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マテリアリティ特定は企業のウォンツで決まる

マテリアリティ特定が普及期に

2010年代に入り日本企業のCSRは2000年代と比べ物にならないほど普及し進化してきました。

少し前までは「CSR報告書を新規発行する」というのが、ある意味CSR活動において最重要項目だったのですが、今では多くの企業でCSR関連の情報開示(冊子・ウェブ)をするようになり、その質を問う動きが増えてきました。

質というのはズバリ「戦略」です。いきあたりばったりのCSR活動と開示を繰り返してきた企業も、ステークホルダーからの社会的要請によって、計画的でより成果につながる活動や開示を目指すようになりました。

特に2016年以降は、SDGsとGRIスタンダードの影響がとても大きく、この潮流を受けてこれらの項目をKPIとしてマテリアリティに組み込もうという動きも一部であります。さて、今こそ実施すべき特定プロセスとはどんなものでしょうか。

というわけで、本記事ではより注目が集まり始めたマテリアリティについてまとめます。

投資家とマテリアリティ

GRIのレポート「De ning What Matters – Do companies and investors agree on what is material?」(PDF,2016)によれば、GRIのマテリアリティの概念および項目は投資家視点からみても有効だと思うよ、ということです。

企業が投資家というステークホルダーの情報ニーズを考えた場合、GRIのマテリアリティ特定は有効に機能しうる、ということでしょうか。

じゃあ、CSR部門ではなくIR部門がマテリアリティの特定と開示すればいいじゃん、となりそうですが、現実的にはそれは無理です。企業のステークホルダーは投資家以外にもたくさんいます。IRが担当すると、マルチステークホルダーの事業活動であるCSRが、投資家のみを対象にしたものになるでしょう。だからといって、CSR部門がマテリアリティを作ってもIRや経営企画部門が許可してくれないという企業も多いようです。

そうそう、なぜマテリアリティが透明性を担保できるかというと、一般的なマテリアリティ策定プロセスは、社外のステークホルダーおよび専門家の意見を踏まえているからです。多くの日本企業で行なわれている“会議室で作ったマテリアリティ”は、社外の視点や意見が含まれていないので、厳密には透明性を担保することができないので注意しましょう。

何かを選択するという意思決定は、戦略上とても重要なことです。まさに統合報告の考え方ですが、IR/PR//HR/CSRなど様々な部門が連携し、部分最適ではない戦略と情報開示をしなければならないのです。

ウォンツとニーズ

マテリアリティとは、企業サイドの「ウォンツ(欲求)」とステークホルダーの「ニーズ(必要性)」を戦略というステージの意思決定に利用する、というイメージです。こういう表現のほうが担当者の方の理解が進みやすいと気づきました。

GRIスタンダードによれば、マテリアリティとは「報告組織が経済、環境、社会に与える著しいインパクトを反映する項目、またはステークホルダーの評価や 意思決定に対して実質的な影響を及ぼすこと」としています。つまり、本来のマテリアリティは、企業のウォンツはどうでもよくて、企業がトリプルボトムラインに与える“影響”を特定せよ、ということなのです。ただそうは言っても、マテリアリティに自社の視点を入れるのはよろしくないとなると社内的な根回しが現実的に難しくなるので、まずは企業視点(ウォンツ)があってもいいのかなと私は考えます。

実際の作業としては、大手企業の99%は、マテリアリティ特定は“後付け”です。ゼロからマテリアリティとバウンダリの特定はできますが、時間と予算が相当かかるため初期フェーズで選択しうる概念とは考えていません。現状の経営戦略にステークホルダー視点を組み込むだけ。特定に使う文言も公開情報から選択する。まずはここからです。

だからこそ初期フェーズでは少し企業視点をいれておき、次の改訂(大抵は中期経営計画の変更と同じタイミング)でより質の高いマテリアリティ特定や情報開示ができれば、やらないよりいいでしょ、というスタンスです。最初の一歩を大きく広げすぎると失敗する(特定ができない)こともあるので気を付けましょう。

また、マテリアリティ特定は「どの部門のどの担当者で実施するのか」という質問をもらうこともありますが、そういう質問をする組織構造を持つ企業の場合は「委員会形式」がセオリーです。CSR担当役員、経営企画、リスクマネジメント、IR、CSR、環境、広報、などのメンバーで構成される組織です。

マテリアリティ特定はCSRの専任担当者がいればその方がプロジェクト・リーダーになることが多いように感じていますが、マテリアリティの特定ができていない企業は、そもそも専任スタッフがいない場合が多いです。社内的にはこの推進体制の構築が特定の作業よりも実施の壁になることもあります。悩ましい問題です。

マテリアリティは企業評価に貢献する?

世界で進んでいたESG投資が、日本でも本格的にスタートしました。日本を含めて、企業の非財務領域を評価項目とするインデックスもどんどん作られています。しかしそれによって本来の企業価値とは別の議論と課題も出始めています。

ESG全般をターゲットとする統合型インデックスでは項目が多岐にわたり、網羅された項目のチェックだけをするようになった結果、情報開示のテクニックがうまい会社は評価スコアが上がりやすく、定量データに現れにくい企業のブランド価値などは評価できないままです。(定性情報の見える化問題)

企業の情報開示において、CSR報告ガイドラインの指標に従って掲載しているうちに、報告が全般的なデータブックとなってしまい、会社のオリジナリティが見えなくなるという課題があります。自社ビジネスに関連したマテリアルな項目こそ、企業のオリジナリティとして評価すべきポイントと感じるのは私だけではないはず。たとえば、同業種の競合企業でもあってもマテリアルな項目は本来は異なるはずです。(情報開示の差別化問題)

そもそも論、企業が「社会へのトリプルボトムラインへの影響」と「ステークホルダーのニーズ」を知らずして、CSR活動はできない。これが私の持論です。評価機関に評価されるためのマテリアリティ選定や情報開示も重要なのですが、評価機関に評価されたからといってサステナブルな社会と企業にはなりません。評価機関に“睨みを利かせながら”も、それぞれのステークホルダーと真摯に向き合う姿勢が重要です。

まとめ

マテリアリティ特定は企業のウォンツで決まる。

マテリアリティ特定は、第三者の専門家が入らなければならない、リスクの社会的インパクトより発生確率をより重視したほうがいい、業界特性が最も顕在化しやすいリスクとなる、などそのポイントをあげればきりがないのですが、やらなくてもよい理由は何一つありません。

中小企業は特にリソースが限られているので、超マテリアルな項目を決めて一点突破スタイルとなるのもよいでしょう。(他のことをしなくてよいわけではありません)

CSR戦略がより重要視されるようになってきた今だからこそ、改めて自社のマテリアリティを振り返ってみてはいかがでしょうか。

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執筆者:安藤 光展[→プロフィール詳細]