CSR経営の基本は従業員の幸せ

今回の読書メモは『「いい会社」ってどんな会社ですか? 社員の幸せについて語り合おう』(塚越寛、日経BP社)です。

筆者の塚越寛氏は48期連続増収増益を達成した伝説的経営者の1人です。著者が会長を務める伊那食品工業は、日本理化学工業のように、社会企業的な側面の強い企業です。長野県出身者として誇らしいです。

著者は本書で「年輪経営」という持論を提唱しています。聞いたことがある方もいると思いますが、「木の年輪が毎年1つずつ増えて幹が太くなるように、毎年堅実な成長を目指す経営手法」のことです。特に成熟産業では、この方法論が非常に有効であると提唱されています。

「この会社の目的はみんなが幸せになること」という著者の考えは、当たり前にようでとても重要な要素です。この「会社の目的」を常に口にする経営者ってどれくらいいるのでしょう?従業員は「会社の利益をあげるため」にいるのではなく「幸せになりたいため」にいるはずです。経営サイドは利益創出を従業員に求めますが(それ自体はいいですが)従業員からみればそのために自分の何かを犠牲するのは嫌というものでしょう。

社会にいいことをしたいのなら、まずは自社が「いい会社」にならなければなりません。従業員の幸せ、という経営のベースラインをどこまで実践できるのか。まさにCSR経営の話だと思いました。

世の中には売上や利益の目標数値を経営計画で発表する企業はたくさんありますが、なぜ「従業員のハピネス」を掲げる企業が少ないのでしょうか。従業員が幸せでなくても成長できる自信があるからなのでしょうけど、CSRというフレームワークは、それを真っ向から否定します。

経済合理性だけが企業のサステナビリティの指標ではないはず。「良い会社」は、財務体質が健全で、情緒的な要素(定性的情報・非財務情報)など、トータルでプラスになっている企業を指すものと考えています。

この企業経営の目的は「社員の人生を幸せにし、社会に貢献すること」と筆者が言い切っているのがすごい。これを大手上場企業の社長が言うと惨事になりそうです。「そんなこと絶対思っていないやろ!」と内側から激しくツッコまれるでしょう。

本書では、ファンをつくるには3つのポイントがあるとしています。まず社員や顧客、取引先など関係者から尊敬される取り組みを続けていること。2つ目は取り組みの方針を決めたら途中で変えないこと。3つ目は自社の取り組みをさりげなく発信していくこと。この3つのポイントなどはまさにCSRでも重要なところではないでしょうか。

私はCSRの本丸は「人材活用」だとずっと言っています。「人」が軸にならずしてCSRは存在し得ないという持論です。改めて、自身の考え方が間違っていないと確信しました。

CSRというのは必ずしもロジカルでサイエンスな領域ではではない、ということを改めて感じました。テクニカルなCSR経営論に疲れた方にオススメの書籍です。

「いい会社」ってどんな会社ですか?

長野県伊那市で寒天メーカー・伊那食品工業を経営してきた著者は、トヨタ自動車の豊田章男社長も共鳴する「年輪経営」の提唱者。48期連続増収増益を達成し、大企業のトップもベンチャー企業も教えを乞う知る人ぞ知るカリスマ経営者です。
そんな塚越氏から直接教えを請いたいという気鋭の起業家、働き方改革の旗手、サイボウズの青野慶久社長と、ミドリムシで世界を救う社会派、ユーグレナの出雲充社長の2人が、それぞれ塚越氏の元を訪れ、「社員を幸せにするいい会社のつくり方」を徹底的に議論しました。