いまになって企業の“CSVウォッシュ”が増えている理由

CSR-CSV

CSVの大きな課題

ここ数年で、CSV(共有価値創造/共通価値創造)が「社会課題を解決するマーケティングおよびビジネスモデル」という方向で固まってきていた印象でしたが、また「CSRではなくCSVを」という、CSVのほうがCSRより優れている(儲かる?)、という論調が盛り返してきたような話を見聞きするようになりました。

複数の企業担当者から、経営会議などで「我が社の環境活動はCSVかCSRか」のような議論があったと聞いています。CSVをどう定義するかではありますが、環境活動(気候変動対応)は、CSV(事業機会)もCSR(リスク対応)も両面があります。「リスクと機会」はTCFDだけではなく、それこそ様々な分野にもある視点であり、CSVを拡大解釈しているのは、あまりよいとは言えないかなと。

CSVも2021年で、マイケルポーター氏らの提言から10年です。CSV提唱の本家ネスレでは2005年のCSRレポートから使い始めたそうなので、もう15年以上たちます。適当なコンサルタントが、ネスレやポーター教授らの定義からはずれて「経済的価値を生むCSR」とか「CSRからCSVへ」のような文脈で盛り上がってしまい、CSR(彼らは慈善事業と定義)はする意味がないというレベルまでになってしまっています。

SDGsもCSVもリスクと機会ではなく、機会(ポジティブインパクト)の側面ばかり取り上げているのは、書籍やネットがそういう論調のものがほぼすべてだからでしょう。そのような状況の中で、我々は、どのようにすれば「CSVウォッシュ」(見せかけだけのCSV)を回避できるのか。本記事では、いくつかの調査と視点をまとめます。

意識の高い消費者

・「エコ」の認知度が72.6%と最も高く、次いで「ロハス」「フェアトレード」の順となっている。「倫理的消費(エシカル消費)」「エシカル」は、 他のエシカル消費に関連する言葉と比較して認知度は低いが、2016年度調査と比較すると、3年間で認知度がそれぞれ2倍以上に上昇している。
・エシカル消費に対するイメージは、「これからの時代に必要」が51.8%となり、「よく分からない」を除くと、「前向き」「優しい」の順となっ た。2016年度調査と比較すると、「これからの時代に必要」が大幅に上昇し、「よく分からない」が大幅に低下している。
・エシカル消費について、全体の59.1%が「興味がある(計)」(非常に興味がある+ある程度興味がある)と回答。 2016年度調査と比 較すると、「ある程度興味がある」が大幅に上昇し、「全く興味がない」が大幅に低下している。
エシカル消費に関連する言葉を知っている人にエシカル行動をどのくらい実践しているかについて聴取したところ、「実践している(計) 」(よく実践している+時々実践している)は36.1%となっている。2016年度調査と比較すると、「実践している(計)」が7.1ポイント上昇 している。
消費者庁「倫理的消費(エシカル消費)」に関する 消費者意識調査報告書

この消費者庁のデータをみるに、この数年でも、消費者意識は変化し続けているようです。そのまま購買層の意識が変わっています!とはならないかもしれませんが、それこそ、私がCSR支援を始めた2010年ころからすれば、社会は大きく変わったと感じるところです。とはいえ、よくいわれるように、認知度の高さは必ずしも行動を示しているわけではない、といういつもの結果もでていました。具体的には「エシカル消費」を知っている人の4割未満しか行動をしていないとのことです。

CSVのリスクと機会

私個人は、CSVはぜひ進めるべきと思うのですが、SDGs、マーケティング、ブランディング等の文脈からくると、CSRつまり、リスクマネジメントを無視しがちになるのが気になるところです。このあたりは拙著『創発型責任経営』でもまとめているのでぜひお読みいただきたいです。

だからなのか、イニシアティブやガイドラインでも「リスクと機会」の視点がありますよね。直接の経済的価値を生まないリスクマネジメントも、事業活動に重要なんですよ、と。世界的なパンデミックを経験してなお、CSV(事業機会)しかCSRに求めない経営陣しかいない会社は残念です。CSR実務担当者では、実際どうしもない瞬間も多いでしょう。とはいえ、CSRの重要性を経営陣に理解してもらわないといけないので、担当者に果てしない努力が求められるのですが…。(いや本当にお疲れ様です)

これはとても難しい問題で、例えば、CSV支援をしている上場企業/大手非上場企業はたくさんあるわけですが、自社がCSVもCSRもたいしてできていない企業が多くて、そのあたりは察してください、ということもなのかもしれません。

CSVの重要性でいえば、CSVがそんなに重要なら、マテリアリティに「CSV(社会に貢献する事業機会創出)」って項目入れればいいじゃないですか。でも入れないでしょ?それは、自社にとって重要な項目ですが、ほかのステークホルダーにとってはあまり関係ない話(自分のメリットにならない)だからです。つまり、CSVを語る多くの人は、結局、自社の利益しか興味がないのでしょう。

CSVと言わなくても社会性の高いビジネスなんて世の中たくさんあるわけです。そもそも、CSRでは通常のビジネスモデルの社会性を高めよう(ネガティブインパクトを最小化し、ポジティブインパクトを最大化しよう)という話であり、20年前から、地道にCSRを進めてきた企業のビジネスモデルは限りなくCSVなわけです。

改めてCSVと言わなければならない企業ほど、じゃあ今までの数十年間の御社のビジネスは、ステークホルダーの誰も幸せにできなかったの、と。エシカルと一緒で、今はエシカルが重要って、じゃあ今までの御社はエシカルじゃなかったなのね、そっちのほうが問題じゃない?となると。反省をして社会と本気で対峙する姿勢は良いことですが、色々とモヤモヤすることも多いです。

CSVがダメという話ではなく、CSVはどんどんしていただきたいのですが、事業単位ではなく、全体最適な視点でビジネスモデルを見ていきましょうよ、となります。それだけで「CSVウォッシュ」は随分減らせると思います。

中小企業がCSVをしやすい理由

本来は、商品・サービスの開発からサステナビリティの視点を持たなければなりません。多くの大手日本企業は、数十〜百数十年前にできていて、いまさら基幹ビジネスの開発をゼロベースでは始められません。だから、比較的フットワークの軽い中小中堅企業は、ビジネスの開発段階から本物のサステナビリティを追求できるチャンスなわけです。

CSRはリスクマネジメントの要素が大きいので、どうしてもバリューチェーン全体で対応が期待され、総合力のある大手の方が進めやすいのです。でもCSVはビジネスモデルや事業単位でもできるので、比較的取り組みやすいと。(中小企業はCSRをしなくていい、とは言ってません)

あと、多くの大企業は、どこまでいってもCSVが部分的な取り組みであり、全事業をCSV化できない点が課題です。逆にいえば、中小企業はコーズマーケティングもですが、CSVを経営に統合することは不可能ではありません。

CSR活動でも儲けを出すべきか

CSRでも儲けが出なければ続けられない、という意見を聞くことがあります。つまり経済価値を生み出さないCSRに価値はない、という趣旨の話です。これは明確に間違っています。ステークホルダーから信頼を得て、本業を円滑にまわす仕組み作りがCSRなのであって、仕組み作り自体に経済性を求めるのはお門違いであります。たとえば法務部に、なんで売上ないの?と聞く意味はないでしょう。CSRだけで儲けられたら営業部門いらないですよね。でもそんな会社は今の一度も見たことありません。

これがCSRだけではなく「組織として儲けをだせなければ続けられない」というならわかります。まったくその通りだからです。それこそ、本来の統合報告における統合思考の趣旨を思い出していただきたいのですが、インパクトの全体像を示すことが重要で、財務情報と非財務情報の両面を統合的に考えることで価値創造が見えてくるのではないか、というものです。経済的価値を直接生み出さない、法令遵守、コーポレートガバナンス、人権・労働慣行、気候変動の取り組みはやらなくてもいい、では、さすがにそんなわけないでしょ、と気づきそうですが。

SDGsにおいてもCSV的な要素にフォーカスする専門家や企業もあります。私は、SDGsはリスクと機会の両面からマクロな視点で考えるべきという立場ですが、色々な考え自体を否定はしませんが、そもそも、実務の手段で儲かる儲からないの議論をしているだけで、大きな意味は生み出せないとも思います。

もちろん、CSR活動において、実施された当初は合理的であったものの、社会環境の変化によりほぼ無意味となってしまうものもあります。特に脈絡のない習慣化された慈善活動などに多いです。そういう意味ではCSVの広がりが、CSRに経済合理性を求めて、それを具現化するのに動き出している企業が多いとも言えます。

グラデーションに存在するCSV

そもそも、ビジネスにおいて、白か黒か、ゼロかイチか、なんてはっきりしたものはありません。このビジネスはCSVで、こっちのビジネスは普通のビジネスです、とはなりません。ビジネスの多くは、グラデーションの中でバランスして成り立っているのです。本来は、CSRもCSVも通常のビジネスも、様々な側面で重複して存在しています。だからビジネスを「社会的」か「経済的」の2軸だけで分ける意味はない、というのが10年のキャリアの中で感じているところです。

なぜかというと、たとえば、Aという社会性の高い商品があった場合、これを製造・販売することをCSVとしようがしまいが、それは情報開示・コミュニケーション上の問題だけで、その見せ方自体から新しい価値は何も生まれてないわけです。価値創造という視点で見るとCSVの本質がわかる気がします。

いまだに「CSRは儲かるのか」「ESG投資は儲かるのか」という質問もあります。これは愚問中の愚問で「携帯電話の販売は儲かりますか」「不動産経営は儲かりますか」と同じ類の質問でしかありません。そして質問の答えはこうです。「儲かることもあるし、儲からないこともある」か「やりかた次第で儲かります」です。

ESG銘柄(?)でも良いパフォーマンスのものもあるし、そうでないものある。CSRも企業価値向上に貢献することもあるし、そうでないこともある。もしCSRがコストにしかならないというのであれば、それはコストにしかならない方法で進めているからです。何も不思議なことはない。CSVはあくまでも経営のHowの部分であり、代替案となる選択肢はいくらでもあるので、CSVだけにこだわらず、もっと広い視点でも社会性の高い事業モデルを考えるべき時代になったのかもしれません。

コレクティブインパクト

たとえば、大手のアパレル企業(アパレルブランド)なんかが、ここ数年はサステナビリティ推進に力をいれているわけですが、実情として悪化の一途を辿っていると言えるでしょう。つまり、超大手企業だろうが、マーケティング的に個別企業ごとで対応しているレベルで、広がり続ける様々な社会問題が解決することはないよ、と。

SDGsもそうですが、企業が本気でCSR/サステナビリティを進めようとするのであれば、業界団体とか国とか法律を動かすロビー活動にもっと力を入れるべきです。極論、社会課題解決には、レバレッジ(梃子の原理)がなければなりません。問題が複雑になればなるほど、その解決にはいろいろな利害関係者(ステークホルダー)が関わる必要があります。1社でできないことも、10社、100社と連携することでできることもあるからです。

自社だけで取り組むとコスト的に見合わない場合も、パートナーシップを組むとスケールメリットで活路が見出せる可能性があります。またパートナーシップによるビジネスは、SDGsでも強く求められる視点です。

ではこれらを実践する指標は何かというと、CSV提唱者の一人であるマーククラマー氏らの「コレクティブインパクト」です。コレクティブインパクトは、セクターを超えた様々なプレイヤーが共同して社会課題解決に取り組むための一つのビジネスモデルのことです。マーククラマーらは、コレクティブインパクトがCSVのシステムだとしていますし、私もそう思います。

総合的なCSVとは

とにかく、日本企業の多くは、CSVの主語が自社になっていますが、そこにたいした意味はありません。成果を考えれば、自社だけや近しいステークホルダーとビジネスしているだけでは、本来のCSVとは言えないのではないかと思うのです。

狭義のCSVは、だいぶ日本で浸透して実践されていますが、どれも小粒なビジネスで、コレクティブインパクトのような事例はほとんどありません。CSRもそうなのですが、もっと視野を広く持たなければなりません。CSVが独り言になって自己満足でしかない場合、それを私は「CSVウォッシュ」と呼んでいます。

「本業でCSR(マーケティング視点)」ではなく「本業のCSR(バリューチェーンの社会性促進の視点)」が重要です。日本のCSVの大きな問題は「限定的であること」でしょうか。コーズマーケティングはまさにですが、期間や対象のビジネスが限定的です。

企業がもつ様々な商品/サービスの中で、ほんの一部の商品/サービスがCSVなだけで、メディア受けのいいCSV事例だけが一人歩きしている例も多いです。そのCSV事業の売り上げは全体のどの程度なのよ、と。もう誤差レベルの売り上げのために、メディア取材を受け我が物顔で語る担当者がかわいそうです。(これをことわざで厚顔無恥といいます)

2010年代前半は、「CSVを部門名にしている企業はCSRの総合評価が低い」と言われていましたし、実際そのとおりでした。CSRを狭義でしかとらえていなかったからです。マーケティングやセールスによりすぎて、足下を見なくなってしまったのだな、可哀想な企業だな、と思っていたのですが、しっかり継続して本当にCSVを実践する企業もでてきました。

社名は出しませんが、CSVの本格的な推進を2010年代前半から始めて、当初はCSR総合評価がどうにも低かった会社があります。そこが、ここ数年でどんどん伸びてきて、社会的にも評価の高い企業になりましたと。すごいですよ。多くの企業が単発のCSV企画に逃げる中、正面から継続してきて、いまや総合評価でも日本を代表する企業群の一つに。継続は本当に大変です。しかし、10年継続できれば、ライバルは勝手にいなくなることも多いので、サステナビリティ自体が競争優位になることもあります。

私のこのブログも、今月で12年目となりますが、個人ブログを10年続けたら、いつの間にかライバルがいなくなり、この分野の個人ブログで日本トップになりました。(そもそも他にいないので唯一にしてダントツの1位!)大変なことも多いですが、サステナブルな事業モデルは、それ自体に価値が生まれることもあります。

まとめ

まとめとしては、私がいいたいのは一つだけです。CSRでもCSVでもいいから、ステークホルダーと正面から向き合ってビジネスしましょうや、ということです。

個人的には、日本企業はマイケルポーターらのCSVより、ネスレのCSVのほうが参考になるのでは、と。CSRと同様に、CSVも定義が企業によってまったく違うので、特に企業事例集めの時は気をつけたほうがよいと思います。

貴社のCSVが本当に課題解決に貢献することを祈っております。

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