CSR活動でNPO/非営利組織を立ち上げる
CSR活動の一環として、NPO法人/社団法人/財団法人/基金(以下、非営利組織)などを作る動きがあります。
「九州電力、地域社会貢献活動拡充へ社団法人設立」というニュースを見て、気になる所があったのでメモがてらまとめます。
最近は「本業でCSR」というCSV・ソーシャルビジネス的なこと“だけ”が良しとされ(僕もプッシュしてます…)ますが、本業とは遠くとも地域やコミュニティとのつながりを強めようと、企業ではなくCSR活動を非営利組織として法人化させる活動が一部の大手企業であります。
しかし、法人化は社会貢献活動をアウトソースする形になって、企業の社会的負荷(ネガティブ・インパクト)を無視しているとも捉えられるため、この動きには慎重であるべきです。
大手メーカーなんかは昔から財団法人や基金を作っていて、そちらで社会貢献活動を主導する場合も多いです。富の再配分と言いましょうか、これはこれで意義のあることです。メセナとかフィランソロピーなんて言われることが多い活動です。
しかし、企業本体のネガティブインパクトを帳消しにすることはできません。一方で強烈な環境負荷をかけていて、一方で社会貢献活動で木を植えるという行為は、社会全体から見たら、何もよくなってはいません。大概の場合、ネガティブインパクト(環境負荷など)のほうが大きいので、CSR報告書の“免罪符的言い訳コンテンツ”程度にしかなりません。
では、企業にとって、非営利組織の設立には、どんなメリットがあるのでしょうか。
メリットと方法論
○1、本業の活動・ノウハウの普及
例えば、エコな建築技術を持っている企業が、エコな建材の普及や、基本的な考え方をまとめて学校などへ出張事業を行なう、など。長い目でみて、コミュニティとのつながりができ、BtoC企業であれば経済的なリターンも見込めます。複数の同業種営利企業で管理する業界団体もこの枠組みに入ります。
○2、資格等の認定団体と普及
これは「資格ビジネス」と言われる活動です。CSRや社会貢献関連でも、非営利法人が「資格制度」を運営していることがあります。で、その非営利法人には、複数の企業が運営として参画している場合が多いです。場合によっては、任意団体でもそれなりのインパクトが期待できます。
○3、運営・会計の独立性によるガバナンス確保
上場企業の場合、CSR予算を株主にどのように説明すればよいか迷う場面も多々あると思います。思い切って社会貢献活動をアウトソースすることで、独立性が担保でき、中途半端な運営が改善される可能性も期待できます。
○4、赤字組織のアウトソース
「3番」に近いですが、本業近辺のCSR活動(例えば人権・労働慣行など)はアウトソースできませんが、社会貢献活動は本業との関係性が低いため、大義名分のために赤字運営でも、継続させる意義があればこのようにすべきでしょう。枠組みは異なりますが、イメージとしては障害者雇用における「特例子会社」のような形態とも言えます。基金などの設立もこのカテゴリーですかね。
○5、補助金等の受け皿
公共性の高い業務や、パブリックセクターのとの協働事業は、非営利組織しか取引ができない、なんてこともあります。いまさら株式会社を社団法人にするわけにもいかないので、関連組織としてNPOや社団法人を作るという、マーケティング的な施策して設立することもあるようです。僕としては、ここらへんが今後、ホットなテーマになってくると予想してます。実際に動き出している大手がチラホラと…。
ちなみに、5月16日にLINEが動いた「LINE、情報法制研究所の設立を支援~ネット環境で生じる問題の解決と安全なネットサービスの構築目指す」は、まさに企業がNPOを立ち上げた良事例かと思います。
営利と非営利の間
企業が非営利法人を設立するメリット、そして意義は上記の5つくらいに分けられるかと思います。CSRとしては、唯一、2番の業界団体設立で、業界特有の社会課題「キー・イシュー」を解決していく、というのが考えられます。
他はCSRというよりは、完全に社会貢献活動の一環と言えるでしょう。もしくは完全な「マーケティング活動」ですね。
では、企業は非営利組織を法人化させるとなった時、どんなことに注意すればいいのか。正直、ケースバイケースすぎますが、他社(パブリックセクター含む)との協業が必要になったら検討すればいいのかな、という点でしょうか。実務的には、自社で非営利組織を立ち上げるより、イメージに近い既存の非営利組織と協業したほうが早いですから…。
ごくまれに、株式会社大地を守る会のように、NGOと株式会社を合併させる(2011年4月合併)こともあります。逆にNPOなどのソーシャルセクターがマネタイズのしやすさなどの理由で、株式会社などの営利法人を立ち上げる例があります。いわゆる社会起業家の文脈なので、CSRとは基本的に別の動きですので、参考程度で。
まとめ
CSR担当者は、非営利組織の設立はあまり気にしなくてよいと思いますが、一応こういう流れもある、ということは把握しておきましょう。
色々メリットの話はしましたが、肝心のどういう企業にオススメの形態なのか説明してませんでしたね。
僕の個人的見解ですが「社長のコミットメント度が高い企業」には、向いていることが多いように思います。社長が自分でCSR・社会貢献に動く企業でないと、立ち上げ期はまとまらなくて大変でしょう(それでもやっている企業もありますけどね)。もしくは億円単位のCSR予算(社会貢献活動費)を拠出している企業。特定の社会貢献活動にリソースを集中させて社会的なインパクトが期待できます。
というか、日本だと非営利組織のM&Aとか合併とかほとんどないけど、ノウハウやリソースがある団体だったら買収して子会社(関連会社)にするというものありだと思います。やり方は知らないけど。
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