

ステークホルダーの一瞬の気持ちを動かしただけで、あっという間に忘れられてしまうようなエンゲージメント施策はサステナブルではありません。たとえば、テレビCMなどでエコやCSR的な側面を訴求したブランド広告がありますが、ブランディングには貢献してもステークホルダーエンゲージメントとして正しいかは疑問です。間違えないでほしいのですが、CSR活動的には、情報を受け取る間接的なステークホルダーの人数が増えればいいわけではなく、ステークホルダーのエンゲージメント(好意)を増やさなければならないのです。

この10年の企業のCSR活動の動きを見るに、エンゲージメントを資産化しストックできる施策を考え実施することが急務です。これが、ステークホルダー・エンゲージメント・プロセスの最重要ポイントだと考えています。これこそがCSR活動の本丸というか。

商品・サービスなどの通常のビジネススキームが直接的なステークホルダー・エンゲージメントになることはあまりありません。だからビジネスモデル以外にCSR活動が必要となるのです。ビジネスライクに考えすぎるとかえってうまくいかないこともあるのです。このあたりはCSV的発想の限界というか、ビジネス的成果だけが企業活動の成果ではないと。

エンゲージメントプロセスとダイアログ

ステークホルダー・エンゲージメントは、企業活動に対するステークホルダーからのフィードバックプロセスでもあります。ですので、本来はステークホルダーが主体となる活動だとも言えるわけですが、一部の企業にとっては「自己正当化のためのエンゲージメント活動」でしかないこともあります。

余談ですが、ステークホルダー・ダイアログで“本当の本音”を語れる人ってほとんどいないと思います。発言時間が限られているとか、アジェンダにあること以外発言できないとかのリソースの問題もありますけど、ステークホルダー自身が自分のすべての気持ちを把握し言語化できるとは到底思えません。日頃から意識の言語化の訓練をしている人でも、CSRカテゴリにおいてはなかなか難しいでしょうね。

そういう背景からダイアログやエンゲージメントをしなければいけないので、相当難易度が高い領域でもあります。イベントやって「参加者がみんな良かったって言ってました!」なんて小学生みたいなレビューはエンゲージメント活動とはいいません。

別側面のエンゲージメントのポイントも書きますと、たとえば「価値観の多様性」があります。ESG投資家でも、消費者でも、同じカテゴリのステークホルダーの中でも、様々な価値観の人がいるという事実を理解しなければなりません。

例えば顧客というステークホルダーの人間でさえ色々な顔があるはずなんです。人は文脈によって顔が変化する時があります。たとえば、私は、待機児童問題に直面する1児の父親であり、独立して10年になり業界ではちょっとだけ名前を知ってもらえるようになったコンサルタントであり、ブロガーであり、ワインが好きで資格をとったり、業界団体の会員をして日本ワイン普及をしている素人ソムリエであり、と。

そのあたりを理解して、同じ属性のステークホルダーでも違う価値観の人もたくさんいることを理解すべきでしょう。ダイアログの設計・運営は、原稿や台本通りにいけばいいという大企業が多いけど、それらで本質的なフィードバックや課題発見が起きることはまずありません。ましてはイノベーションなんて一生起きません。

ステークホルダーと企業の接点

次に、企業とステークホルダーの接点について考えてみましょう。

今までの企業情報はステークホルダー側から企業にアプローチして集めるしかありませんでした。しかし、今の時代はインターネットを中心にすでに多くの企業情報が常に存在する時代です。これからの情報収集は「見方」つまり「情報収集リテラシー」が重要になります。企業側からすると「見せ方」と「目的」あたりの重要度が増しています。

たとえば、従業員ひとりひとりが、様々なステークホルダーと対峙しているため、いわば、従業員ひとりひとりが“メディア”なのです。ある従業員が、あるステークホルダーにとって企業情報そのものなのです。CSR報告書を“能動的に”読むのはステークホルダーでもごくごく一部ですので、当然の話です。

CSR活動とは「新たなステークホルダー価値を生み出すこと」でもあります。ですので、場面により経済的価値と社会的価値のニーズのバランスが変わります。

CSR活動によって、ステークホルダーの課題解決に貢献できれば、それはステークホルダーにとって大きな価値となります。そうすることで、ステークホルダーの信頼を獲得し、そのステークホルダーからみれば企業は「信頼できる良い企業」になれるのです。このあたりはコーポレートブランディングの考え方があてはまります。

ステークホルダーマネジメントとは、感情を持つ人であるステークホルダーを相手にする仕事です。正論が通じるとは限りません。正義の裏側は悪ではなく“もう一つの正義”であると理解しましょう。しかも各ステークホルダーは所属組織や立場の利害を抱えています。そのため所属部署を代表する立場として企業と対立することがあります。このあたりの背景を踏まえて、企業はステークホルダーとの接点や活動を設計していく必要があるのです。

なにかとエンゲージメントはイベント(ダイアログ含む)で終わらせがちですが、ビジネススキームとの統合を含めて、もっと戦略的に、もっと成果主義で行くべきです。でないとCSR担当者の存在価値がなくなってしまいますから。

ミレニアル世代の台頭

国内では「ミレニアル世代」以下の人たちが今後のステークホルダーはが中心となります。ミレニアル世代(ミレニアルズ)とは、主に2000年以降に成人となった世代(1980年〜1995年生まれ)を指します。日本では「ゆとり世代」や「さとり世代」と呼ばれる世代も含まれます。すでにステークホルダーの多くがミレニアル世代に移行し始めているので、世代間の意識差を把握していないと、コミュニケーションやエンゲージメントで齟齬を生むので注意が必要です。以下がおよその特徴です。

・この世代は2,000万人を超えており、生産年齢人口が7,600万人程度と考えると、そのボリュームの大きさがわかる。物心がついた時にはバブルがはじけており、「失われた20年」といわれる低成長・デフレの時代に生まれ育った世代で、急速にCSRが広がり始めた2000年代前半に成人となった世代でもある。つまり「CSR元年以後の世代」であり“CSRネイティブな世代”ともいえる。

・日本のミレニアル世代の特徴として「社会貢献意識が高い」「デジタルネイティブ」「未婚・晩婚」「倹約志向(コスパ重視)」「マイペース」などの特徴がある。

・働き方に関して柔軟な思考を持つことが多く、会社組織より仕事そのものへ帰属意識を持ち、本業と副業の差も小さく、ダイバーシティやワークライフバランスを重視する、というような傾向もある。

社内外のステークホルダーにもこの世代が増えており、前世代的なステークホルダーエンゲージメントこの世代からの信頼を獲得できないだろう。

・ミレニアル世代の下の世代となる「Z世代(1995〜2010年生まれ)」も、社会貢献意識が高い世代であり、CSRはステークホルダーからの信頼を得る必須項目になった。

※参照
・総務省統計局「人口推計」(2016)
・デロイト「2017年 ミレニアル年次調査」(2017)
・経済同友会「ミレニアル世代がもたらす変化を先取りし、企業の成長戦略の核に」(2016)
・Z世代会議「Z世代レポート2018」(2018)

まとめ

今、そしてこれからのステークホルダーエンゲージメントにおいて重要視すべき項目をいくつか紹介いたしました。

最後に重要なのでもう一度書きます。今日のあなたの仕事は、

どのステークホルダーを喜ばせたのか?
どのステークホルダーの役に立ったのか?
どのステークホルダーに感謝されたのか?

ステークホルダーエンゲージメントはCSR活動において最重要課題の一つです。上記の注意点以外にも必ず注意しなければ、成果を生み出せないものもありますが、そのあたりはまたどこかでご紹介いたします。今後の御社のPDCAの参考になれば幸いです。

関連記事
ステークホルダーエンゲージメントに必要な3つのCSR視点
ステークホルダー・エンゲージメントにおける3つのポイント
ステークホルダーに評価される“良いCSRコンテンツ”の4つのポイント


csr

このエントリーをはてなブックマークに追加