企業倫理は世界を救えるのか?
フェアトレードや環境活動が、実は倫理観のせいでより悪い影響を社会に与えているとしたら?
「ビッグクエスチョンズ-倫理」(ジュリアン・バジーニ、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の読書メモです。
倫理や道徳とは、社会の秩序を保つ黄金律のような精神なのですが、時には、それが社会に悪影響を与える事もあると本書には書かれています。マイケル・サンデル氏の「正義」ではありませんが、誰かに取っての正義が、他の誰かにとっての悪にもなりうるのです。
「テロは正当化できるのか?」とか「安楽死は認められるべきか」など、日常会話ではあまり出てこない話題もありますが、CSR的には、環境問題やフェアトレードの矛盾などに関しての記述が参考になります。
特に興味深かったのは「自由市場の矛盾」の話。日本でもそうなのですが、なぜブラック企業で働く人が減らないかわかりますか?
例外はあるにせよ、鍵になるのは「インフォームド・コンセント」(正しい情報を得た上での合意)だそうです。騙されたのであれば問題ですが、どんな業務があるか把握して、自ら選択している以上、どんなに過酷でもどんなに危険でも、それは合理的で理性的な判断をしている、という現状があるのです。
飲食・アパレルなどの労働集約的業務の多くは、少なからず楽ではない。これはちょっと業界を調べれば誰でも知ることができます。その上で、新卒・中途問わず職業選択をしている以上、ブラック企業自体は倫理的には間違っていないのかもしれない、と。
ただし、他につける職がなければ「ないよりまし」だと本書では結論づけています。
ブラック企業なんて潰れればいいと皆さんは言いますが、もし日本から数十万単位の企業がなくなったら、その従業員はどこにいくのでしょうか?御社で必要なスキルをほとんど持っていない方を、明日から何十人と雇用できますか?多分できないでしょう。じゃあ、その方たちはどこで働けばいいのですか?
フェアトレードも同様で、児童労働は倫理的にはあってはならないことなのですが、だからといって児童労働で作られた商品輸入を全て禁止すると、彼らの仕事を奪うことになり、人件費を高騰させ、貧しい国々から工場を撤退させることになり、貧しい国の負債を増やすことにもなるのです。助けるつもりが逆に苦しめることになる。これも世界の一部の現実のようです。
最終的には「より倫理的な行動を取る」ということしかないのですが、改めて、社会は複雑につながっており、二項対立の論理だけではCSRは進まないなと考えさせられました。
CSR担当者はもちろんのこと、CSR部のマネジャーや経営層の方なんかは面白いと思うであろう本。企業はなぜ社会的責任を持つべきなのか、その本質を学べると思います。
ビッグクエスチョンズ-倫理
倫理(ethics)が扱うような正しいことと間違っていること(right or wrong)に関する問題は人々や企業の行動の規範として近年ますますその重要性を増しており、倫理について私たち一人一人がどのように考えるかは、いまや避けては通れない問題であると言えます。