CSRコンサルタント

CSRコンサルタントの仕事

私はCSR/サステナビリティ経営やステークホルダー・エンゲージメントのコンサルタントとして活動しています。時期にもよりますが、ライティング(寄稿)の仕事が集中する時もありますが、実務的なところでは、CSR/サステナビリティ全般から、ESG・CSV・SDGs・社会貢献、などコンサルティングの支援内容は多岐に渡ります。

さて、そんな業務を小さいながら10年以上行なっているわけですが、企業のCSR活動における課題以外に、CSR担当者自身の課題解決のサポートをすることもあります。組織的な部分もですが、担当者自身のスキルアップも組織へのインパクトが大きいものです。

そこで本記事では、CSR戦略構築の前に確認しておきたい、CSR担当者自身の課題についてまとめます。本記事の意図として、日本全国のCSR担当者を馬鹿にしたいという意図はなく、10年以上の支援活動の中で見えてきた課題の明確化をメインとしています。その対応策の検討をしていただく材料になれば幸いです。

情報の取り扱い方

新任のCSR担当者の場合、CSR/ESG関連のセミナーに参加したり、関連書籍を読んだりして知識を深める方がほとんどだと思いますが、その情報収集にも課題はあります。

情報収集における課題とは、トレンドを知らないことではなく、情報としては認識しているのに考え方や価値観をアップデートできない点です。自身の価値観や考え方を必ずしも変える必要はありませんが、社会の変化に伴いブラッシュアップする必要はあります。情報を知識に変換できる担当者は相当優秀です。申し訳ないですがあまりお見かけしません。トレンドから今後の将来を先取りして機会やリスクを掴みに行くのか。2020年代の企業競争はこのあたりの経営判断力がものを言う時代です。後手に回れば回るほど先行者に追いつけなくなっていきます。

ここ2〜3年前くらいからだと感じていますが、日本の大手企業・担当者で私よりもベテランの方でさえも、海外での動きが非常に早いため情報のキャッチアップができない、という話(というか嘆き?)を聞きます。私もコンサルタントとして情報提供をビジネスとしておこなっているため情報収集はそれなりに行なっていますが、たしかに大変さは増しているように感じています。

日本企業のCSR担当者は「“情報収集が目的の”情報収集」が多い印象があります。国際会議への参加もルールメイキングのためではなく情報収集がメイン。セミナー等の参加も情報収集。そしてアウトプットされたアクションやレポーティングを見ると、どこにそれらの知識が生かされているのか疑問に感じるのであります。

事例の考え方

どの業種でも担当者の方は具体例・事例を求めますよね。でも事例なんて“後付け”のこじつけなんですよ。先行事例がないと別部門の人に説明しにくいとか、色々理由があるのはわかるんです。ただ、概念を理解していない段階で事例をアイコン(象徴)とされてしまうと「その事例=その概念」みたいになってしまうので、理解が阻害されてしまう可能性があると考えています。

たとえば、CSR先進事例として随分前から変わっていないネスレやユニリーバの事例。「あれはネスレやユニリーバだからできることであってウチではできない。だからウチではやらない。」と事例を否定されてしまうことで(実際に事例通りにできることはありえない)、概念まで否定されてしまうのです。事例は重要ですが、事例をアイコンにしてはよろしくありません。

硬直した組織で働くと「前例のないやり方」は簡単に否定されます。「やり方」が悪いのではなく「前例がない」のがよくないとされます。新しいことをやろうとすると、否定されるか失敗します(たいてい新しい取り組みは失敗します)。逆に「競合も〇〇をしてますので、ウチも負けずにやりましょう!」だと企画が通りやすいという…。論理的に考えれば「前例がないこと」と「上手くいかないこと」に因果関係はないのですが。

推進体制

CSR活動も事業活動の一つですので、体制づくりで勝負が決まる場面も多くあります。よく言われるのは「3つの役割」です。

(1)CSRを理解している意思決定者
(2)行動力のある現場担当者
(3)外部パートナーの専門家

上記の3つの役割が、三位一体になった時に精度の高いCSR活動をスピード感を持って推進できます。予算がないから、コストがかかるからと、費用をしぶって外部パートナーを使わないことで、活動の精度も上げられませんし、その代わりにと担当役員を動かしたりしたら、余計にコストがかかることも多々あります。バランスです。予算のかけすぎはよくありませんが、体制づくりを先にしておかないと、CSR活動が、成果を期待できない高コスト体質になってしまうので注意しましょう。

外部パートナーを“うまく使えれば”コストも時間も短縮できますし成果もそれなりに期待できます。表現はちょっとアレですが、社内の「生え抜きかつ兼務のCSRスタッフ」が、うだうだやっているよりもよほど成果が見込めます。社内従業員も追加コストがないだけで、それなりのコスト(人件費)がかかりますからね。ただし“うまく使えば”です。

とにかく今担当者に求められているのは、部分最適ではなく組織の全体最適としてのCSRのあり方を示すことでしょう。CSR担当者は主役ではなく、現場の従業員が主役。このあたりの仕組みづくりは超重要ですし、それが求められています。最悪、CSRの知識がなくても、組織づくりや仕組みづくりがうまい人であれば、結果は出せます。逆はありえません。

社内の壁と全体最適

SDGsやESGという概念が日本でも浸透してきて、部門を超えた共通言語が増えてきたせいか「IR/経営企画 vs CSR部門」というような社内対立は減ってきていると聞いたことがあります。ただし、それぞれの部門の成果まで共通になったわけではないので、特に部門長レベルの社内協業はまだまだ進んでいない企業が多いのかもしれません。まだまだ「社外の壁」より「社内の壁」のほうが高いという人も実際にいます。(社内の対立の方がよく見えるからというのもある)

そのような状況もある中でCSR担当者は、本当に組織の全体像を把握し全体最適の成果創出に貢献しているのでしょうか。いわゆる企業価値向上に貢献するCSR活動ができているのでしょうか。経営企画やIRの部門にもメリットのあるCSR活動が展開できているでしょうか。

決定的に重要なのは、組織の事業活動の全体像を理解した上で、自分がやっていることを結びつけて、全体最適の成果を出すことに貢献できるかどうかだと思います。これをひたすらPDCAでまわすことで価値創造につながると。CSRの実務は細分化された領域がたくさんあるので、定量的・定性的なことを統合してPDCAを回せるかが大切です。CSR担当役員(もしくはCSR部長)がマイクロマネジメントしている事例はほとんど聞いたことがありませんし、全体像を把握する(マネジメント)できるのは、CSR担当者しかいません。

求められるスキル

ごく稀にですが、CSR担当者に求められるスキルやノウハウは何かと聞かれることがあります。今までは「知識より行動力です」と言っていましたが、昨今の事業と統合されたCSR活動が増えてきているので、行動力はさることながら「戦略と実行をつなぐこと」が主要業務になってきているように感じています。

私はCSR/サステナビリティ担当業務はすでに専門職であると考えています。世界が日々目まぐるしく動いている中で、現状を把握しなおかつ自社の取り組みを進めるには、相応な知識と経験およびネットワークが必要です。日本企業はジョブローテーションがあるので、原則、他部門からCSR部門に異動となります。申し訳ないですが、今のCSRはとても複雑なので“素人”に担当が務まるほど簡単な業務ではありません。特に最近ではCSRも部分的に法律になってきていますし、知りませんでした、という言い訳ができないということもあります。

大手企業では定期的なジョブローテーションが定石であり、そのため“異動してきてすぐの未経験者”でもできる業務というのが多く存在します。社内ルールに従って業務を行えばよい部門もありますが、CSRは逆に社内ルールではなく国際ルールがあり一定の規範があるので、完全にオリジナルで何かをするというわけにはいきません。そういう状況の中でCSR担当者は、CSR関連業務だけの部分最適を行うのではなく、経営者のように組織全体を把握し、全体最適のCSR活動を行うスキルが求められているのではないでしょうか。

他にこれからのCSR担当者に求められるスキルとしては「実施施策の成功・失敗の原因をどれだけはっきり特定できるか」という原因特定能力があるでしょう。失敗の原因が特定できなければ、次に何をしたら失敗を回避できるのかがわかりません。成功の原因が特定できなければ、次に何をしたら成功しやすくなるのかがわかりません。

CSR関連業務のスキルは陳腐化しにくいです。CSRの世界ではいまだに20年近く前に議論されていたことが、そのまま議論されているカテゴリでもあります。2010年に発表されたISO26000は2019年現在でも非常に重要なフレームワークです。約10年前のものでも色あせないというか、企業経営の本質はかわらないという示唆なのかもしれません。

生き馬の目を抜くようなテクノロジー界隈のスキルとは違います。あそこは、プラットフォーマーが右向くと左を向いていた全員が死んでしまうような世界です。昨日まで機能していたノウハウやスキルが突然使えなくなるのです。そういう意味では、ある程度長い目線でスキル構築をするのもよいでしょう。ただし、そのウチに異動になる可能性の方が高いと思いますが…。無念。

CSR担当者の属性

今までの経験上、CSR担当者にも「流派」があることがわかっています。武道や茶道にも、同じジャンルでも流派があるのとほぼ同じです。流派は、どれが正しい・正しくない、どれが良い・悪いというものではない、と私は捉えています。あえて言えば、成果さえ出せるならば、どれも正しいのかなと。

1、ブランディング派:理念体系の実践を最も重要視している(経営企画系)
2、オリジナル派:自社ならではの取り組みを最重要視している(マーケティング系)
3、売り上げ派:CSR活動のコスパや経済合理性を最重要視している(CSV推進派)
4、マネジメント派:戦略構築から実践の理論武装を重視している(PDCA重視派)
5、トレンド派:グローバルトレンドやベストプラクティスを重視している(SDGs派閥)
6、アカデミック派:データや大学教授らの言説を重視している(形式重視派)
7、権力派:経営層の意見を重視している(根回し重視派)

業種なども関係あるのでしょうか。こうやってまとめてみても、いろんな担当者のタイプの人がいます。ステレオタイプになるのはよくありませんが、コンサルタントして、担当者の人となりを理解する手助けになるので、こういう分類をすることがたまにあります。みなさんがどこにあてはまるか考えてみても面白いかもしれません。

担当者が抱える課題

この10年ほどCSRコンサルティングをしていて感じるのは、担当者にとってのCSR課題とは、ほぼ認知はできているが「何らかの事情があって解決できない問題」または「優先度が低いために後回しにされている問題」であることが多いです。まず見たことも聞いたこともないまったくの「未発見の問題」ではない場合がほとんどです。

したがって、この手の諸問題は常に、最適なバランスの場所はどこかを探るという最適化問題になります。活動予算を獲得することから、何かをやめて新しい取り組みをする…などなど。これらはマテリアリティ特定に付随してくるものだと思いますが、「やりたいこと」「やるべきこと」「やらなくてもよいこと」を明確にして、活動の優先順位を決めるしかないですね。

そのマテリアリティ特定ができていない状態で、CSRのマネジメントシステムを導入をするだけで、従業員のCSRリテラシーが高まり、組織が活性化するとは思えません。継続的な研修や啓発活動を通じて、CSRへの意識は組織に定着するものです。

アクセルとブレーキを“同時に踏まない工夫”も必要です。CSR担当者が全力でアクションして、上層部が雰囲気だけで却下する、など。このあたりも前述した「何らかの事情があって解決できない問題」をより明確にすることで解決できることもあるでしょう。

まとめ

私はCSRコンサルタントとして独立して10年弱となります。CSRコンサルタントの大先輩たちの支援実績には、足元にも及びませんが、それでも数多くの担当者の方を見てきて、色々感じたことを本記事でまとめてみたつもりです。

本記事をお読みのCSR担当者の方は、内容の多くに共感いただけると思っていますし、改めて課題を認識していただき、今年度もしくは来年度のCSR推進活動のヒントにしていただければと思います。

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