CSVのバウンダリーとマテリアリティ

最近、「CSRからCSVへ」とか、「社会貢献からビジネスへ」というCSRの一部しか捉えていない、オピニオンをよく見かけます。

そんな中『「CSRとCSVに関する原則」について』という、昨今のCSV論に対する警鐘となる記事を読みました。偉い先生たちの多くが署名しています。

僕はCSV反対派というわけではありませんが、多くのCSR関係者が披露する「CSV論」のアンチではあります。広告やプロモーションやウェブ界隈からCSRに辿り着いた人に多い印象です。

本記事では、僕自身の考えをまとめてみます。

ちなみに、CSV(Creating Shared Value)とはそもそも何?という方は以下のまとめ記事をどうぞ。

マイケルポーターの戦略CSRとCSV(Creating Shared Value)を深く学ぶための良記事10選[2013年版]
マイケルポーターの戦略的CSR、CSV(Creating Shared Value)を考察するための良記事22選[2012年版]

CSVの実証とは?

「領域を超える経営学」の著者、琴坂将広氏によれば、CSVは十分な事実や研究によって支持されているわけではないので、今の実現可能性が低いであろうとしています。

日本人のCSR関係者はCSVが大好きなようですが、世界的にみればまだまだ新しい概念であると。概念と言うか、むしろ“提言”のレベルじゃね?って話です。勝手に「この企業のCSRはCSVの事例だ!」というのは良いですが、そうやって枠におさめようとするこで、狭義のCSRに突っ走る可能性もあり、僕は良い傾向だと思えません。

以前、とある出版社の方(CSRに詳しい人)と話をさせてもらったのですが、「そもそもCSRを何のためにするかわかっていない人たちいますよね」という話題に。

CSRはダメだからCSVしようという人たちに限って、「では、そもそも御社でCSRってどう定義していますか?」とか「ぶっちゃけCSVって何のためにするんですか?」と聞いても答えられなかったりします。

言葉の定義の話はほどほどにして、もっとステークホルダーの方角を向いた議論をすることが重要かと思います。

思考に歴史あり!マイケルポーターの「FFA-CSR-CSV(creating shared value)」の遍歴再考
社会問題の解決と利益の創出を両立 企業に新たなビジネス機会をもたらすCSVとは(マイケル・ポーター氏インタビュー:2013)

CSRとしての人材活用

昨今のCSRのトレンドとして「人材」があります。

CSVはケイパビリティといいますか、企業の内側の話はほとんど出てきません。

それでも、昨今では人材(ヒューマンリソース)に関するCSR項目は増え続けるばかり。でも、企業からみれば人材はあくまでも企業理念を果たすためのツール。人材へのアプローチは、企業のとして、社会に責任を果たしていると言えるのでしょうか?

つまりは、人材へのアプローチとか、CSVとか、そういった部分最適では企業が社会的な役割を果たしているとは言えないのでは?ということです。

マテリアリティ(重要指標)という考え方がCSRにはあり、フォーカスすべきポイントが見つけよ、といわれていますがCSVという戦略にフォーカスするのは間違いで、CSVで何にフォーカスするか、を考え実行する必要があります。

CSVだけでは、CSRのすべてを考慮することができません。あくまでも「CSR戦略理論の一つ」として考え、企業活動をデザインしていくことが必要なのだと思います。

“CSRからCSV(Creating Shared Value)へ”が成り立たない3つの理由
CSRの現場で考える“良いCSR活動”とは何か

まとめ

いかがでしたでしょうか。

CSVって、ただの戦略の一つですよね。それ以上でもそれ以下でもなく、CSRのような国際的なルールでもないわけです。

ここ重要ですよ。CSVはあくまで、ポーター教授らの提言であり、CSR関連の国際ルールとはまったく別のもの。むしろ、グローバルな企業活動を行う企業には、自分たちの考えがどうこうではなく、社会のニーズも加味した活動が求められています。

CSVという概念は、CSRに対する新しい視点を提供してくれるフレームワークであり、新しい価値観の提言でもあります。

当ブログを購読していただいているあなたはないと思いますが、未だにCSRとは、雇用や納税だという人がいます。

離職率が高い、いわゆるブラック企業の雇用が増えることで幸せになれる人はどれくらいいるのでしょうか? ウチの会社は納税をCSRだと思っています!というのであれば、社会的な責任を果たすために、節税なんてせずに税金を1円でも多く払ったらどうですか?

近視眼的で一方的なCSR活動で、社会に存在する企業として責務は果たしているのでしょうか。

そもそも御社が社会に存在しないほうが、苦しむ人が少なく、地域社会全体がハッピーになるなんてことになったら悲しいじゃないですか。

まっとうな経営。これこそが、CSRの根本的な話だと最近は感じています。

追記(4月26日)
中小企業白書(2014年版、2014年4月25日、中小企業庁発表)では、「CRSV(Creating and Realizing Shared Value)」という単語が使われております。使用事例は極端に少ない単語をなぜ使っているのかわかりませんが、官庁が出している資料にもCSV的なワードが使われていることは、様々な示唆があると思われます。