新型コロナウイルスはCSRの何を変えるか-アフターコロナのCSR

CSRコロナウイルス

CSRとコロナウイルス

新型コロナウイルス感染症(COVID-19、以下コロナ)の問題は、全世界を巻き込み大変なことになっています。いわゆる三密業種は中小規模の企業の倒産が増えています。大手で今はあまり影響がなくても、今年の年末を超えられないところもあるでしょう。

我々のCSR/サステナビリティ界隈ですと、SDGs推進支援の企業はイベント業的な活動も多く、また当方もそうですがBtoB企業が多いのでセミナー営業も頻繁に行われており、3〜5月の開催分はほぼすべてキャンセルです。その分、オンラインセミナーが増えており、主催側も参加側も手探りな活動が続きます。

コロナの表現はまだ定まっていませんが、「コロナショック」「ビフォーコロナ」「プレコロナ」「ウィズコロナ」「アフターコロナ」「ポストコロナ」などと、コロナの影響を進捗フェーズで言い表している人が多いです。

そこで本記事では、コロナの影響で変わるであろう、CSR/サステナビリティまわりの動向についてまとめます。あくまで現時点での予想なので、ということでお願いします。

アフターコロナのCSRキーワード

現段階で予想できるCSR領域の変化では以下のようなものがあります。のちほど詳しく解説します。

・グローバルサプライチェーン破綻による「短いサプライチェーン(地産地消)」の普及
・すべてのビジネスプロセスの「人の安全」への投資が増える
・売上減少による予算低下から「コスト削減に貢献するCSR活動」の需要が高くなる
・ステークホルダーエンゲージメントのオンライン化がさらに進む
・公衆衛生の概念拡大と、公衆衛生の影響を受け新たな社会問題が顕在化する
・ビジネスモデルのフルデジタル化による「情報セキュリティの脅威」が広がる
・有事対応として競合企業同士で世界最先端のコロナ対策プロジェクトが進む
・コロナ対策の商品開発/ビジネスモデル変化によりマテリアリティ見直しに迫られる(「S」の重要項目が増える)
・NGO/NPOとの共同プロジェクトが減少する(→公衆衛生分野NPOのみ予算増)

目新しいものはないですが、社会課題の捉え方が一気に変わりますね。航空、外食、エンタメ、などは特に大打撃を受けており、2030年どうこうではなく、2020年末まで生き残れるか、2021年末まで生き残れるか、という文字通りの崖っぷちです。CSR推進優等生も破壊的な経済環境になると、それどころではない、という。経済危機においては「短期志向 > 長期志向」と「自社のサステナビリティ > 社会のサステナビリティ」が軸になります。CSR/ESG的に良いとは言えませんが、綺麗事を言っている場合ではない部分もあり、まさに苦渋の決断です。

全体的なCSRの傾向

CSR活動のオペレーションでコロナの影響が一番大きいのはどこかと考えると、一番は「ステークホルダーエンゲージメント」でしょう。エンゲージメントをオンラインで行なっていた企業も多いですが(少なくとも報告書上は)、今年いっぱいは、少なくともすべてのステークホルダーとのエンゲージメントはオンラインが中心となるはずです。

特に昨今の課題の「CSRの社内浸透」も、CSR担当者の研修全国行脚などが過去行われていました。これからの社内研修は完全オンラインとなるでしょう。オンラインだと情報提供は効率的にできるのですが、それだけになるとどこまで浸透が進むかは未知数です。2020年内はCSRのイベントや、社会貢献、プロボノなど、人と接することのあるプログラムは、延期ないしは抜本的な変更が行われます。ステークホルダーとの物理的な接点を持てないって相当辛いがしかたありません。

CSR活動の基礎は「人 × 人」です。企業とステークホルダーとの接点を強くすることがオペレーションの基礎となるのに、それがコロナでできない。では、社内外のステークホルダーとどうやってエンゲージメント(コミュニケーション)していくんだ、という地点に到達した企業から暗礁に乗り上げます。

もちろん、2021年になって急にすべてがオフラインに戻るわけもなく、半分以上のオペレーションはオンライン化したまま、となるでしょう。もちろん180度の変更を一度にはできないですが、今までは「セキュリティが問題で…」とか言っていた業務もどんどんオンライン化していくでしょう。

これはCSR活動だけではなく、あらゆる業界で、IT化/オンライン化、自動化、無人化のプロセスが進みます。SDGsでも「デジタルトランスフォーメーションだ!」と言われてましたが、トランスフォームもなにも「フル・オンライン化」しないとCSR業務が回らなくなっています。ではそうなった先には何があるのかというと、ひとつは自社のCSRサイトですよ。今まで以上に、CSRサイト(CSRコンテンツ)の重要度が増します。CSRコンテンツこそが、社内外のステークホルダーをつなぐものになるのです。

コロナショックによるデジタル・シフトによって、自社ウェブサイトがステークホルダーエンゲージメントの基点になるわけです。私が何年も前からずっと言っていますが、CSR関連報告書だけではなく、もっとCSRウェブコンテンツも充実させないとエンゲージメントは進みません。CSRとはステークホルダーとのエンゲージメントが進まないと成果が生まれません。CSR活動なんてステークホルダーエンゲージメントがすべてなので、それができなければ…。

私、4年前に「CSRデジタルコミュニケーション入門」という本を出していますが(今となってはたいしたことない本ですが)、その時から、自社サイトのCSRコンテンツを充実させないと、アナログだけではエンゲージメントに限界ありますと言ってました。私、言ってましたよね?

ESG

というわけで、ステークホルダーエンゲージメントの話は一旦終了し、分野ごとのアフターコロナを妄想してみましょう。まずはESGです。

ESG視点の本丸はリスクマネジメントです。BCP/BCMからテレワーク(リモートワーク)まで。またテレワークといっても、イシューベースでいえば、人事・財務・セキュリティ・電子化など様々な側面での課題があります。東日本大震災以降、BCPでテレワークを準備していた企業は今回テレワークに振り切るのが早かったです。特に大企業になれば、準備していない方向性に動き出すのは時間がかかります。CSRでいう働き方改革の一番のポイントはテレワークだって何年も前から私言ってましたよね?

もちろん、物理的な対応が必要でテレワークが難しい業種・業態があるのも知っています。そういう企業は、テレワークが難しいからこそ、柔軟なワークスタイルを模索しておくべきだった、と思います。人は予防的なことに予算を使いたがりません。現在問題が起きていないことに、追加で予算使う必要あるのか?と。でも、こういうことがあると、少しずつでも準備しておけばよかった…なります。CSRなんてそんなものですよ。長期目線でリスク管理しましょう。

リスクヘッジというのは「両面に対応する」ということです。ポジティブ/ネガティブの両方に予想を張るわけですから、必ず片方は外れます。「準備したけれど使わなかった資源」が必ず無駄になります(サンクコストになる)。しかし、今回のような危機的な社会問題が起きると、リスク対応していなかった企業は痛い目をみます。私、前から重要って言ってましたよね?

社会貢献

では社会貢献(≒慈善活動)はどうでしょうか。ここでいう社会貢献とは、自社のリソースを一定期間無償で提供する行為を指します。

今回の大きな流れとしては、すでに大きな負荷がかかっている「医療機関およびその関係者向けに自社商品を無償提供する」という慈善活動でしょうか。商品の品質が高いものであれば喜んでくれるプレゼントになるでしょう。(くれぐれもニーズにマッチしない自社商品を送りつけないこと!)

エンタメだと書籍や映像コンテンツを持っている企業が、期間限定で無償公開した例があります。これは経済性が伴わないため慈善活動ですが、幼稚園/保育園・小中高が閉鎖されており、暇な人たちに貢献する(社会課題解決の一助になる)行為であり、おおいに褒め称えましょう。

寄付はどうか。これは専門ではないのでわかりませんが、全世界の企業にネガティブな影響がでているので、他人様を気にしている場合ではない、というのもあり、あまり進んでいないようです。事例はたくさんあるようですが、東日本大震災の時ほどではないですね。ほんと自社がそれどこれではないという企業も多いですし。金銭的な寄付はあまりないですが(有名人が100〜1,000万円寄付するくらい?)、物品の寄付は今回は多いように感じます。例えば以下のような例。他にもたくさん事例があります。

・サントリー:医療機関向けに消毒用アルコール提供(製造費用を自社負担)
・ソニー:総額1億USドルの支援ファンド「新型コロナウイルス・ソニーグローバル支援基金」を設立
・ファーストリテイリング:肌着「エアリズム」を医療機関に提供

トップメッセージ

リーダーは有事の時こそ、その存在感を示すべきです。すべての従業員は、通常以上に経営者のメッセージに注目しています。たとえば、今の社長になって一気にCSR色が強くなったApple社は以下のようなトップメッセージを発信しています。(3月13日公開)

このような状況が困難な課題であることは間違いありません。Appleファミリー全体が、新型コロナウイルス感染に関して、全世界で、その初動対応に当たる人々、医師、看護師、研究者、公衆衛生の専門家、公務員といった方々が取っていただく対応から恩恵を受けています。彼らは皆、世界中の人々がこの難局を切り抜けるのを助けるべく、あらゆる努力を傾けてくれています。そして、この最大脅威のリスクを脱する時期について明言することはできないのです。
しかしながら、私たちのグローバルコミュニティのあらゆる場所で見受けられる人間愛や(人類の脅威に立ち向かう)決意のようなものに私は感銘を覚えています。リンカーン大統領は大きな逆境にある時にこう述べました ――「困難が次々に重なって高い山となっても、我々はこの状況とともに立ち上がらなければならない。私たちが直面する状況は新しいものだ。だから、新たに考えねばならない。新たに行動しよう。」
これこそが、Appleが大きな課題に直面して常に選んできたことでした。そして、それこそが、今回のCOVID-19への私たちの対処方法でもあります。
https://www.apple.com/jp/newsroom/2020/03/apples-covid-19-response/

日本企業のトップは「お悔やみ申し上げます」的なふわっとした抽象的な言及はしますが、リーダーシップを感じるメッセージを出すことはほとんどありません。Appleを真似しろというわけではないですが、少しくらい社外にメッセージ出してもいいと思うのですが。

CSV視点

医療品(マスクなど)を作ったことがない企業が製造し売るという事例がたくさんありました。シャープのマスク生産と販売とは、良い悪くも話題になりましたよね。「事業機会 × 社会的価値」という視点では、マスク製造はCSVと言ってもいいでしょう。

他にはCSVというわけではないですが、花王が除菌ジェルの大増産を決めたという話もありました。将来的にニーズがどうなるかわからないので、そう簡単には増産はできないのですが、これは英断だと私は思います。微々たる貢献ですが、個人として日本に協力してくれた花王の商品を買い支えたいと思います。

CSVの本来的な役割は、環境を悪くしないようにとか、社会を良くする事業を考えることではなく「その枠組みであれば勝手に環境や社会が良くなる仕組みを作ること」であります。そういう意味ではコロナ問題でいうマスクは、非常に興味深い試金石になりました。

他にCSV的なものは、たとえばインテルの例があります。インテルはコロナの感染拡大防止に向けた技術開発に5,000万ドルを拠出し、技術や資産を提供し、治療技術の早期の実用化や研究活動を後押しする、と発表していました。慈善活動的な側面もありますが、R&Dみたいなものは将来、自社の資産になることも多々ありますので、このような、社会貢献にもなるし、将来自社の事業範囲を広げる取り組み、としても貢献してくれそうです。

パートナーシップ/協業

AppleとGoogleが新型コロナ患者を検出する技術でパートナーシップを組むという話題もあります。一部競合にもなる営利企業同士が社会課題を解決しようとする取り組みが起きました。これは一番SDGsっぽいですね。公衆衛生問題に対するグローバル大手のパートナーシップ。とても価値のあることですね。日本だと、業界団体が取り持ってパートナーシップ・プログラムを実施するというのが現実的でしょうか。

「企業とNPOとのパートナーシップ」は平常時なら、いつも検討されることですが、コロナ問題での事例はほとんど見ませんね。医療系NPOでもコロナへの対応はほとんどできてなさそうなので、現実的な社会的インパクトを考えると、企業同士のアクションのほうが成果だせそうです。サプライチェーンマネジメントに組み込まれたパートナーシップならまだしも、慈善活動的な活動は今は難しいですね。企業からの寄付などに依存していたNPOは解散するところが増えそうです。少なくとも今年はかなり厳しいです。

勘違いな事例

創業社長の大手企業がコロナ検査キットを従業員や希望者に配布するなどの活動もありますが、私が様々な情報を見る限り適切とは思えないし、自分が困るだけではなく逆に問題が多発する可能性があると。また、以前から言われていた、個人間で物品を売買できるサービスでは、医療関連品の制限をぜんぜんかけないし、もはや害悪とさえ言われていました。

世の中には“必要悪”と言われるビジネスがあるのですが(たばこ、ギャンブルなど)、もうそれらに近いのかなと。そう言った社会的負荷をかけてきた企業が、一方ではCSRだESGだサステナビリティだといっても、それより先に対策することがあるでしょう、としか言いようがありません。今回は、マスメディアの誤報も多く、まずは本業の品質管理という基礎を見直すべきです。

創業社長の上場企業/大手企業は、良いほうに動けば勢いでCSRが進むのですが、悪い方向に動いてしまうと手がつけられないというか。いわゆる大手企業はステークホルダーも多くなるので、スピード感も重要だけど、その活動の社会的インパクトだけではなく、企業の組織としての社会的インパクトをちゃんと考えたほうがいいのでは、という話です。ちなみに、そういった暴走したり、暴走を止められない企業は、ほとんどの場合コーポレートガバナンスのレベルが低く、CSRの総合評価は低かったりします。因果関係はわかりませんがこの相関は興味深いと思いませんか?

こういう危機的なできことがあると、企業がどの方向性で社会性を考えているかがわかって面白いです。

まとめ

今回紹介した事例以外でも、たくさんの企業がなんとかコロナ対策をしようと試行錯誤しています。

例年行われている、CSR関係の大規模イベントや、各種調査・アワードなどは、2020年はスケジュールがグダグタになります。基本は後ろ倒しですが、2020年夏以降もどうなるか未知数です。オフィシャルの発表を細かくチェックするようにしましょう。

とはいえ、あまり公衆衛生の問題に深く関わりすぎない勇気も必要です。もちろん、公衆衛生の対応は重要ですが、企業のステークホルダーは社会だけではないはずです。自治体や政府に任せるところは任せ、自社だからできる社会的責任を果たしましょう。

こんな時こそESGを!サステナビリティを!と言う専門家は多いですが、現場からすればまずは2020年を破綻せず乗り切ることが先です。100年の一度の経済危機を乗り越えられなければ、サステナビリティも何もありませんから。現状としては、CSVとかESGとか何か新しいことをしようというよりは、ボロボロになってしまったサプライチェーンマネジメントやステークホルダーエンゲージメントをどうするかと。

CSR/サステナビリティ分野も、コロナショックで大きな地殻変動が起きています。2010年代の10年も相当な変化あったと認識しており、毎年のように「今が過渡期です!」と言っていたような気もしますが、2020年代は始まりから大きな変化があり、今まで以上に過渡期に突入しました。

2020年はどこまで「綺麗事ではないCSR」を断行できるかで、今後のCSR推進に大きな違いがでてきそうです。

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執筆者安藤光展/CSRコンサルタント
CSR/SDGs経営の専門家。著書は『創発型責任経営-新しいつながりの経営モデル』(日本経済新聞出版社)ほか多数。日本最大級のCSR担当者コミュニティ「サスネット」主宰。1981年長野県生まれ。

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CSR/サステナビリティ情報開示を専門とし、経営戦略にまで踏み込んだコンサルティング型の支援を行なっています。成果にこだわる情報開示をお望みの方、情報開示のコストの削減/効率化を目指す方、是非「お問い合わせフォーム」よりご相談ください。また、CSR支援会社様の業務パートナーとしてのご相談もお待ちしています。

安藤光展のプロフィール
情報開示の第三者評価
研修/講演依頼

CSR/サステナビリティに関する勉強会を主宰しています。これからCSR推進活動をする初級担当者、他社担当者と情報交換したい方、組織のCSR評価を一段階上げたい方、などにおすすめです。

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