ANA-CSR
(ANA・マーケティング室マーケットコミュニケーション部の深堀昂さん、汐留本社にて)

マーケティング部主導のCSR活動!?

CSRでもあり、マーケティングでもあり、プロモーションでもある、全日本空輸株式会社(以下、ANA)の、「BLUE WING」プログラム (以下、Blue Wing)。

チェンジメーカー(社会起業家)の航空移動をANAがサポートし、顧客やユーザーもSNSなどを通じ支援に参加することができるのがポイントとなっています。こういうプログラムって、ありそうでなかったですよね。(詳細:How To Join)

そこで、今回取材させてもらったのは、「Blue Wing」発案者のANA・マーケティング室マーケットコミュニケーション部の深堀昂(ふかぼりあきら)さんです。

僕が注目したのは、この取組みがマーケティング部門主導で行なわれている、という点です。この手の話は、通常CSR・社会貢献部門主導だと思うのですが、そこには様々な理由がありました。

「Blue Wing」は、深堀さんが入社2年目(2010年)に考えていたものなので、2014年のパイロットプログラム開始まで4年かかっているそうです。その4年間で、どうやって社会に貢献するプログラムをマーケティング部が主導することになったのか。

社会を巻き込むマーケティングに興味がある方、CSR部や今後CSR部門に行きたいという方、業務時間外で新規事業立ち上げを目論む企業内起業家の方必見のインタビューです。

アイディアが降りてきたのは“突然だった”

ーーご経歴をお聞かせ下さい。

深堀昂さん:2008年にANAに総合職として新卒入社しました。ANAの総合職は、事務系・技術系・パイロット・客室乗務員などがあります。私はその中でも運航技術に関る仕事をしたくて技術職を選びました。ほとんどの技術職は整備士などになりますが、以前からの目標であった、パイロットの操作手順マニュアルの作成などをする部署に異動することができました。4年間ほどいました。

それから2年は訓練企画という部署にいきました。パイロット訓練のプログラム企画などが業務で、ドイツの航空会社であるルフトハンザと提携し、新たな訓練プログラムの開発・導入を行ないました。若手だったにもかかわらず、色々任せていただき、非常に良い経験をさせてもらえたと思っています。

その後、「Blue Wing」のパイロットプログラム開始後、2014年4月にマーケティング部門に異動となり現在に至ります。この部門は2年目です。「Blue Wing」以外の業務では、国際線や海外向けのプロモーションなどを担当しています。

今取り組んでいる「Blue Wing」は入社2年目(2010年)から考えていたものなので、2014年のサービス開始まで4年くらいかかっています。

ーー「Blue Wing」のアイディアを思いついたのはいつ頃ですか。

入社当時(2008年)の経営理念の中に「世界の人々に夢と感動を届ける」というのがありました。私の飛行機に対する想いと非常に近かかったのを覚えています。入社してからずっと、今もですが、この「世界の人々に夢と感動を届ける」をどうやって実現するかを日々考えています。

そんな想いがあった、入社2年目の冬(2010年)の時です。たまたま六本木を歩いていた時、“グローバルな視点で社会を変える”という趣旨のセミナーというものがあるのを知り申し込みました。この講座を通じて後に元マイクロソフトのジョンウッド(NGOルームトゥリード代表)さんと出会い、人生観が変わることになります。

ジョンウッドさんは、途上国に図書館設立をするNGOの代表で、1年の内相当数のフライトをしており航空移動費が気になっていました。調べたら8千万円近く年間で使っていたんですよ。

その時に「Blue Wing」のアイディアを思いついて、その航空移動をANAが支援し、ユニークなストーリーを持つジョンウッドさんがANAのプロモーション支援をしてくれたら、お互いにメリットあるじゃないか、と。ジョンウッドさんにも面白いと言ってもらえました。今年度はジョンウッドさんとご一緒できませんでしたが、勉強させていただきました。

ANAとしては社会貢献的な取組みになりますが、仕組みとしては完全にマーケティングです。営利と非営利のビジネス・タイアップです。その当時のアイディアと、基本的な形は今も変わりはありません。ですので、今も主導しているのは、CSR部門ではなく、マーケティング部門となっているのです。

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社会貢献に見返りを求めるということ

ーーどのように話を進めたのですか。

当時、企画をCSR部門にもっていったのですが、社会貢献活動に対して経済的リターンを求めるのは難しいのでは、という意見をもらいました。社会貢献をネタとしてプロモーションをしていいのだろうか、と。結果ダメで落ち込んでいたのですが、たった1回の失敗であって、終わったわけではないと。

それからも積極的に動き回り、社内外の様々な方のアイディアやサポートをいただき、CSR活動としてではなく、ブランディングや、ロングタームのマーケティングとする方向でアイディアを再構築していきました。

その後、2012年12月に役員プレゼンを通過して正式にゴーサインをもらい、2013年4月にプロジェクトチームがマーケティング室に発足。マーケティング部で担当が1人ついて実際の仕組み作りがスタートしました。

そこから勤務配慮という扱いで勤務時間内でも「Blue Wing」の活動ができるようになり、2014年2月からはパイロットプログラムがスタート。2014年4月からは晴れてマーケティング室に異動し、正規業務の1つとして取り組んでいます。そして今月の2015年7月に日本語版スタートという流れです。企画から実施まで4年という時間がかかりましたが、絶対諦めたくなかったので、まずはほっとしています。

巻き込んだ“責任”と仲間たち

ーー企画から実施まで4年という長い時間がかかっていますが、この新規プログラムのために動いたモチベーションはどうやって保ったのでしょうか?

一番大変だった時期は2011年です。企画から2年目であり、これから盛り上げていこうという時に起きた東日本大震災。まさに地震の時に「Blue Wing」のプレゼンをしている所でした。新規提案を通すどころではない状況となり一旦ストップしました。

2010年当時からずっと業務時間外で活動していたので、正直、肉体的にも精神的にも大変な時はありました。しかし提案して社内外の人間を巻き込んだ以上、責任があります。ダメだったから「ハイハイでは諦めます」と、提案者が簡単に諦めるわけにはいかない。

そういう不安感とかプレッシャーが一番強いのは、私の場合、夜の寝る前ですね。もう泣きそうになっていました。そんな時にはいつも、実現できた時の“ゴールの絵”を思い浮かべていました。

世界の社会課題解決をするチェンジメーカーの支援することで、世界の人々に夢と感動を届けることできる。その現場ではきっと多くの笑顔が生まれる。その笑顔を起点に、このプログラムがきっといつか、ANAの“挑戦の象徴”にもなるはず。

「Blue Wing」によって、チェンジメーカーが、世界を飛べば飛ぶほど社会が良くなっていく。さらに、現在そして未来のお客様の一部の方が「Blue Wing」の応援者になっていただけるようにしたい。

そんな未来をイメージして、今の大変さはたいしたことではないと、不安を払拭していました。あと社内外に応援者がいてくれた、というのも大きいです。一緒に動いてくれたメンバーや先輩たちには本当に感謝しています。

ーー社外の応援者や仲間ってどうやって見つけたらいいのでしょうか。

私の場合はセミナーがきっかけでした。どこのセミナーに参加しなさい、というのはありませんが、日々インプットを意識していると自然と情報が入ってくる気がします。雑誌やウェブサイトでの広告、街のポスター、ソーシャルメディアで流れてくる情報など。

セミナー主催側ももちろん、ターゲットになりそうな人に情報を届けようとしてくるので、情報に対するアンテナを高くしておけば、きっと出会える気がします。社外ネットワークは本当に重要です。まさに「Blue Wing」も社外の様々な方やネットワークの中で育ててきた部分もあります。

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世界を変える“仕組み”を作る

ーー今のCSR部門の反応ってどうですか?

アニュアルレポートにも載せてもらっていますし、歓迎してもらっています。実際、社会課題解決に貢献するしANAだからできるプログラムでもあると思っていますから。

計画当初は、CSR部門からあまり良い反応をもらえなかったのは事実ですが、企画の詰めがまだ甘かった部分もありますし、今となっては、応援してくれていて非常に心強いです。

ーー今後の目標について教えてください。

「Blue Wing」は期間限定の取組みではなく、今後も様々なプログラムを通じ、大きく育てていきたいと思っています。まだ本格的にスタートして1ヶ月たってないので、3年後、5年後をどうみているかというのはコメントしにくいですが、この仕組みをどんどん広げていきたいとは考えています。

例えばですけど、ANAがメンバーでもある「スターアライアンス」という航空連合がありまして、こちらでも「Blue Wing」の仕組みが展開できれば、飛行機とは、もはや“飛べば飛ぶほど社会が良くなる”ものであるという形なっていくでしょう。飛行機の意義はもともと、移動に関して誰かの“困った”を解決するためのもの、でもあるからです。

「世界の人々に夢と感動を届ける」はANAのミッションというより、航空業界全体のミッションになっていくイメージです。社会起業家の行く場所は途上国も多く、1社のエアラインでは限界もあります。ですから世界中の多くのエアラインが協力し、社会起業家をトータルで支援し、社会を良くしてくことが夢ですね。

飛行機が、人や物を運ぶ乗り物としてだけではなく、夢や希望も一緒に運ぶライフタイル・ツールになり、お客様にそのストーリーや課題解決が進んだ社会を提供できればと。これがANAらしいビジネスでもあり社会貢献でもあります。

まだ始まったばかりですが、この「Blue Wing」の社会起業家を支援するストーリーに共感してくださる方がいれば、サイトにいきシェアをして広げていただきたいです。

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(文:安藤光展、撮影:安藤光展)