CSVはどこから生まれたのか
今回の読書メモは「知られざる競争優位-ネスレはなぜCSVに挑戦するのか」(フリードヘルム・シュバルツ、ダイヤモンド社)です。
CSVに興味のある方はもう読んでいるかもしれませんが、僕もざっと読みました。
この書籍にも書いてありますが、ネスレ社はそもそもCSVをより明確にした世界初に企業であり、マイケル・ポーター氏とマーク・クラマー氏らの協力のもと、2007年には「CSV報告書」を発行しています。(教授らの論文は2011年)
CSV論を作り上げたのはマイケル・ポーター氏とされますが、実際はネスレの存在が非常に大きいのです。本書ではCSRへの疑問からこの概念を作り上げるのに3年かかったともしています。
フェアトレードの批判とかも僕の考えに近かったし、エセCSV信者の“鼻をへし折る”程度の話は、そこかしこに書かれています。富の再配分はゼロサムゲームであるが、価値創出はプラスサム、つまり資源を使って新たな資源を生み出すようなものだという話もあります。
国内のCSV論とレベルが違いすぎて笑えない
これを言っていいのかわかりませんが、日本企業が国内で事業展開を行なう活動に対してCSVと名付けるのは、適切ではないのかもしれない。いや、CSV的な考え方はとても重要だし、国内でもどんどん広がって欲しいとは思ってます。
ただ、見聞きするほとんどのCSVと呼ばれる(もしくは“自称”する)活動は、インパクトもプロセスもCSVの条件を満たしてないというか、自己満足なプログラムが多いような。業界1位より2位以下の企業のほうCSVという単語を使いたがる、みたいな。(ただの印象です、すみません)
十分に社会的・経済的価値のある活動をする日本企業は多いのに、無理矢理にCSVという単語にもっていくのでロジックが破綻している企業はもったいないです。
というか、多くの企業がCSVと言うようになったから、本来の目的だった競争戦略が薄れているのが最近です。10年前の「エコ・省エネ」みたいな感じ。僕は日本企業こそ、リコーや味の素のように、CSVを自分たちの言葉に置き換えて戦略化する必要があると思うんですが…。
本書で書かれている、ネスレの栄養問題や水問題などのCSVは、日本的なCSVとはちょっと違います。国内でCSV経営がなんとか、と言っている大企業がいくつもありますが、それらとはレベルも影響範囲も歴史もスケールも何もかも異なります。ですので、グローバル企業のCSR担当者以外は、あまり役に立たないと言えるかもしれません。
本書のキモは、CSR論、CSV論というより、ネスレの歴史からCSVを紐解くみたいなものです。というか、CSR担当者が知りたいCSVの実践的な話もロジックもこの本ではほとんど紹介されていません。ですので、CSVについて学びたいという人にはオススメではない本・書籍となっています。
CSVの歴史的背景やグローバル・トップ企業と社会との関わり、90年代から2000年代の社会的な世界の動き、などを知りたい方は絶対読んだほうがいい。あとネスレ的経営に興味がある経営企画、マーケティングの担当者。
様々な葛藤からCSVが生まれた背景を知ると改めてネスレの功績を評価したくなります。さすがです。コーヒー以外もネスレ商品を買うようにしよっと。
・共通価値の創造|ネスレ(日本語サイト)
知られざる競争優位
第1章 ネスレ主催の朝食会〜ダボス会議のもう一つの顔〜
第2章 トップへの道〜グローバル企業の後継者はこうして選ばれた〜
第3章 未来に向けた“青写真”〜ブランド再構築、新たな戦略領域、組織変革〜
第4章 頂上に立てば、遠くまで見渡せる〜ブラベックの情熱、そして横顔〜
第5章 CSV――共通価値の創造〜ネスレはなぜCSVに挑戦するのか〜
第6章 ブラベックの次なる使命〜ネスレはウエルビーイング企業を目指すのか〜