株主優待の社会的責任
先日、日経新聞に気なる記事があったので紹介します。
自社製品や金券の配布以外に、相当額を寄付する選択肢を加える例が目立つ。日本的慣行とされる株主優待を利用して、世界的な関心事であるESG投資に対応する動きと言えそうだ。野村インベスター・リレーションズの1月末時点の調べによると、株主優待制度を持つ上場企業は全体の4割弱にあたる1441社。中身は金券やギフト券が最多だが、相当額を公益法人などに寄付する社会貢献型も126社を数える。前年比約2割増で、5年前に比べると7割増と増加が目立つ。
株主優待にESGの波 上場企業、「寄付」導入が2割増
株主優待の寄付制度をもってしてESG?というのは誰の定義なのかよくわかりませんが、どうやらかなりの割合で増えているらしい、というのはわかります。寄付の仕組みを選択肢として用意するのはよいことですが、これってESG/CSRと言えるのでしょうか。ちょっと私の考えをまとめてみます。
企業事例
実際にどのような株主優待があるのかいくつか事例を紹介します。
■味の素(味の素ファンデーション)
https://www.ajinomoto.com/jp/ir/stock/stockholder.html
■オムロン(京都大学・iPS細胞研究所)
https://www.omron.co.jp/ir/kabunushi/yutai.html
■日清食品グループ(国連WFP)
https://www.nissin.com/jp/ir/stock/preferential/
などなど。日経新聞の情報によれば他にも100数十社が、あるということですね。他にはどの会社のが有名なのでしょうか。多くの投資家にとって優待を寄付することにニーズがあると思えませんが、長期志向の個人株主の一部に人気という話も聞いたことがあります。
で、株主優待で寄付を始めた、味の素・広報部CSR部署に確認したところ、今年から始まった取り組みなので、社内イントラネットでも積極的に発信し賛同者を集めているとのこと。持株会がある会社では、従業員も個人投資家としてターゲットに入るんですね。そういわれれば確かに。ステークホルダーにもいろんな側面がありますよね。
まさに寄付というCSR活動に株主を巻き込む、良い言い訳ができましたね。今までの企業寄付は、企業組織か従業員もしくは顧客からのものが主体でしたが、金額は小さくとも投資家もその輪に加わると。
ステークホルダー・エンゲージメントの原理原則として「巻き込む」があります。いまっぽくいうと「共創」というのでしょうか。CSR的なエンゲージメントとしては新しい形ですね。
株主からの寄付の意義
さて本題。株主優待を通じた寄付に意義はあるのか。そのアウトカム/インパクトから考えるに“ほとんど意味はない”でしょう。しかし、このコミュニケーションの活動自体はとてもよく、ステークホルダーエンゲージメントに貢献していると思います。
実際に寄付を選択する人は企業ごとに全く異なると思いますが、たとえば、アサヒグループホールディングスの寄付実績をみると「年間170万円程度」みたいですね。アサヒグループホールディングスでこのレベルであれば、他の企業でも4桁はないでしょうから、寄付自体のインパクトで何かが生まれるとは思えません。
しかしながら、株主に選択肢を提供すること、そして、まがりなりにも株主から寄付という行為を獲得できたこと、これはエンゲージメントそのものであり、切った張ったの投資だけではなく、別側面から関係性を深めることができたということで、とても有意義なものであると考えられます。
フィランソロピーとしても会社組織として100万円を寄付しても大した事ありませんが、ステークホルダーが身銭を切って100万円を寄付するのは、ハードルは高いけどとても有意義なことです。まさにエンゲージメントです。素晴らしいですね。
で、ここまでのプロセスが明確になると、ステークホルダーエンゲージメントと呼んでもいいでしょうし、いわゆるCSR活動と呼んでもいいでしょう。
余談ですが、アサヒグループホールディングスですが、以前エノテカさんがグループに入ったので、ワイン好きの私の中では株が爆上げし続けています。
まとめ
まだ調べてないけど、寄付先のNPOの数を数えるのも面白そうですね。やはりユニセフとか外資系大手が上位なんでしょうか。それとも、自社の関連組織のほうが多いのでしょうか。
で、もっとアウトカムや企業価値向上に貢献させたいのであれば、マテリアリティと同じカテゴリの活動をする組織への寄付だったりすると整合性が高く、より社会的インパクトを高められるはずです。
そこまで考えている企業はないだろうなぁ。あったらすごいなぁ。寄付にもマテリアリティなのかと。そうすると企業価値向上と社会的価値創出の連動が進みそうであります。仕組みとしては、マッチングギフトに近い寄付プロセスなんでしょうか。
というわけで、このあたりに詳しい方や、調査データがありましたらどなたか教えてください。私も気が向いたら調べたいと思います。