コンプライアンス違反による倒産
2015年上半期のコンプライアンス違反事例とそれに伴う(一因となっている)倒産が103社。
東京商工リサーチのデータを見て、色々思う所があるので、コンプライアンス違反要因の倒産と、そのまわりのデータやオピニオンをまとめます。
日本でビジネスをする以上、日本の法律に従う必要があります。もちろん、法律に従えば企業倫理が存在しないグレーゾーンのビジネスをしていい、とはなりません。
僕は、コンプライアンス違反は「仕組み」が形骸化してしまっているのも原因の一つだし、一番根幹で、一番厄介なのが「カルチャー」だと感じています。
コンプライアンス違反企業の倒産
企業経営は「コンプライアンス(法令遵守)」が重要視されている。直接の法的違反でなくとも、「倫理や社会貢献などに配慮した行動」に反した社会的な不適切行為は消費者、取引先などの信頼を失い、事業継続が困難に至るケースも多い。企業にとってコンプライアンスはリスク管理という観点からも経営の重要課題として認識されてきた。
2015年上半期「コンプライアンス違反」企業の倒産
法律に従うだけでは、ステークホルダーの信頼は得られない。当たり前のことですが、それを実践し続けることはなかなか大変なことです。経営層からの数字のプレッシャーが大きければ、グレーゾーンのアクションに手を出しがちですよね。
2015年上半期に「コンプライアンス違反」が一因で倒産した企業は103件(前年同期比3.7%減、前年同期107件)だった。103件の違反内容別では、不正な会計処理や虚偽の決算書作成などの「粉飾」が17件(前年同期比112.5%増、前年同期8件)で前年同期より倍増した。また、脱税や滞納など「税金関連」が27件(同22.8%減、同35件)、「不正受給」が9件(同25.0%減、同12件)、食品の産地偽装など「偽装」が4件(前年同期ゼロ)だった。
2015年上半期「コンプライアンス違反」企業の倒産
CSR先進企業として有名な所も、過去何社も「不適切会計」をしていきています。CSRが形骸化し、カルチャー(企業文化)にコンプライアンス意識が欠けているというレッテルです。ステークホルダーからしたら「お前騙したな?」的な。
経営トップの仕事ってなんですかね?在任期間の成績が良ければ、企業がサスティナブルでなくてもいいのでしょうか?
対応として、自社の不適切会計を知っていて黙っているのも問題だし、不正を把握できていないのも問題なんですけどね。非常に残念です。
コンプライアンス違反の何が問題か
コンプライアンス対応の実態
○不祥事の種となりうる“内定者”や“下請け業者”への対応に遅れ
自社で働く経営幹部や正規・非正規社員、関連企業の正規・非正規社員、海外子会社の社員については7割以上の企業がコンプライアンス施策の管理対象としています。しかし、内定者や下請け業者を管理対象としている企業は僅か3割程度にとどまります。
○コンプライアンス研修は“マンネリ化”と“社内講師育成”が企業で悩み
コンプライアンス施策の中でもっとも多くの企業が実施している施策の一つにコンプライアンス研修があります。そのコンプライアンス研修において最大の課題はマンネリ化です。また社内講師の育成に悩む企業も少なくありません。
「コンプライアンスの取り組みに関するアンケート」調査を実施 国内有力企業のコンプライアンス課題を徹底分析
日本能率協会総合研究所のレポートです。コンプライアンスの問題は情報漏洩などを含めて、取引先企業(下請け)で起きることも多く、サプライチェーンマネジメントの大本命の取組みとなっております。自社のコンプライアンス遵守はもちろんのこと、内定者や取引会社などのコンプライアンス遵守をカバーするのは大変ですが、必ずしなければなりません。
あと、コンプライアンス研修はたしかにマンネリ化しますよね。僕もある取引先でほぼ毎月ネット上で学習&テストを受けていますが、なんか形骸化している気がします。少なくとも本質的な倫理観の熟成には向かってはいないかな。難しい問題です。
東洋ゴム工業の対応事例
CSR部門のあり方
5、「CSR統括センター」を「コンプライアンス・リーガルセンター」に改称する。
6、「CSR推進室」を「コンプライアンス推進室」に改称し、コンプライアンス委員会の事務局、チーフ・コンプライアンスオフィサー(CCO)指示事項の実行と全社施策の立案・実施、 コンプライアンスオフィサーや関連部門と連携したコンプライアンス事案への対応支援、 コンプライアンス委員への支援等を担当する。
7、「CSR推進室」のCSRに関する業務、コンプライアンスに関する業務、貿易管理に関する 業務のうち、CSRに関する業務を「管理本部人事総務部」に移管する。
役員等の異動及び人事異動並びに組織改正のお知らせ(PDF)
組織論は詳しくないのですが、東洋ゴム工業のプレスリリースを見る限り、なんかCSRが悪者(?)みたいな扱いになってますね。CSRとコンプライアンスは別の組織と考える所は多いのですが、ステークホルダーマネジメントの視点からみると、統合された部門の方がいいような気もする…かな。
大変話題になった不祥事だったので、コンプライアンスに対して本気で対応しますということはプレスリリースでわかりました。
内部通報制度のあり方
東芝さんの不適切会計問題が内部告発によって明るみになったことがご承知のとおりですが、私はこの東洋ゴム工業さんの免震偽装事件についても内部告発や内部通報の有無について関心を抱いておりました。
外部調査委員会報告書によりますと、免震性能計算を引き継いだ社員が、前任者の改ざん疑惑に気付いたわけですが、この疑惑については内部通報も内部告発もされなかったそうです。
東洋ゴム免震偽装事件-偽装に気付いた社員はなぜ内部通報できなかったのか?
東洋ゴム工業の件に関して興味がある方は、6月22日に公表されている「当社製免震ゴム問題に関する外部調査チームによる調査報告書の開示について」(PDF、336ページ)をご覧ください。
たしか、ISO26000や、コーポレートガバナンスコードでも「内部通報」について言及がされていたと思いますが、僕は形式的な研修ではなく、こうしたフィードバックの仕組み(自浄作用)が一番重要なのでは?と思ったりします。
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まとめ
内部通報からの、不正発覚は一番恥ずかしいし辛いです。僕はCSR支援をする立場なので属人的ではない、コンプラアンスやコーポレートガバナンスの「仕組み作り」が重要としています。
ただ、法律・法令以上に現場の影響力があるのは、カルチャーです。「グレーゾーンでも結果を出せ!」という空気があったら、正直やらないわけにいかないでしょう。皆やっているんだからって。
毎度のことで恐縮ですが、上記のコンプライアンス違反事例等を決して他人事と思わず、自社の取組みに活かしていただきたいです。将来、東京商工リサーチのこのレポートに、御社が載らないことを願っております。