CSR/サステナビリティにおける、社会的インパクト評価の重要性

CSRとインパクト評価

あなたは「社会的インパクト評価」という単語を聞いたことがありますか?

社会的インパクト評価とは、社会的インパクト(CSR活動の成果)を定量的・定性的に測定し、当該活動について価値判断を加え評価することを指します。単純に「インパクト評価」と表記することもありますが、基本的にはほぼ同じ意味です。

インパクト評価というと難しいですが、簡単に言えば「効果測定」のことです。CSR活動を行ない生み出した成果を振り返って、その良し悪しを確認するという方法論です。ソーシャルセクター(NPOなど)やパブリックセクター(自治体)などではだいぶ市民権を得てきた考え方で、2010年代に入り日本企業内でも議論になることが増えています。

で、ビジネスセクター(企業サイド)では実際どうかというと…。事例は当然あるのですが少ない…。ではなぜ企業にはインパクト評価が普及しないのか。このあたりの課題を含めて、本記事では、企業とインパクト評価についてまとめます。

CSRにおけるインパクト評価

「CSR活動でどんな成果をめざし、どのような成果指標で測れば良いのか?」。このKPIフレームワークに疑問を持つ人はいないでしょう。この実務にインパクト評価が入ってきます。結局インパクト評価ができないと、本当はCSR戦略(マテリアリティ)も決められないはずなので、していない企業はそもそもないはずです。CSR活動の成果を可視化せずに、何をマネジメントするというのでしょうか。

また、例えば企業には株主等の財務資本提供者がステークホルダーにいますが、CSR活動の成果報告といいますか、説明責任を果たすために、インパクト評価を行い情報開示しなければなりません。セールス、マーケティング、プロモーションの活動において効果測定をしないことのほうがむしろ少ないと思いますが、なぜ企業サイドではCSRにおいて効果測定方法が根付かないのでしょうか。

インパクト評価の課題

実際に企業のインパクト評価となると、ソーシャルセクターやパブリックセクターで語られるインパクト評価フレームワークが馴染まないことも課題とされています。そもそも、それらのセクターは経済合理性をある意味無視して成り立つ産業だからです。予算消化型とでもいうのでしょうか。

インパクト評価自体は、社会的インパクトの最大化を目指すフレームワークの一つであり、ビジネスセクターの経済合理性が前提としてある中で、同じ方法論のインパクト評価できるかというと実際には難しい点も、考え方自体が普及していない原因の一つといえるでしょう。

CSRの効果測定・評価指標となれるのか「社会的インパクト評価」』という記事でも書きましたが、「負のインパクトの測定」「コンテクストの解釈」「効率優先主義の弊害」などの課題もあります。また、何でもかんでも測定すればいいというものでもありません。測定されたその数字が意思決定を行う上で無意味である可能性もありますので。インパクト評価に耐えうる因果関係を証明できる客観性なども必要です。効果測定しても、その結果の情報を使ってのアクションが起こしにくいとなれば、それはする人が増えるわけないですよね。意味がないわけですから。

企業が社会に与える影響を測定するのは容易ではありません。場合によっては自社以外のデータが必要になることもあります。多くの企業ではCSR活動への投資(インプット)金額やその結果(アウトプット)までは測定していますが、社内リソースのみでは社会に与えるすべての成果および影響(アウトカム/インパクト)の測定は事実上不可能であり、できたとしても測定できた事象だけで何かの意思決定をして良いかという難しい場面もあります。

また、企業が社外のバウンダリー(事業影響範囲)におけるインパクトを測定するには、膨大なリソースが必要であることが多く、そもそも、インパクト評価の調査活動により、実務にまわせる予算が減ってしまいそもそもの成果が目減りしてしまう可能性もあり、評価のための活動となってしまい、本末転倒なことにもなりかねません。よって、解決方法の一つとして、自社のマテリアリティに関連する項目のみ、インパクト評価を行うということが現実的な落とし所となるでしょう。

インパクト評価の概念

とはいえ、完璧なインパクト評価はCSR活動に馴染まないこともありますが、少なくともその方法論は知っておくべきです。インパクト評価における大きな注意点は以下の2点です。

(1)成果を「効果」ではなく「変化」としてとらえる。「何が生産されたか」よりも「何が変化したか」を成果とする。
(2)評価対象を明確にする。取り組むべき社会課題の側面(特性、範囲、規模)に対して、CSR活動が課題解決の手段として適切かどうか分析する。

注意点は、ある活動が事業プロセス的に期待される成果・効果と、実際の社会的インパクトの効果は別ものであるということです。インパクト評価の真髄といいますが、本領を発揮するのが「成果創出に対して何が原因かを突き詰めること」です。期待通りもしくはそれ以上の成果が出たのは、「予算が適切だった」のか「別部門の協力が多くあった」のか「社長イチオシのプロジェクトで“鶴の一声”があった」のか、など。ロジックモデルに落とし込むことで、色々なプロセスが明確にできます。

CSR活動の成功の理由を明確にしないと、何をすれば成功するのか一生わからないままです。CSR活動の失敗の理由を明確にしないと、何をすると失敗するのか一生わからないままです。これではダメなので効果測定が必要だというわけです。

インパクト評価の分析単位

基本的に、社会的インパクトの領域は「単位が異なる」ということも分析の難易度を高めています。例えば「二酸化炭素排出量を○○トン減らしました」ということと「途上国の識字率を〇〇%増加させました」ということは成果の単位が違うので、どちらのほうがCSR活動として優れている(社会に貢献している)とか、インパクトの順位付けを客観的に行うことは困難を極めます。

いわゆる「Apple to Apple」の問題です。属性や単位の違うものは原則比較できません。一応、特定の指標で同一の概念で評価するインパクト評価方法もあるのですが、単位の違うものであるとコンテクストも変わるので、現実問題として良し悪しの判断が難しいのです。

加えてインパクト評価の効果測定においてポジティブな側面しか評価しない企業が多く、バリューチェーン全体で総合的成果につながっているか証明しようとしないケースもあります。事業活動にはネガティブな側面が必ず存在し、ポジティブ面の成果の評価だけでその活動が適正かどうかを見極めることはできないのではないか、という議論もあります。そのため、初期段階の社会的インパクト評価は第三者の専門家を交えて進めることも検討しましょう。

現在の状態=「良くない」
過去からの経過=「(良くないが以前よりは)良い」

例えば、上記でいえば、現状はゴールと比較し良い進捗状況とは言えないものの、過去から比べればまだ良くはなってきているという状況を、別の視点で評価したものです。どちらも現状を示す評価ですが、結果とプロセスを同じ文章で語ってはいけません。これをしてしまうと、読者が混乱してしまいます。『「良くない」のに「良い」とは、これいかに。』というわけです。

分析の単位というか過程になりますが、情報開示の際に、意図的に“ポジティブに感じる表現”を選択することが多々あります。嘘ではないけど、適切な表現であるとはいいにくい、と。このあたりは気をつけないと、ステークホルダーの誤解を生むことになるので注意が必要です。

インパクト評価の実践と価値変換

すべての条件が整わないとインパクト評価ができないかというと、それはそうなのですが、実務的には簡略化してでも実施する価値はあります。

基本的には「該当CSR活動のスタートとゴールを決めてその変化を定量化する」だけなのです。ゴール(目標)を達成するために、スタート地点(現状)とのギャップを明確にし、そのギャップを埋めるアクションを測定すると。で、その現状の成長(数値の変化)を定量評価すればいいだけです。

ここでの課題は「変化しないことの価値」が計測できないことです。たとえばコンプライアンスのように法令に則り誠実なビジネスを行うことは、無用なビジネスリスクを取り除く活動であり何も変化がないということが成果だったりするので、何かを生み出すだけがCSR活動ではないということです。変化がないから経済的・社会的価値がない、なんてことにはなりません。

定量化された成果を社会やステークホルダーに対してどのような価値があるのかを説明するのが、本来のCSR/サステナビリティの情報開示(非財務情報開示)になるのです。成果を価値に変換し伝えられなければ、そもそも成果を測定しても意味がありませんから。SDGsへのインパクト評価もこのあたりを明確にしておく必要があります。

意図的な運用の弊害

たとえば、保育サービス事業者は保育している子どもや当該地域に、どれだけ社会的インパクトをもたらしたかを示せますが、それが従業員の質(ソフト面)によるものなのか、施設設備(ハード面)によるものなのか、親に対する支援(親への保育教育)によるのか、地域特性によるものか、などの原因と因果関係を明確にすることはほぼ不可能なのです。社会はすべてがつながっており、その中から特定の要因を見つけるのは事実上不可能です(予算も時間も無限に使えれば不可能でもない)。ですので、社会的成果に対する説明責任が必要だからと、ある程度“操作された”インパクト評価が行われているのです。

また、CSR活動では数量化・可視化しやすい目標に焦点が当てられるため(チェリーピッキング)、数量化されにくい目標の達成が軽視されがちになりがちです。その結果、CSR活動自体が数量化されやすい(変化が明瞭な)目標ばかりになってしまう、と。真実よりも、わかりやすさや人気を優先させてしまうところがあります。多くの場合、それは現実的な選択であり、それによって問題が起こることはあまりないのですが、歪んだものの見方であることは変わりありません。

CSR活動はスポーツ競技ではないので、評価基準として唯一なルールはありません。考えるべきパラメーターが多岐にわたる点がインパクト評価を難しくしています。たとえば「世界で最も素晴らしい野球選手は誰か」を決めるのが困難であることに似ています。意図的な運用のすべてを排除すべきとは言いませんが、それが本質的な自社における活動なのか、方法論なのか、は常に確認すべきです。

まとめ

なぜ企業は社会的インパクト評価をしなければならないのか。これは、CSR活動の成果が測定できなければマネジメント(コントロール)できないからです。

しかし、厳密な運用は非常に難しく、ファーストステップさえ踏み出せない企業がほとんどです。私としては、あまり難しく考えず、KGI/KPI設定(マテリアリティ特定からのブレイクダウン)をしたら、あとは実施と計測をできる範囲でまず進めることをオススメしています。

まだまだ課題の多い企業におけるインパクト評価ですが、すべきかしなくてもよいかでいえば、絶対的にすべきことではあるので、今年度または次年度のCSR活動として導入を検討をしてみてください。お声がけいただければお手伝いもできます。

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