味の素CSR

復興ごはん

今回の読書メモは、「復興ごはん」(味の素グループ 東北応援 ふれあいの赤いエプロンプロジェクト、小学館)です。

献本いただき読ませていただきました。正直、この手の本は買おうと思ったことは一度もありませんでした。企業が出版・編集する本って、つまらないんですよ。自画自賛が気持ち悪いというか。

そんな偏見はあったものの、本書ではそういったことは感じませんでしたね。最初は復興支援と関係ないただのレシピ本かとおもいきや、2011年から続く、味の素グループの復興支援のストーリーが読み応えありました。

そもそもこのプロジェクトが独りよがりにならなかったのは、NPOや自治体など様々なセクターをまたいだ形になったからかもしれません。企業単体で支援をしていた所は、継続もできずすぐに撤退しましたし、社会的な広がりもなく終わるものが多かったですよね。

CSRという文脈だけですが、現地で色んな活動をしている企業の方には申し訳ないと思うのの、実際、5年たったら結構廃れましたよね。CSR活動は継続が重要と言われているのにも関わらず、です。難しい課題です。

で、本書にある『被災地域で社会課題の最前線に立ち向かうみなさんの「声」を紡いだのが、この本です。この記録が、災害復興期の「食」を考える、ひとつのきっかけになれば幸いです』というメッセージが内容をよく表現しています。

ひとつひとつのストーリーは、涙なくしては語れません。誰かの死に直面した、もしくはそれ相応の場面に出くわした人間は、分断された地域コミュニティの中で、心を開くのは容易ではありません。しかし、その課題を解決しようと、動いた人たちがいると。そのひとつが味の素だった、と。

僕も東日本大震災直後に現地に支援にいきましたが、一番地域の方の本音が出た時は「ごはんを食べてる時」だったんですね。本書を読んで、それをふと思い出しました。食に関わる企業だからできること、ってあるんですね。コミュニティのニーズを汲み取り、ピンポイントでサポートしていたというのも印象深い話でした。

唯一本書で残念なのはタイトルでしょうか。「復興ごはん」はイメージはできるものの「ごはん」そのものは復興と直接関係ないし(ごはん→コミュニティ活性化→復興という流れなので)、もっと本の内容をイメージさせるものがあったと思うけどなぁ。ちょっともったいない気がします。

アフリカ・ガーナでの「栄養改善プロジェクト」については『CSVを超えるオリジナリティを作る–味の素「ガーナ栄養改善プロジェクト」』という記事でも紹介しましたが、僕のイメージでは、これの日本・東北版ですね。

医療・医薬では、「アクセス・トゥ・メディシン」(薬へのアクセス)みたいな形で、現状、薬が届かない人たちにも薬を届けよう、みたいなCSR活動をしている人たちがいます。これの栄養版でもあります。東北で、ガーナで、栄養改善等の活動を通じてコミュニティ構築のプロになりつつある味の素。

味の素以外の復興支援を積極的にしていた企業は、そのノウハウを横展開できているのでしょうか。本業を通じた「コミュニティへの参画」はこれからのCSRの本流ですから、そのノウハウをうまく利用すべきです。

というか復興支援で企業がすべきことって、キレイごとだけでは当然継続なんてできませんし、こういうノウハウをコストをかけてでも得ることにメリットがあったと思うのですが。そういう視点でいえば、社会的価値を別のルートで経済的価値に変える“変換装置”が企業とも言えます。

食に関わるビジネスをしている企業担当者は、次に日本で大きな災害が起きた時に支援が後手後手にまわらぬよう、本書を読んでおくことをお勧めします。

ちなみに、本書の中心プロジェクトである「ふれあいの赤いエプロンプロジェクト」の詳細は以下のページからどうぞ。プロジェクトの動画や、2014年からは活動レポートなどが閲覧できます。

ふれあいの赤いエプロンプロジェクト

※画像は「味の素グループ サステナビリティレポート 2015」より引用

復興ごはん

いっしょに作って、いっしょに食べよう!

「ふれあいの赤いエプロンプロジェクト」は、味の素グループが2011年10月から継続している東日本大震災の復興応援活動です。岩手・宮城・福島の3県を中心に、地元の行政、社会福祉協議会、食生活改善推進員協議会、NPO、大学、仮設住宅の自治会等と連携し、仮設住宅の集会所等で料理教室をはじめとする活動を実施しています。

本書では災害復興期の「食」を「復興ごはん」と捉え、大災害を乗り越えた方達が、復興の過程でどんな「ごはん」を記憶に留めているのか。また、「復興ごはん」を通じて、企業やそこにいる人間がどのように被災地の方達に寄り添ったのか。被災地域で社会課題の最前線に立ち向かう人々の「声」を紡ぎます。