バリューレポーティング

バリューレポーティング財団

SASBとIIRCが統合するってよ。

>>IIRC and SASB announce intent to merge in major step towards simplifying the corporate reporting system (英語)

先週驚きのニュースがありました。SASBとIIRCの統合組織名称は「バリューレポーティング財団」(Value Reporting Foundation)で、2021年半ばに設立予定とのこと。世間的には“出来レース”だったかもしれませんが、私としては驚きのニュースでした。自分の考えも整理したいので、記事にまとめます。

ガイドラインの整合性

2020年の非財務情報開示のガイドラインの動きを見ていて、2021年の注目はSASBとTCFDと思っていました。他のイニシアティブとの連携もこの2つが特に取れているようにも感じましたので。

SASBはTCFD対応の日本語ガイドラインも最近出したし、SASBが入っているCRD(コーポレート・レポーティング・ダイアログ)の所属組織(CDP、ISO、IIRC、GRIなど)のどこかとも積極的な連携があるだろうなとは予想できました。個人的にはGRIが有力と予想していたのですが、まさかIIRCとは。また、後追いの報道で、他のイニシアティブも、バリューレポーティング財団に合流するという話もでており、統一化規格の大本命になりそうな予感がします。

よくよく考えれば、SASBのマテリアリティとIIRCのマテリアリティの考え方も似ているし、投資家目線という基本スタンスが同じなので、GRIより統合しやすいですね。IFRS(国際財務報告基準)の財団も非財務情報開示の動きに加わってきたし(こっちの動きはまだ追いきれてません)、思ったより早い段階(2021年)で企業の情報開示に影響を与えそうです。

今回のリリースでも、明確に「IFRS Foundation と連携してます」としてますね。GRIの会長も“緊密に協力する”と言っているし、これはひょっとするとひょっとするかもしれません。とはいえ、出自の異なる団体が本当に意気投合しているかというと、そうでもなさそうですけど。

悪夢の再来なのか?

この10年の中で、ISO26000の登場時や、GRI/G4からGRIスタンダードに変わった時など、制作会社も事業会社も手探りとなり、情報開示の現場に混乱がありました。先進的な日本企業では、以下のような主軸ガイドライン遍歴でしょうか。厳密にはGRIスタンダードや他もありますが、ここでは割愛。

環境報告 → ISO26000(2010年) → GRI/G4(2013年) → IIRC/IRフレームワーク(2016年以降から本格化)→ バリューレポート?(2022年?)

バリューレポーティング財団の動きは、IRフレームワークが登場した時のように数年かけて浸透し、一気に爆発する現象になるのでしょうか。となると、あの時の再来のような出来事が起きようとしています。(起きなかったら謝罪するので連絡ください)

ESG評価機関や情報プロバイダーの買収&統合が2019〜2020年で一気に進みました。非財務情報開示ガイドラインの統一化に向けて、組織の統合&再編も進むのでしょうか。これは興味深いです。色々と余計なことを妄想してしまいます。これはひょっとするとひょっとするかもしれません。こういう時代が動くかもしれない瞬間はワクワクしますよね。

フレームワークの内容

私はIRが専門ではないので、ニュースリリースや他の報道を見る限りにはなりますが、IRフレームワークが中心になりそうな感じです。

SASBは2月に、実務家向けに「SASB 実施入門書」(Implementation Primer – Japanese)を出しています。英語版だと、だいたいわかってもニュアンスがわからないという方(主に私)にはとてもおすすめです。これらをみても、IRフレームワークに近いといえば近いかなと。

ちなみに、現時点で統合報告書の名称を「バリューレポート」としている会社、いくつもあるんですね。先見性があったということでしょうか。今後「統合報告書」ではなく「バリューレポート」という名称になるのでしょうか、どうでしょう。個人的には、何を統合すればいいかわからない人も多いし、読者としてもわからない人が多いので、要素を名称にするのは、よいとは思います。日本語訳だと「価値創出報告書?」とかでしょうか。

統合報告書という名称がなくなることはないでしょうけど、早ければ2021年夏以降発行分の統合報告書から名称変更ラッシュが始まるかもしれません。2022年発行分の統合報告書の一部は、バリューレポーティング財団の新ガイドライン?をある程度意識した形になるでしょうか。

いずれにしても、統合報告は、価値創造の話なのは従来通りですので、話題に影響されすぎないようにしないといけませんね。そもそも経済的・社会的な価値創造ができない会社って社会に必要ですか?という話ですので。

まとめ

私は2018〜19年あたりから、統合報告書はより価値創造を中心とした具体的な開示をすべき、としていましたが、まさかSASBとIIRCが価値創造を軸とした枠組みを作る方向とは…。

もう、世界の動きが早すぎて、私も専門家と名乗っていますが、動向をキャッチアップするのがギリギリになってきた感じがあります。ですが、がんばってこちらもウォッチしていきます。

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