CSR報告書

CSR報告書を作り替える

世間的にはCSR報告書を発行したことがない企業のほうが多いですが、何年かCSR報告書を発行している企業の課題として顕在化するのが、「統合報告書に移行すべきか」という課題と「制作会社を移行すべきか」という課題です。

移行(スイッチング)はなかなか大変なことです。それなりにコストも時間もかかります。だから、その移行の意義が評価されないとCSR担当者は面倒くさがって適切な移行をしないことがあります。当然ですね。担当者のせいではありません。

そんなこんなで、本記事ではスイッチングコストという視点で、「CSR報告書制作会社の移行」、「CSR報告書から統合報告書への移行」の2つの移行問題について、まとめます。

CSR報告書制作会社のスイッチ

あるCSR評価の高い大手企業のCSR担当の方は以前「CSR報告書制作会社を変えるのは面倒だ」と言ってました。

昨年サポートをしてくれた会社のほうが、何かとわかってくれているので楽ができます。制作会社を変えると、ゼロから色々伝えなければならないので、数十万円レベルのコストダウン程度なら、乗り換えないほうがいいですよね…ってなる気持ちもわかります。

また別の企業のCSR報告書作成の担当の方は、「制作会社の方でCSRに詳しい人がいない」ということをおっしゃってました。じつは、こういう企業のコンペとか相談とか受けることが多いです。今(昨年分の制作会社)の会社に“不満を持っている”のです。発注側も気付かないわけないと思うのですが、CSR報告書を作り慣れていないと、制作会社に振り回されることになります。そんな所に発注してしまった担当者さま、ご苦労様です。

実際、CSR支援をする会社、特に印刷系などの企業はCSRを知らない人が担当になることのほうが多いようです。(もちろん詳しい方がいる印刷会社もいくつもあります)

大手企業や上場企業でもそういう企業に制作を依頼していることも多いらしく、内容や実際の活動に関するディスカッションも進まないし、企業価値向上に貢献するCSRコミュニケーションなんてもってのほか。

そういう企業のCSR担当者がかわいそうでしょうがないです。この領域では、制作のプロが成果を挙げるプロとは限りません。それだけCSRコミュニケーションって専門性というか、情報やノウハウが必要なのです。

CSR報告書/統合報告書は、パンフレットとかウェブ制作をしたことがある企業であれば請け負うのはそこまで難しい話ではありません。でも、そういう「作ろうと思えば作れるよ」というレベルの企業がCSR報告書制作事業に参入した結果、発注企業側が困ってしまう案件が増えてきていると。下手したら、何となくの人も含めて、百社単位でこういう被害を受けている企業ってあると思います(当社調べ)。

別に、僕に発注していただく必要はありませんが、CSR報告書制作の現場担当者(会社ではないですよ!)がCSRの知識がないなと思ったら、迷わず次の年はコンペしましょう。

スイッチング・コストを嫌がり、本質的な価値を逃していてはもったいないです。特に上場企業はね。しかし、これは未上場企業や中小・中堅企業も同じです。そうじゃないと、担当者のあなたが苦労するだけですよ。

参考記事
CSR報告書の未来は、統合報告ではなく会社案内にある!?
CSR報告書の発行状況とトレンド–世界・日本ともに増加傾向

統合報告書へのスイッチ

さて、一方統合報告書ですが発行にはコストと時間がかかります。コンテンツ制作には、今まで直接的な連携がほとんどなかったであろう、IRやPR部門との連携も必要です。

日経平均225社などを中心とした時価総額が大きい企業の統合報告書への移行が顕著なようですでに200〜300社が制作していると言われます。でも、僕は他の上場している3千数百社は結局、“統合報告っぽいレポート”で終わってしまう気がします。この予想は多分当たるで。

このままいけば、CSRリテラシーがハイレベルなほうから500社程度で頭打ちでしょう。だってCSR報告書を出している企業がそもそも全上場会社で800社ないらしいですから。すべての企業がスイッチするとは思えませんし。

監査法人やCSRコンサルティング会社・制作会社は統合報告書をプッシュしていますが、スイッチングコストを大きく超える成果って出せてますかね? 形の上では統合報告書でも、中の人に聞いたらCSR活動が全然進んでいない、という報告だけ充実して社内外のステークホルダーを誰も幸せにできてないような、本末転倒の出来事が現実には多く起こっています。社名は言いませんが、有名な会社でも全然ありますよ。

統合報告書/CSR報告書ありきでCSRコミュニケーションを進めるのは良いですが、本来重視すべきCSR活動そのものが疎かになる(そもそもやろうとしない)のはいかがなものかと。

CSR報告書は義務(法定開示)でもないし、統合報告書を含めて、今一度、その目的を明確に作成すべきでしょう。統合報告書がもてはやされるのは、「上場企業がCSR報告書か統合報告書のどちらを出すべきか」という二項対立が議論の前提にあるからです。そりゃ統合報告書にしましょうってなるわ。

でも、CSRコミュニケーションのセオリーでいけば「ステークホルダーごとにメディアを分ける」です。だから、統合報告書を発行してもCSR報告書(社会・環境報告書)を残す企業があるのです。

たしか、2015年の統合報告書発行企業の3割近くは、CSR報告書(もしくは類似する冊子、コンテンツ)も合わせて発行しているはず。このパターンは2014年から増えているので、「上場企業がCSR報告書か統合報告書のどちらを出すべきか」という課題自体が収束する可能性が大きいと思われます。

そろそろ、「ウチは上場しておりますので、そろそろ統合報告書に移行します」という思考停止はやめましょ。考え抜いた結果の選択ならまだしも、日本人的な横並び意識での選択で結果にコミットメントなんてできません。誰にささやかれてるが知りませんが(ホントは知ってるけど)、その統合報告書は誰が見て、その読者のどんな反応を引き出せているのですか?

CSRコミュニケーションは特に定量化が難しいので、プロセス(報告書制作)ではなくアウトカム(読者の反応)によりフォーカスして意味のあるものを作っていきましょう。

ちなみに、一部では統合報告は会計基準に近い形で統一され法定開示とする、なんて動きがあるみたいです。そうなれば、またCSRコミュニケーションのメディア戦略が変わってきますね。トレンドに関しては、制作会社の方と意見交換・ディスカッションをしっかりしていきましょう。

参考記事
統合報告書アワード受賞企業19社(2016)
日本企業トップクラスの統合報告書30事例(2016)

まとめ

CSR報告書制作会社のスイッチング、CSR報告書と統合報告書のスイッチング、どちらにも共通する重要課題は「コストと成果」です。

安ければ良いというわけでもないし、“作っただけ”で評価もされないし、反応もないというものでもよろしくありません。

僕が言うのもアレですが、CSR報告書のトレンドや傾向を内容の中心として作成するという書き方・作り方が悪いわけではないものの、本質的な価値を表現できるようなものを作っていきましょう。

難しい問題であることは重々承知ですが、CSR報告書制作に不満・不安を持っているCSR担当者と何十人もお会いしたことがあります。そんな方々を助けたいと思い、その気持ちだけで(!)記事にまとめました。今年(来年度版)はぜひ、スイッチングにチャンレンジし、成果にコミットしていきましょう!