CSRトップメッセージ

CSR/SDGsのトップコミットメント

いつも言っているように「経営トップ次第でCSR/SDGsはどうにでもなる」です。社内浸透が進まない、ESG評価を上げたい、情報開示を進めたい…などなど、これらの課題はすべてトップの意識次第でどうにでもなります。(一部例外を除く)

社員が10人の会社でも10万人の会社でも、トップがどこまでCSRに関与しているかで、進捗が大きく変わります。「売り上げを増やす」「利益を増やす」となれば、トップも理解でき全力で関与するのですが、「CSRを推進する」となると、まぁやったほうがいいよね、任せるよ、で終わり。

取締役会にCSR活動の報告はされても、マテリアリティやCSR戦略の議論や決議が取締役会ではされないことが、大手上場企業ではほとんどだそうです。あの先進企業でも、経営層の関与はほぼないそうで、経営層が関与しない経営戦略に意味はあるのかと問いたい。(でもそんな勇気ないので婉曲表現マックスで対話します。強気なのはブログの中だけという内弁慶です。)

しかし、それができたら苦労しないよ、という理想論的なイメージの方も多いと思いますが、最初から諦める必要はありません。本稿では、いくつか、トップを巻き込むためのポイントを含めて、トップコミットメント/トップメッセージの課題をまとめます。

※本稿では便宜上、トップコミットメントとトップメッセージを同義語とします。

トップの関与と社内浸透

この10年ほど、CSR推進の支援をさせていただいて感じるのは、究極のCSR推進施策は「トップが常にCSRに言及すること」です。ここでいうトップはCSR担当役員ではありません、CEOです。CSR担当役員は、組織全体の責任者ではないので、視野がどうしても偏るんですね。

ですので組織のトップの発言しかトップメッセージにはなりません。大手企業でもCEO以外のメッセージをトップメッセージとする企業がありますが、「あなたより上いるやん」で終わりです。上場企業の役員となれば“偉い人”ではありますが、組織全体の責任者ではないです。もちろん、CEOとCSO(CSR担当役員)とCFOが、統合報告にメッセージを載せるとなれば、それはそれでよいかと思います。

で、トップが、ことあるごとにCSRに言及していると、社内に一気に浸透していきます。ボトムアップ型の社内浸透は理想的ですが、時間がかかりすぎますし、トップの関与が少なくいわゆる部分最適で終わりがちです。

たとえば、社内浸透が進んでいない企業の多くは、逆説的ではありますが、トップダウンが弱い傾向にあります(当社比)。ボトムアップするにはその前にトップダウンをしなければならないのもありますが、その順番を間違えている担当者が多いかと。

これは単純な理由で、トップは組織経営の代理指標というか、トップの発言≒組織の方向性という側面もあり、現場へのプレッシャーとなるのです。理想的には、CSRの社内浸透が経営課題から発生したプロジェクトであることです。そうであれば経営陣と現場の両方に取り組むメリットがあり、強いコミットメントを得られやすいです。

CSRを社内浸透させるには、そこまでのプロセスは何でも良いですが、最終的に「トップが言及すること(コミットメントすること)」が必要です。企業は組織である以上、トップの言動が組織の方向性を示すものだからです。しかし、トップを教育し(根回しして)、コミットメントしてもらうのはいいですが、これは簡単な話ではありません。

ちなみに、CSRが社内浸透しない理由はそれほど多くなく、「そもそも現場の課題解決にCSRが貢献していない(むしろ業務が増えてネガティブにとらえられる)」が大部分かな。大義名分を声高に叫ぶのはよいですが、誰にとって、誰のための大義名分なのか、と。

コンテンツを作る

トップの考え方や意見・発言は、そのままでも重要なコンテンツになります。トップメッセージとは、組織の理念であり、ガバナンスであり、というわけです。

ちなみに、貴社のトップメッセージにエピソードは入っていますか? トップが数十年のビジネスパーソンとしての体験談を語っていますか? トップにしか見えていない組織の輝かしい未来を言語化できていますか? と。

逆に、トップが自身の体験で得たエピソードがなければ、誰でも言えることになってしまいます。この場合のトップメッセージは、極論、主語を変えても(たとえば一般社員でも)同じことが言えてしまいます。これはよくないしコンテンツとしての価値はないです。

制作会社が作った原稿を、ほぼそのままレポートに載せる大手上場企業もあるくらい、経営者は自分で自分の言葉を使って語ろうとしません。まぁ、面倒だからしょうがないですよね。

マーケティングとかブランディングとかではなく、純粋に自身の内側から溢れてくるビジネスに対する想いは、最終的に経営者からの力強いメッセージとなります。その「自分はこれがやりたいんだ」という想いから始まり、事業を動かし、世の中に広まり、社会の役に立っていく。これが経営哲学としてのCSRなのかなと最近は思います。結局、トップが自身でCSRをやりたい/進めたいと思わなければ、適切な形で進むことはありません。

トップの動かし方

ではトップはどうやったら動くのか。もちろん、一言でトップといっても、中小企業を含めて日本には400万人近くの社長がいるわけで、千差万別ですので特定の方法はないかと思います。ポイントがあるとすれば「社会・ステークホルダーから、CSR推進を猛烈に期待されている」ことを、現場からトップに伝え続ければいいのです。以下みたいな業務が説得に貢献すると思われます。

・競合他社の取り組み事例をまとめて提出する
・「いくら儲かるのか」を説明する
・小さな成果を継続的に出す

経済合理性の圧力の高い、例えば、投資家や顧客など“声の大きいステークホルダー”から、CSR推進が求められていることがわかれば(対応しないと売上・株価の下落が予想されるため)、トップも馬鹿ではないので会社の方向性を微調整し、CSRに関する何かしらの情報発信を社内外にする可能性が高いです。

「投資家や顧客から、CSR対応を求められています! いまこそ当社の考え方を開示しましょう!」と。トップに火をつけるというか。トップの「使命感」か「恐怖感」に訴えれば、より動きやすいでしょう。

社会の変化を理解する

時代が変われば“新しい現実”が生まれます。トップは日々変化する現実と向き合い、ゴール(パーパスやミッション・ビジョンの達成)までの道のりを再確認し、必要であれば修正しなければなりません。時の流れによる社会の変化は、人々の考えや行動にも変化をもたらします。当然、企業も顕在化した変化になんとか対応しようとします。変化しなければ継続できないからです。

で、変化を理解するのはモノサシがなければ、それに気づくことはできません。企業が社会の変化に対応するには「経済のモノサシと社会のモノサシ」(これを「論語と算盤」という人たちもいる)をもたなければなりません。従来のモノサシでは、目の前で起きている変化に気付くことができませんので。(余談ですが、2013年出版の単著の副題が「経済のモノサシと社会のモノサシ」でした)

このモノサシという価値を計測する指標がないと、現状維持バイアスに乗っ取られてしまうよ、と。現状維持バイアスとは、変化によって得られる可能性がある「得(リターン)」よりも、それにより失う可能性のある「損失(リスク)」に対して、過剰に反応してしまう傾向のことです。

これが強く出てしまうと「今までCSRをやらなくても大きな問題が起きなかったのだから、今後も今のままのやりかたでいく」と意思決定をしてしまうのです。当然ながら「何十年・何百年起きなかったから今日も起きることはないだろう」と決めつけてしまうのは非常に危険です。実際、10年に一度、100年に一度、レベルの災害が毎年あったりするので…。

トップの理解

ただ、ではトップというのはどの企業でも全然ダメかというとそうでもなくて、昨今の意識調査を見聞きする限り、CSRの重要性を理解していない経営者はほぼいないという印象です。しかし問題はそれを実行できている経営者は多くないという事実です。

目の前の顧客満足だけではなく、その先の社会に対して自社の得意分野で何ができるか、不得意なことは何かを見極め、どう実践するか。これできるのがトップだけです。現場はどうしたって目の前の業務や身近なステークホルダーが最優先対応になってしまいますので、より広い視野で見れるのは、組織ではトップだけなのです。逆にトップが、現場に関与しすぎるマイクロマネジメントは、オススメできません。これで成果が出ているのは、上場企業でも数社だけです。それも基本オーナー(創業家)側のトップだけです。

経営トップは、利益を最も追求すべき立場ですが、営利を目的とした組織活動の中で、短期の利益創出に貢献しにくい社会的責任を追及するコミットメントをしなければならず、相応の覚悟が必要となります。経営トップは企業の中で最も短期の経済的な責任が課せられている職位でもあり、矛盾だらけです。その状況の中で、どれだけ中長期の未来にコミットメントできるのかが課題となっています。

また、組織サイドのコミットメントでは「企業理念」の存在があります。企業理念とは、創業者もしくはかつての経営トップたちの時間を超えたコミットメントとも言え、その精神を共有することも重要です。ですので企業理念もトップメッセージの一つと考えられます(形骸化されてないか限り有効)。CSR活動の成果は短期的に生まれにくいため、成果と関係なくトップや社員のコミットメントを継続できるような体制作りが必要であり、組織文化も同時に醸成しなければならない課題もあります。

現実問題として、トップのコミットメントを引き出すのは相当に難しく、CSR推進にはトップの関与が不可欠ですが、トップからCSRが始まることはあまりないです。計画的な根回しや、社内のきっかけ(周年記念、新中計の発表、社長交代、理念の見直し、など)に乗じて、トップの関与をより引き出したいところです。

まとめ

統合報告書などでの評価項目として、より注目を浴びているトップコミットメント。CSRであってもなくても、大企業であってもなくても、トップのCSRへの関与は重要ですので、改めて自社の状況を確認してみてください。

トップのCSRへの関与度合いが高くなる、というと、経済合理性のない業務に注力するのか、みたいな意見もあるかもしれませんが、そういう話ではないよ、と。セールスやマーケティングをやめる、という話ではないし、CSRに対して古いステレオタイプな先入観を持っている人こそ、社会の変化に合わせて自分の価値観をアップデートせよといいたいですね。

企業担当者としては、最難関の課題であるとは思いますが(社長がCSRに理解がある会社が羨ましいという人は多いです)、細々とした施策をしているより、一気にCSR推進のドライブがかかるので、根回し含めて、チャレンジしてみてください!

関連記事
パーパスブランディングとCSRとの関係性
なぜ経営戦略にCSRな中長期視点が必要なのか
マテリアリティの特定/分析の最新概念「ダイナミック・マテリアリティ」