コンプライアンス

コンプライアンスとコーポレート・ガバナンス

今回は、コンプライアンスとコーポレート・ガバナンスの事例として日本マクドナルドの事例を振り返ってみましょう。

別に、本記事でマクドナルドを叩きたいということではなく、貴重な不祥事のサンプルとしてアーカイブしたいという意図ですので、あしからず。マルハニチロもそうでしたが、「食の安心・安全」をCSRにも掲げておきながら、実はチェック体制が不十分だったという例が一番残念です。できてないなら言うなよ、と。

ホテルや飲食店の表示偽装問題などを含め、現場をマネジメント(管理)できていない事例が出てくると、第三者としては、色々残念な気持ちになります。不祥事は人間がやっているのでいつかは大小含めて起きること。その初期対応をないがしろにせず、早急に対応し、情報開示をしていただきたいと思います。

ベネッセの個人情報漏洩問題のように、「私たちは被害者です」みたいな謝罪会見をしてしまって、余計顧客を怒らせるという例も多々あります。

統合報告の浸透の流れから、CSRにおけるリスクとオポチュニティという両面の情報開示が叫ばれる昨今。「食の安心・安全って大切ですね!私たちはちゃんと管理してますよ!」→「すみません、腐った肉使っていました…」はさすがにないでしょう。

昨今の食に関する問題を他人事と思わず、食関連企業のCSR担当者の方は社会貢献活動ばかりせず、CSRで事業の一番根本的な部分をしっかりやっていただきたいと思っています。

問題の流れ

○7月22日:チキンマックナゲットの販売中止

日本マクドナルドホールディングス(2702)は22日、中国・上海の食品会社「上海福喜食品公司」から仕入れた鶏肉を使ったメニュー「チキンマックナゲット」の販売を21日に停止したと発表した。上海福喜が保存期限の切れた鶏肉を出荷していたと、中国国営の新華社通信などが報じたのを受けた措置。
マクドナルド、上海食品会社製チキンの販売停止 期限偽装報道で

テレビを始め、各種メディアで問題の加工工場の内部映像を放映。「異臭のする肉、消費期限切れの肉、腐りかけの肉、床に落ちて拾い上げた肉、カビの生えた肉」といった表現などがネットでも使われるようになる。

○7月23日:謝罪文発表
「自分たちは取引先に騙された被害者である」というような文面であり、謝罪文が叩かれるという騒動に発展。この時点で、トップの謝罪会見はまだなし。

○7月29日:謝罪会見
日本マクドナルド、サラ・カサノバ社長の謝罪会見が行なわれる。ここでも「自分たちは取引先に騙された被害者である」という姿勢が全面に出ており、反省が見えないと、またまた叩かれる結果に。また、問題発覚からなぜ一週間も空けたのか、という対応の遅さもそれに拍車をかけた。

○7月30日
豆腐と魚を使ったナゲットの新製品「豆腐しんじょナゲット」の販売を始めると発表。チキンマックナゲットの代替商品(9月末までの期間限定)。

○10月7日

日本マクドナルドホールディングスは7日、2014年12月期の連結最終損益が170億円の赤字(前期は51億円の黒字)になる見通しだと発表した。仕入れ先だった中国の食肉加工会社が期限切れ鶏肉を使っていた問題を受け、売り上げが一段と落ち込んでいるため。鶏肉問題を巡り減損損失62億円、原材料の廃棄費用など31億円を合わせ、93億円の特別損失を計上する。同問題の影響を見極めきれないとして、従来予想は「未定」としていた。通期の最終赤字は03年12月期以来、11年ぶりとなる。
マクドナルド、今期最終赤字170億円 特別損失93億円計上

どえらい影響があったようです。

○10月中旬
店頭で「マクドナルド 安全と品質の約束」という小冊子を配布開始。「チキンマックナゲット無料券」がつけられているもの。あるメディアでは1000人にアンケートをし、6割が「無料でも食べない」と回答したとされる。

ちなみに、この記事は久しぶりにマクドナルドに行って気分を高めてから書いています。「チキンマックナゲット〜安心・安全と味へのこだわり」という小冊子を配っていると聞いて、欲しくなったからです。

この小冊子では今までどおりの情報開示しかなく、結局何が変わったのかよくわかりませんでした。ナゲットのクーポンがついていました。ナゲットで問題を起こして、ナゲットのサービス券を配布するというのは、僕はあまり得策ではない気がしましたが…。在庫処分セールのように見えて怖かったです。

コンプライアンス意識はあったのか?

以下の映像をテレビCMで見たのですが、定期的にCMで流すなら分かるのですが、食の安全・安心が崩壊してから流されても…、という気持ちもなくはない。

なぜ大手企業は不祥事を起こした時にまず謝らないのか。「自分たちも被害者なんです」という気持ちもわかりますし事実なんでしょうけど。

もちろん、上場会社などは即刻過ちを認めないという方針も必要なのでしょうけど、最終的な被害者は顧客です。なぜ多くの企業が謝罪会見を開きながら謝罪しないのか、とは思います。

ブランド毀損が本格的に起きる「二次不祥事」については「コンプライアンス事例? コンプライアンス違反と意識調査の3事例」、「CSRにおける労働衛生問題とコンプライアンス事例[2014年]」という記事もお読み下さい。要は、謝罪会見を上から目線でするなってことです。内容はどんなものでもいいですけど、顧客をないがしろにする会見は100%炎上します。

コンプライアンスは「法令遵守」という側面だけではなく、ステークホルダーからのニーズに応えるという側面もあります。「不祥事だったのは認めるけど、法律には触れていないから私たちは悪くない」みたいな企業の会見を見て、納得する消費者ってどれくらいいるの?と感じてしまいます。

日本では取引先に「CSRセルフチェックシート(質問表)」の提出を義務化する企業が増えていると聞きます。上記のように、法令を守っているからよい、ではなく、今回のような事件が起きないように“現場”できちんとした事業が行なわれているかをチェックする必要がある、と。

自社のコンプライアンスだけではなく、取引先のコンプライアンスも事業活動のリスクになる時代ですからね。取引先のせいににしても、一番の被害者であるのは顧客であることには変わりませんから。

だいたいそういう企業は、CSRで壮大なビジョンを掲げているので、CSR活動が叩かれるという自体にもなるんですよね。

マクドナルド「見える、マクドナルド品質」篇

※2015年3月現在は非公開となっています。

サプライチェーンマネジメントとCSR調達

昨年社会問題化した関西有名ホテルのレストラン食品偽装、今年初めのアクリフーズ(現マルハニチロ)農薬混入事件、そして7月の中国食肉加工工場で発覚した使用期限切れ鶏肉問題――。この1年間、消費者の食への不安をかき立てる、重大な不祥事件が続いた。ここで不思議なのは、食品のリスク分析についてはすでに世界共通の考え方が導入されているにもかかわらず、上記のような事件がなぜ立て続けに起こっているのかという点である。
死を招く危ない食品、食の不祥事…“リスク分析システム”は、なぜ機能不全に陥った?

上記の記事では、リスク分析において、「リスク評価:リスクを科学的に評価」、「リスク管理:リスクを適切に管理」、「リスクコミュニケーション:消費者やメディア、研究者、行政、産業界など関係者の間で、情報や意見を交換すること」の3つが重要だと言っています。

結局、他社で起きた事件はウチには関係ないと、マクドナルド上層部は思っていたのでしょうね。「こういう事件があったからウチも再チェックしたほうがいいんじゃない?」という人はいなかったのでしょうか?

このあたりは法的にセーフかアウトかというより、現場の監視体制ができていないガバナンスの問題と言えるんでしょうね。統合報告などとの兼ね合いもあり、今後、リスク管理は企業経営でもCSRでもより重要視されていくのは間違いありません。

CSV(共有価値創造)などの戦略やオポチュニティに集中しすぎる大企業が多いですが、リスク面もしかりやらないと、一回の不祥事で全部ガタガタになりかねないのでお気をつけ下さい。まぁ、大型不祥事を起こすことで、その企業のCSRが一気に進むという現状があるのも事実なのですけど…。

経営者は、「危機」か「大義」を経験しないと、本気でCSR推進に動かないものですから。

まとめ

マクドナルドは、「ドナルド・マクドナルド・ハウス支援」の活動とか、すごく評価が高い社会貢献プログラムもしており、CSR関連の情報開示も積極的にしている会社なのです。

だからこそ本業の「食の安心・安全」はきちんとして欲しかった。CSR報告書にも「食品の商品・品質管理」と情報開示しているのが嘘だったという事実に、衝撃を隠しきれません。

最近は行ってませんでしたが、何年か前まで月一回はいく、ボチボチ優良なリピーターだったのです。消費者としては、すごくイメージが悪くなりました。

オポチュニティの戦略面(攻めのCSR?)ばかりに気が行きすぎると、企業活動として根本的なコンプライアンス対応やガバナンス不備が露呈することが多い印象もあります。リスクマネジメントはCSRにおいても重要度が増すばかりですので、しっかり対応しましょう。

マクドナルドは、ここ数年は業績がよろしくないようですが、今後のCSR活動に注目です。2014年のCSRレポートで「コンプライアンス・ガバナンス」の項目がどうなっているか。みんなで注目しましょう。

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