サステナビリティパーパス

パーパスが変えるサステナビリティ

パーパス。サステナビリティ分野でもよく聞くようになりました。パーパスの価値に多くの人が気付き、統合報告あたりでも開示が増えている印象です。

ここでいうパーパスとは、存在意義・志・大義名分と訳されます。今まで存在意義と説明してきましたが、最近は「志」や「大義」というほうがしっくりきてます。

当ブログでもパーパスに関する考え方を何度か紹介していますが、様々な業界の人々が、社会的視点が重要と気付き、サステナビリティ分野でなくても活発に議論されている印象です。企業経営の中でサステナビリティが語られるように、パーパスも語られる日も近いです。

そこで、本記事では、パーパスとミッション・ビジョン・バリュー(MVV)の差、具体的な事例、等をまとめます。そろそろ日本でも“パーパスを実践している”企業が出てきてそうです。

パーパスとMVV

パーパスは、MVVに似ていますが同じではなく、例えばミッションが「企業としてどんな社会を目指すのか」(What)を示すのに対し、パーパスは「企業がなぜそれを行うのか」(Why)に関するものとされています。また主語が、ミッションは企業ですが、パーパスは社会になります。

サステナビリティの文脈でいえばミッションは「コーポレート・サステナビリティ(企業の持続可能性)」で、パーパスは「ソーシャル・サステナビリティ(社会の持続可能性)」とも言えるでしょうか。そう考えると、サステナビリティをブランディングに“本当に”組み込めたら、自然とパーパス・ブランディングになるのかもしれません。最近では「ソーシャル・ブランディング」という表現もちらほら見かけます。

また、極論を言うと、商品/サービスも、戦略も、組織も、企業文化でさえ、パーパスを達成するための手段でしかありません。社会やステークホルダーの課題をどのように解決することでどんな世の中を作りたいか。その一点のみにフォーカスせよ、と。

たとえば、どこかに行こうとしたら、みんな地図を欲しがりますけど、地形自体がどんどん変わってしまうような変化の速い世界では地図は役に立ちません。コロナ禍のような社会が大激変するような時代に、前に進むために必要なのはコンパスです。パーパスというどんな時もブレない指標があれば、地図は機能しませんがコンパスは機能します。常にパーパスを指すコンパス(MVV)さえあれば地形の変化に右往左往することはありません。パーパスとMVVはそんな関係です。

パーパスとNPOビジネス

パーパスの極論って、NPOマネジメントになると思います。寄付収入が主体のNPOの最も重要な商品は何か。それはパーパスです。パーパスに共感してもらい寄付をしてもらうのです。NPOにとってはパーパスは売り物の一つなんですね。我々は社会の中でこんな役割を担うことができる。そこを目指して貢献する活動をしますので実現のために寄付ください、と。

企業がパーパスだミッションだといっても、それが売り物になるNPOとは、パーパスに対する入れ込み具合はまったくことなります。特に大企業は、今までパーパスなかったのにそれなりにやってこれてしまった実績がありますので。逆に、企業が、売り物にもになるパーパスを作ることができたら、どんなくだらない商品・サービスでも売れてしまう可能性があります。これすごいことなのに、実践できるのはごくごく一部の企業だけなのです。理由は簡単でパーパスを決めることは簡単なのですが、実践フェーズが難関だからです。

パーパスの実践をできているのは世界でも多くありません。私のイメージではB Corp認証をとった企業に多いかなという印象です。わかりやすいところでは、パタゴニアやオールバーズあたりでしょうか。パタゴニアなんかは、普通にビジネスしてますが、NPOみたいな社会への提言も色々しています。パタゴニアの巻き込み力はすごいですよね。昔、代表インタビューをしたことがありますが、さすがとしかいいようありませんでした。

ステークホルダーをどんな目的に対して動かせるのか。ステークホルダーは企業のパーパスに共感するだけではなく、行動してくれるのか。パーパスは共感してもらうだけではダメです。パーパスは共感のための存在ではなく、社会やステークホルダーとの共創におけるスローガンでなければなりません。

ナラティブの登場

サステナビリティ分野でも、パーパスの他にも近い概念として「ナラティブ(narrative)」というワードがでてくるようになりました。ストーリーテリングに近い概念ですが、より社会的な文脈が強くサステナビリティ的というか。これらの差は主語だと言われています。ストーリーテリングは自社が主語になります。自社のファクトやデータをエピソードでまとめるというか。

一方、ナラティブはステークホルダーや社会が主語になります。社会課題があって、企業としてその課題解決にどんな貢献ができるかを語るというか。

ナラティブをなぜ持ってきたかというと、ナラティブもパーパスも社会(外部環境)そのものである、と考えているからです。サステナビリティ全般で言えることですが、自社のみで完結できることは全体のごく一部です。多くはステークホルダーや社会と自社の関わりの中にあります。

日々の業務は目の前のタスクをこなすことであり、何もしなければ視野狭窄になりがちです。そんな時に外部性を取り入れるというか、より大きな視点・視座を取り入れる必要があり、それがパーパスやナラティブなのではないか、と。「ビジネス市場の中の私」ではなく「社会の中の私」という視点でビジネス構築することが、ナラティブです。

ただ、全体的には、BtoC企業のほうがナラティブはわかりやすいです。バリューチェーンとエンドユーザーがわかりやすいですし。

パーパスの事例

2020年現在で評判の高いパーパスはソニーです。ウォール・ストリート・ジャーナルが選ぶ「世界で最も持続可能な経営をする企業100社」の首位にもなりましたね。

ソニーの今年の統合報告書は、セグメントが多い企業ながらパーパスを定義し、一つのストーリーとして紡ぎあげた点が評価されています。様々な事業を抱える企業(コングロマリット)はパーパス設定も難しいものです。言ってしまえば、まったく別の企業で同じパーパスを設定し、同じゴールを目指している状態ですから、普通に考えれば無理だとわかります。でもソニーはそれをやりきったと。ソニーやるやん。

グループ会社全体では様々なビジネスモデルがあり、マテリアリティも決めにくいものです。それぞれの事業会社ごとの個別のマテリアリティと、グループ本社のパーパスの整合性をどれだけ保てるか。こう考えると、意外に、コングロマリットのほうが、パーパス起点のダイナミック・マテリアリティ(動的に変化する目標設定)に向いているのかもしれませんね。

3人の石工の話

三人の石切り工の話がある。何をしているかを聞かれて、それぞれが「暮らしを立てている」「最高の石切りの仕事をしている」「教会を建てている」と答えた。第三の男こそマネージャーである。
出典:ピータードラッカー「エッセンシャル版 マネジメント 基本と原則」(ダイヤモンド社)

第一の男はただの雇われ労働者で、現在もマネージャーではないし将来もマネージャーにはならない。第二の男は熟練した技能を持つ男(スペシャリスト)であるがマネージャーではない。第三の男こそ、組織全体を管理しながらプロジェクトを進められる(目標管理している)マネージャーであると、ドラッカーは著書で言っています。

ドラッカーは「第一の男」「第二の男」の存在も否定してはいません。現場の人間も、高い技術力を持つスペシャリストも組織に必要な存在ですから。ただ、やっている作業は同じでも目指している場所や視点が違う。これは個人視点でいう使命感です。組織にとってはパーパス、プロジェクトにとってはMVVです。

CSR(SDGs/CSV/ESG/サステナビリティ含む)の社内浸透が非常に難しいのと同様に、パーパスも従業員ひとりひとりに自分ごとととらえてもらうのは困難です。しかし、組織のパーパスと、個人の使命感の、点と点がつながったとき、大きな力が生まれます。

パーパスをイメージするにはよいと思い紹介しました。厳密にいうとパーパスではなくMVVの話ですが、ドラッカーがMVVを提言したとされており、この手の寓話が書籍にはたくさんあるので書籍を読むことをお勧めします。ドラッカーの社会的責任論はとても面白いですよ。この寓話は大好きなので、それこそ10年前から講演などで使っております。

パーパスの価値

ヴィクトール・フランクルの「人生の意味とは、人生に意味を与えることだ」という名言にたどり着いたのです。幼い子供と同じように、私たちは誰もが生きることに意味を求め、自身が存在する目的を理解しようとします。存在目的(パーパス)があれば目標があり、目標を実現することで、私たちは存在意義を感じることができるからです。
このトレンドは、企業の責任と社会貢献の意識を高めました。しかし、同時に社会問題の解決を訴えて製品の販売を試みる、多くの無計画なパーパスキャンペーンも生み出しました。このような一時的なキャンペーンはビジネスにも、社会の役にも立たず、ブランドやマーケティング業界への不信を煽るだけです。ブランドパーパスは必ずしも社会問題の解決に関わるものではありません。啓発された自己利益という考えに基づき、すべてのブランドが持てる、ビジネスを通じて人の生活をより良いものにするという目的なのです。
「ブランドパーパス」を(本当に)機能させるには?

ストーリーテリングというと、いわゆるエピソードを盛り沢山にするという手法をよく見かけますが、キャンペーン(マーケティング)のためにやっている側面が強いものが多いです。結果として“本当に”社会に貢献するならいいと思いますが、結局最終目的が自社の利益なので、たいしたことはでないのかな、とも思ったり。

そういう状況にもなりがちなので、やはりストーリーテリングに偏りすぎない、ナラティブな思考というか、パーパスを軸にすべきなのです。「サステナビリティでブランディングを!」とか「サステナビリティをマーケティングに組み込む!」みたいなものの多くは、サステナビリティをたいして勉強もせず、企画として考えるから微妙なのです。ビジネスの起点を自社と捉えている以上、パーパスになりえないし、サステナビリティな社会に貢献できませんから。

ただ、引用した話のように、課題はあるものの、色々な可能性は否定すべきではないとも思います。

パーパス・ドリブンな組織

パーパス・ドリブンな組織とは、以下のような組織です。
・自社がなぜこの世の中に存在しているのか、ということを俯瞰する視座のある組織
・パーパスが常に企業の中心にある組織。企業文化、経営戦略、業務システム、業務プロセス、従業員のバリュープロポジション、ブランド、環境。言い換えるとその企業の全ての中心にパーパスがおかれている組織
・部署も役職も横断したすべての従業員に対して、アドボカシー、クリエイティビティ、イノベーション、魅力、リテンションが感じられるようにインスパイアされている組織
・価値を創造し、エンゲージメントを強め、変化を起こすパーパスを世の中に示せているような組織
Apple、Nike、Starbucksにパーパス・ドリブンな変革を行う専門家3名が答える、経営者が向き合う4つの悩みと処方箋

パーパス・ドリブンな組織。これって、企業文化が明確な組織が多いですよね。非財務情報は、最近ではESGカテゴリで語られがちですが、個人的には、非財務情報でもっとも重要なのは企業文化なのではないかと考えています。数値では表しにくいけど、事業活動に強烈に影響を与える空気感というか、文字通り文化です。

パーパスは存在意義と訳されますが、最近は、実は企業文化と訳したほうが実態を表すのではないか、とすら思っています。存在意義、といわれるとイメージしにくいですが、企業文化、といわれると、あーあれね、となりませんか?

まとめ

サステナビリティ界隈でパーパスがどうこう言われ始めたのはここ数年の話ですよね。概念はもっと前からありましたが、少なくとも企業がサステナビリティ・レポーティングで使うレベルのワードではなかったです。

前述したナラティブとかパーパスとか、企業が主語ではなく、社会が主語になる概念は、いまだからこその概念でもあります。10年前とかいきなりでてきてもここまで普及はしなかったでしょう。

個人的には、それこそ、今後の日本そして世界の最前線を担う20・30代の若手ビジネスパーソンにこそ、パーパス、ナラティブ、MVVあたりをしっかり理解していただきたいです。それはまさに自分事だからです。

サステナビリティは「次世代のための経営」であります。私は30代ですが、40・50代の先輩方は、20・30代のためにサステナビリティを推進していますので(そうですよね?)、それを自分事として考え、日々の業務にあたっていただくと、よりサステナビリティを実感いただけますよね。

とはいえ、私ももうじき40代ですので、次世代に伝える側になりますし、襟を正さないと…。がんばります。

以下の記事もパーパスをまとめたものです。興味があればチェックしてみてください。

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