CSR/SDGsの社内浸透課題–アウトプットとKPI特定

CSR/SDGs社内浸透

CSR/SDGsの社内浸透

最近、立て続けに「CSRの社内浸透」に関するご相談を受けたので、自分なりの考えをまとめてみます。

CSR(ESG/SDGs/サステナビリティ含む)の社内浸透は、それこそ10年以上前からCSRの三大課題(社内浸透、トップの理解、情報開示もしくは効果測定)として挙げられていた項目です。そして、社内浸透の議論は10年前からたいして進んでいません。

社内浸透施策は本当に難しいです。詳しくは後述しますが、支援結果を出すのがそもそも難しく、簡単に受けられる仕事ではありません。支援側としては、予算をいただければ継続的に取り組めますが、多くの場合、予算・時間の都合上、中長期で関わることは難しいのです。

ただ、方法論がないわけではありません。10年以上の支援実績をふまえた結論としては、社内浸透は「アウトプットの場を増やす」「KPIの設定/特定」あたりにポイントがあるかなと。

そこで本記事では、CSR推進部門が抱える社内浸透の課題、社内コミュニケーション(インターナルコミュニケーション)、具体的な対応策、などをまとめます。私のブログですので、社内報などコンテンツに頼らない方法になります。

高評価企業の社内浸透策

トップは比較的取り組みが容易な「イントラネット、ポスター等による情報発信」で、7割近い企業が実施している。これに、「中期経営計画へ組み込み従業員に周知徹底」が続く。計画への組み込み、社員への周知徹底はいずれも容易ではなく、実施企業は半数に満たない。
次に、社内浸透策について「総合偏差値65以上」の高評価企業の特徴を見るために、高評価企業と全体平均との差を調べた(表2)。上位5項目で最も差が大きかったのが「SDGsへ貢献する事業・投資を促す仕組み」。高評価企業の70.6%が実施しているのに対し、全体では11.9%にとどまる。次が「部門評価や従業員の人事評価への取り込み」で実施率は70.6%とトップと同水準だった。本業に直結する仕組みづくりや、経営の根幹である「評価」の仕組みにSDGsを取り込んでいる。SDGsへの取り組みに対する本気度が企業への評価に表れていると言える。
高評価企業の社内浸透策本業直結で取り組み強化

日経リサーチの調査で、SDGsとしてますが、内容からしてCSRと置き換えてもほぼ問題ありません。具体的な方法論は、いわゆる「周知徹底」がお約束ごととして並んでいます。周知徹底しただけで実際に周知されると思うなよ、とは感じますが、かといってしないわけにはいかないので、高い割合になっているのでしょう。

また、SDGs評価の高い企業と低い企業の差がもっとも顕著だったものが「SDGsへ貢献する事業・投資を促す仕組み」「部門評価や従業員の人事評価への取り組み」だったそうです。私も可能であれば、CSR推進を人事評価にできれば、従業員のインセンティブになるので、社内浸透にとてもよい方法と思います。

「SDGsへ貢献する事業・投資を促す仕組み」はどう見るか難しくて、現実的には「SDGsへ“貢献しない”事業・投資を廃止する仕組み」が大企業に必要と思います。ダイベストメントされがちな業種をイメージしてもらえればと思いますが、たとえば社会悪と言われる業種が「SDGsへ貢献する事業・投資を促す仕組み」から考え始めると、おかしくなってしまいますよね。自己矛盾というか。社会的インパクトを考えれば、自社がなくなることが一番SDGsに貢献するなんてなった日には、一瞬でそのデータはお蔵入りです。

なぜ社内浸透は難しいか

社内浸透がなぜ難しいかというと、その一つは「時間軸の長さ」が要因です。極論ですが、たとえばESG情報開示対応などは、テクニックの側面も大きく、3〜6ヶ月くらいでなんとか形になる場合が多いです。私も、開示テクニックの支援だけで何社も各種ランキングを上げてきました。

しかし、施策の実施も継続した取り組みが求められ、ともかく時間がかかります。何か新しい概念を社内に展開するには、組織構造や人事評価、日常業務の改変など、多くのものを同時並行で変更し続ける必要があるので、どうしても時間がかかってしまいます。継続できないことは文化として組織に根付きません。この継続する仕組みを先に準備しないと、単発の教育施策でおわってしまい、浸透というレベルには到達できません。

そもそも1年未満でCSRやSDGsが社内浸透しないと思ったほうがいいです。みなさんが知っている先進企業でも、10年単位の時間をかけてやっと浸透しているのです。日々、CSRとは組織変革である、と申しておりますが、覚悟がないなら結果はでないので、早々にやめたほうがよいですよと。創業数十年の会社なんて、そんな簡単に変わりません。いえ、創業数年の会社でさえ、変化を負担・コストと感じていることでしょう。何かを変えるということは、膨大なエネルギーと時間が必要です。例外があるとすれば、CEOが積極的に動く企業、くらいでしょうか。

他には、社内浸透の課題として「効果測定の難しさ」もあります。社内浸透では測定すべき定量的指標の設定が難しいのです。でも測定しないわけにはいかないので、社内にCSRが浸透したことをどのように測定するかというと、アンケートで理解度調査を行う例が多いのですが、これは形式上の数値しかわかりません。

従業員ひとりひとりが当事者意識をもって、日常業務にCSRを組み込むことができるかというと、そんなの本人でさえわかっていないというのも現状だったりするので、実際は理解度の他に、様々な代理指標を用いて測定したりしますが、これも“だいたい”しかわかりません。知識などの、人間の内側の指標はあくまで参考程度にするのがよいかもしれません。

社内浸透の効果測定

では、CSRにおける社内浸透はどんなKPIを設定すればいいか。私の結論としては、組織から従業員へのインプットの量ではなく、従業員からステークホルダー/社会へのアウトプットの量を起点にすべきです。

たとえば、従業員へのCSR研修を1回やろうが1万回やろうが、従業員の行動が変わらなければ、なんのアウトプットも生まれていないわけです。CSRではインプット/アウトプットだけで完結してしまう例が多いのですが、本来は、CSR研修の結果生まれた成果・変化というアウトカム/インパクトを測定すべきです。多くの企業は「浸透」を目指しますが、「浸透した結果おきた成果・変化」を目指す組織はほとんど見たことがありません。

では「CSRの社内浸透度」はどのように測定しているのか。多くの企業では従業員アンケートでCSR浸透度を測ります。あくまで参考指標として認知度や浸透度をまとめるのはいいのですが、次のCSR活動を規定する重要要素(科学的根拠)としてはダメです。アンケートを100%正直に書く人間なんていませんので。実際のKPIはケースバイケースですが、社内浸透した結果としての変化は、あくまで行動を計測すべきです。

研修で知識を提供しCSRリテラシーを高めることは大変ですが難しくはありません。しかし、前述の通り、社内浸透度は理解度や認知度ではなく行動で計測すべきです。「CSRを知っていること」にたいした価値はありません。CSRを理解して行動をすることに大きな価値があるのです。

ただ、身も蓋もない話で恐縮ですが、この手のものはKPIが部分最適になりがちなので、KGIのゴールだけ決めれば、手法は臨機応変に変えてもよいとも、最近は思います。

CSR研修の意義

なぜCSRを実践する必要があるのか、を研修で伝えることができても、それは単なる知識であり、日々の行動には反映されることはあまりありません。ですので、よくある社内浸透施策だと「コンテンツ作成(社内報、イントラ、社内ポスターなど)と情報発信」とか「CSR研修」が行われるわけですが、それだけでは、その瞬間はCSRを理解しても、日を追うごとにその知識はほとんど忘れられています。テストしてみればわかりますが、翌日でさえ研修の内容をあまり覚えていないものです。

啓蒙・啓発や、教育による社内展開は重要ですが、社内浸透を進めるには知識ではなく行動が求められます。どんなにCSRの知識があっても、行動しなければ結果は出ません。CSR自体を理解していても、行動に落とし込めないなら、そもそもそれは理解しているとはいえません。

多くの企業での社内浸透施策は、知識の提供ばかりが先行してしまい、従業員の行動をデザインするという視点がおろそかになっている例が多いです。社名は出しませんが、複数のCSR/ESGで高評価企業でさえ、現場では“あまりCSRが実践されていない”です。

主語が大きくて恐縮ですが、日本企業が得意なのはインプットでアウトプットではない、つまり学びの姿勢は世界トップレベルなのに、成果がそれに比例して生まれていない、という傾向があるのは事実です。ですので、そもそも知識の習得求められるのは「知識としてのCSR」ではなく「行動のきっかけとしてのCSR」です。人間の本質は怠惰なので、ほとんどの個人は努力を継続出来ません。そのために強制力をともなう仕組みを作り、半強制的に習慣化をする必要があります。

仕組みとしては、たとえばリコージャパンやSOMPOホールディングスなどが、社内の各部門にCSR/SDGs担当者を置いている例は参考になると思います。全従業員を巻き込んでCSR/SDGsを本業として実現していくこと、CSR/SDGsを自分ごと化し通常業務を修正できること、という2点が教育の大きな課題であり意識していきたい視点です。

アウトプットの場を増やす

研修は絶対に実施すべきですが、講演形式の研修は当事者意識がもちにくく、知識の定着が弱い側面もあります。社内浸透の成果を求めるのであれば、当事者意識をもちやすい題材(たとえば自社CSRレポート)を使ったワークショップなども検討すべきです。

まずは、さらに学びを深めたい意識/意欲の高い従業員のサポートをしましょう。継続的にCSRを学べるようイントラネットに基礎情報をストックしたり、従業員有志によるオンラインCSR勉強会などの場の提供も効果的です。いきなり、日々の業務にCSR視点を取り入れるというのは難しいでしょうから、まずは知識の定着や、議論を通じた具体的な施策検討の場を作るだけで、自ら動ける人たちを支援できます。

その次のステップとして、その場で起きた議論自体をコンテンツ(報告書含む)として社内に発信したりして、その意識レベルの高い人たちのフォロワー集団を作っていきます。一番重要なのはこのフォロワー集団です。意識レベルが高い人たちだけで動いていても、それは社内サークルみたいなものであり、組織にほぼ変化をもたらしません。それを、社内に浸透させるのは、その人たちを追いかけ真似をしサポートする人たちです。この人たちを意図的に作り出せれば、社内浸透がかなり現実的になります。

最初から全従業員に同じレベルで動いてもらうのは不可能ですので、まずは場さえ提供すれば自主的に動ける従業員を集め、社内浸透の核を作ります。そのために、知識のアウトプットとなる場を準備すべきなのです。社内浸透が進む企業は例外なく、この場の提供ができています。主体的なCSR活動は全員参加でなくても良いのです。従業員全員が興味を持つ共通項目は少ないものです。目指す方法は同じでも価値観は異なるため共有するのも難しいものです。

結局は、最近の企業は、従業員へのインプットを充実させているので、このあたりの心配というよりは、そのインプットで得た知識を、どのように日々の業務に活かすかを考え実践する場がない、ということが問題なのでしょう。そういう意味ではCSR(社会貢献)などがテーマの「社内ビジネスコンテスト」のようなものは、わかりやすい場作り(アウトプット)です。オムロン「TOGA」、ネスレ「イノベーションアワード」などが有名ですね。

ボトムアップ型の機運や流れができれば、社内浸透は加速度的に進むでしょう。ここまでがしんどい。何年もかかる。だけど諦めないでがんばった企業から、どんどん社内浸透が進んでいるイメージ。よく事例として挙げられる企業も、1年で結果がでました!なんてところはないはず。あったら“ウォッシュ”ですね。

まとめ

CSRの社内浸透が難しいのは、根性論ではなく様々な課題があるからなのですが、2003年のCSR元年以降、20年近くたとうとしている今でも、特効薬的な手法は見つかっていません。推測するに、単にそんな方法はなく、どれだけ地道に継続して実施できるかだけが問題なのではないでしょうか。

よくよく考えれば、CSR評価の高い企業は、単に他社と比較して早く始めただけ、という側面もありますし、社内浸透は中長期計画が必要であり、PDCAサイクルを回した分浸透するという、CSRでも“あるある”な側面もあります。

CSRを本業に組み込むとか、社内に浸透させるとか、新しい企業文化を浸透させることでもあります。事業活動である以上、成果を求められるわけですが、社内浸透施策に関しては、まずは2〜3年程度のロードマップを作って、計画的に進めていきましょう。

ちなみに、CSRの社内浸透施策は拙著『創発型責任経営』でもまとめていますので参考までに。

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