GRIスタンダードの最新動向

先日、GRIスタンダードが初めて近々アップデートされるという発表がありました。

今回は「303:水」「403:労働安全衛生」です。日本語版も近々でアップデートされるのでしょうか。この2つは国内外で重要な課題と設定されていますので、納得感がありますね。

報告要件・推奨事項にアップデートがあるようです(パブリック・コンサルテーション中ですが)。現状のガイドラインよりもより企業の透明性を向上させるものだそうで。詳しい進捗に関してはオフィシャルサイトでご確認ください。

GRIスタンダード(英語サイト)
GRIスタンダード(日本語版)

そこで本記事では、そのあたりは置いといて(!)私の気になった最近のGRIスタンダード動向についてまとめたいと思います。

CEOインタビュー

印象深いトピックは、複雑化しているリポーティング(情報開示)の仕組みをいかに簡略化するかについてです。リポートはあくまでツールでしかありません。最終的に企業の取り組みが改善されることが重要なのですから、使いやすくなくてはいけません。(中略)私はリポーティングには「4C」が重要だと考えています。「Conciseness(簡単さ)」「Consistent(一貫性)」「Comparable(比較可能性)」「Current(最新の情報)」の4つの頭文字です。このうち、スタンダードの発行によって「Consistent」は担保できましたが、他の3つはこれから進めていきます。
GRI(グローバル・レポーティング・イニシアティブ)CEO・ティモシー・J・モヒン氏「複雑すぎる情報開示 使いやすい『標準』作る」

GRIはレポーティング・ガイドラインとして20年近くの運用実績があり、SDGsとの連携強化もして、さらにガイドラインとしての地位を上げました。現在はSDGsの情報開示の枠組みを作っているとのことで、近々で色々な情報が出てくるみたいです。GRIのCEOが「4C」を意識しているというのは初めて知りました。GRIの方向性として興味深いですね。

先日の「GRIスタンダード日本語お披露目イベント」で、パネルディスカッションに登壇したサステナビリティ日本フォーラムの後藤さんは「日本では財務情報と非財務情報の開示については別の省庁が担当しているが、ヨーロッパなどでは非財務情報の開示は“財務情報の追加になる”」という趣旨の話をしてました。世界の証券取引所でも同様の傾向があるように感じています。

ここ何十年も前から、非財務情報は財務情報ではなかったわけですが、一貫性をもった企業価値創出に注目が集まりそうです。ISO26000をおさえ、GRIスタンダードがCSR報告のガイドラインとして“一強の時代”になるのでしょうか。いやなってるか。

グローバル展開をしているCSR支援サイドでは、GRIスタンダードの対応支援も活発化しております。現状分析ツールも、ISO26000による総合分析から、GRIスタンダードのに移っている印象です。まぁ、GRIスタンダードの33項目でグローバルなイシューは比較的、網羅性のある形でまとめられますから。

課題としてはローカルイシューに対応できない、あたりでしょうか。そこがCSR実務において非常に重要な問題なので、GRIに傾倒しすぎて足元をすくわれることのないように気をつけましょう。

GRIスタンダードの使い方

個人的に一番使えるファイルは「用語集」だったりします。「CSR」となると人や企業によってその意味や定義が大きく異なります。国際的なガイドラインの定義は参考になるので、CSR関連書籍とは違う意味で勉強になります。

例えば「インパクト」。用語集では『GRIスタンダードにおいて、特に明記しない限り「インパクト」とは、経済、環境、社会に対して組織が与える作用をいう。同様に、持続可能な発展に対する組織の(プラスまたはマイナスの)寄与を指す場合がある』としています。自社の成長性はやビジネス価値そのものはインパクトと言わないということでしょうか。(言い方次第ではあるが)

ただし、注意点もあります。

「GRIスタンダードにどれだけ対応し開示できるか」は重要な話ではあるものの、開示できればステークホルダーの評価が得られるという簡単な話ではありません。極端な話、投資家や評価機関以外のステークホルダーは、ガイドラインとかどうでもいいですから。ガイドラインに従うことだけで何か新しい価値が生み出されるわけでもありませんし。

時価総額上位500社のCSR担当者は色々対応を最優先ですべきですが、そうではない企業ではGRIスタンダードを横目でみながら、ステークホルダーを真正面に見据え、CSR活動および情報開示をすべきです。ガイドラインに過度な期待をせず、ステークホルダー・ファーストでいきましょう。

まとめ

CSR報告において重要な点は、GRIスタンダードに従うかどうかは別として「社内外のステークホルダーに、何を伝え、どう思われたいのか」という部分です。ピーター・ドラッカーが言うところの「何によって憶えられたいのか」ですね。

主要企業のGRIスタンダードへの対応は2018年発行版からだと思いますが、2018年7月からはG4版は廃止となるので、情報収集を考えると今から動かなければなりません。

GRIスタンダードに“どうやって対応するか”ではもう間に合いません。今から対応を考える企業は“どこまで対応できるか”を考える必要があるでしょう。ガイドラインに踊らされ、本来の業務が滞ることがないようお気をつけください。

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