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CSRのミッション・ビジョンは害悪でしかないかも

CSRのミッション・ビジョン

CSRにミッション・ステートメントは必要か。そんな質問に私はこう答えます。「必要です。ただし状況によります。」と。

先日「ビジョナリー・カンパニーなんて、嘘っぱち。」という記事を読みました。

内容はタイトルのとおりです。個人的には、そりゃそうだろうなと感じたわけですが、世の中はそうでもなく、いまだにCSR領域でも「ミッション第一主義」(ミッション・オリエンテッド)が叫ばれています。

ソーシャルベンチャーであればそうなのでしょうけど、CSRなんて考えてもいなかったような企業がいきなり「CSRにおいてミッションが重要だ!」と言っても、どこかのコンサルに騙されたのかな、程度の印象でした。

1995年に発売された「ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則」という書籍があります。要旨は「ビジョンがある会社こそエクセレントだ」というもの。ビジョン至上主義的(ビジョン・オリエンテッド)な発想です。でも、本当に、相関関係ではなく因果関係まであるといえるのでしょうか。

社会動向も含めて、どんなに強固なリスクマネジメントをしても、自然災害を含めて偶発的な事象に影響を受けるものです。「ビジョンがあれば経営がうまくいくのか」。この問いの答えは「うまくいく企業もあるし、いかない企業もある」です。

本記事では、綺麗事ではないCSRにおけるミッションの考え方をまとめます。自称コンサルの方は、読むとイラっとするかもしれませんので、そっとページを閉じてください。

※本記事では「ミッション」と「ビジョン」を便宜上同義語として使います。
※バックキャスティングによる長期視点を批判しているわけではありません。

生存者バイアス

「生存者バイアス」という考え方があります。市場における生存者を基準にする考え方です。

「ビジョナリー・カンパニー」の場合を考えてみましょう。私はこれらは生存者バイアスだと思います。あらかじめ“成功している”かつ“ビジョンが強い”企業をピックアップしておいて「ビジョンがある会社は素晴らしい」といっているのではないか、と。

一般論としてビジョンがある会社のほうが良く見えるでしょう。ステークホルダーの評価も上がりそうですが、すべてそうであるとは当然言えません。この生存者バイアスを確認するには、「相関と因果」の関係性を知る必要があります。

相関関係と因果関係のわかりやすい例だと、あるトイレ利用に関する調査で「儲かっている企業はトイレが綺麗」(相関関係)という事実があったとしても、「トイレを綺麗にすれば儲かる企業になれる」(因果関係)という論理が存在する、というわけではない、ということです。ちょっと考えれば、まったくおかしなことだとわかりますね。

今回の話でいえば、「ビジョンがある会社がサスティナブルだ」という調査結果があったとしても、「サスティナブルな企業になるにはビジョンを作ればいいのだ」とはならない、という可能性が高いのです。ビジョンだけではメシは食っていけません。

CSRといえ最終的には担当役員や社長が決裁者となっている場合も多く、私も様々な支援で経営層の方と意見交換をすることがあります。申し訳ありませんが「ビジョン過信型」の方がいるのは事実です。きっと、現場の一般社員と話す機会などないのでしょう。

生存者バイアスの後付けで色々分析されることもありますが、経営層であっても人間は所詮人間なんですよね。過信は禁物です。CSR先進企業のミッションを分析しても答えはないと思いますので、自社の内側にある「想い」や「ケイパビリティ」を磨いてCSRのステートメントを考えることが必要なのかもしれません。

ミッションを決める人と実行する人

CSRでいえば、SDGsは2030年までの目標ですが、今、CSR戦略を決めてコミットメントをする経営層のほとんどはそのころには会社にいません。つまり「決める人」と「実行する人」は違うのです。「ビジョンを決める人」と「実行する人」が違う。これ、決定的な差だと思います。

極端な話、還暦間近もしくは超えているの経営者とコンサルタントが「バックキャスティング」といって、2040年、2050年の目標を作りたがりますが、それってどうなの、と。(理路整然とした素晴らしいものも中にはありますが…)

決めた人は、そのころ会社にいないし、そもそも生きているかすらあやしい世界です。ビジョンは会社の方向性を作る重要な考え方ですが、よくも悪くもトップダウンであり、現場にその意図が反映されない可能性があります。

数十年先のコミットメントをして、実際にその通りになった企業ってありますか?ないんですよ。老舗も潰れるこのご時世に、数十年先のコミットなんて“現実的”には意味がないんですよ。1990年代、2000年代のCSR先進企業でも、2011年の東日本大震災が日本のCSRシーンのティッピングポイントとなると、誰も予想できなかったはずです。世の中は、意外に偶然に左右されるものでして、数十年後の予想があたることは多分ありません。そんなものなのです。

とはいえ、CSRも戦略が重要視される世界になったので、無計画な“いきあたりばったり”ではよろしくなく超長期目標も必要なのは事実です。それは認めますし、絶対すべきです。ただ、できもしない無責任な目標はどうかと。だいたいのCSR先進企業のCSR活動って再現性がないんです。つまり、仮に、同じ方法を同じ条件下で使っても同じ結果にならない、ということです。

別の企業なのに100%同じ結果がでるわけないですよね。人間でも同じです。それを知っていながら事例だけを求めるのもどうかと思います。

CSR活動の失敗例・成功例などの事例を参考にしながらも、ミッションの決め方は正解がないだけに、CSR領域の中では最大級の難易度ではあると思いますが、第三者やステークホルダーの視点を取り入れ、現実的かつ野心的なミッションにしたいものです。

今月、とある国内のCSRパフォーマンスに関する調査をしている大学教授の講演を聞くのですが、CSR活動が経営にポジティブなインパクトが出ていると信じたいですが、必ずしもそうでもないみたいで…。

まとめ

特にオチもなく書いてきましたが、結論、CSR活動におけてどんなミッションとビジョンを持つべきなのでしょうか。

当面の行動としては、無理せず現在の経営的なミッション・ビジョンをそのまま引き継げばと思います。CSRは経営そのものですので、経営ミッションと、CSR専用の別のステートメントを準備する必要はないと考えています。ゴールが2つとか、本来ありえませんから。

CSRにおけるミッション・ビジョンとは、必ずしもサスティナブルな企業経営とは関係ないかもしれません。あまり、ステートメントにこだわりすぎるよりは、実践的な仕組みづくり(PDCAサイクル)にリソースを使った方が、サスティナブルになれるかもしれません。

社会が大きく変化している現代社会において、成功している(生存している)企業ばかりを見すぎると感覚がマヒすることもありますので、事例調査はほどほどにしましょう。

御社のCSRにおけるミッション・ビジョン・バリューは「生存者バイアス」なしの実践的なものになっていますか?

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執筆者:安藤 光展[→プロフィール詳細]

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